最強集結編—機巧城4


 エンド達はその後も何ら問題もなく進んだ。もちろん何ら問題はないと言っても、本当に何もなかったわけではない。

 先刻のように銃口は突きつけられたし、トカゲや蜘蛛、兎の機械が接近してきたりもした。だが、そのいずれもがエンドにとって脅威とは呼べない程度の木偶に過ぎない。


 ————つまらん。


 内心でそうぼやくのも仕方のない事。先から相手が行っているのは、意味のない銃口を出しては陸上生物を模した機械を送り込む。たったこれだけなのだ。何度やっても無駄だだろうに、これでは馬鹿の一つ覚え。

 すでにリィルも反応が無くなってきているくらいには同じ展開が繰り返されているのだ。


「これ全部の部屋見て回るのにどのくらいかかるのかしら?」

「敵の出方次第だろう」


 ——この先も今と同じペースならあと1時間弱も有れば十分。

 そう付け足して、他の部屋よりも厳重に閉ざされた扉を見つける。

 扉の横には見慣れない言語がボタンとして羅列されたタッチパネルのような物が立て付けられていた。つまりこれはパスワードだ。


「ここまで厳密に設置された扉なら奥は……」

「ああ。相当重要な部屋なのだろうな。見ない手はない」

「でもどうするのよ? パスワードなんて私達知らないじゃない。それらしいものだって見なかったし」

「オマエは何を言っている?」

「はぁ? 何って、この扉を開ける手段を……」


 エンドは思う。

 なぜその話をしているのに「パスワードを見つける」つもりで居るのか。普通、大多数の人間は手がかりも無しにパスワードを見つけようなどとは思わないだろう。そんな事をしていれば日が暮れる。


「いいか、ボッチ女」

「ボッ——!? 絶対にアンタの方が——」

「こういう状況の時は『開けよう』と考えるのではなく、『壊そう』と考えるのが世間並というやつだ」


 言い終わると同時、巌の扉に向かいエンドが乱暴な前蹴りをお見舞いする。

 すると、


「へ?」


 小爆発とも表せる威力によって、扉は奥へ奥へと逃げるように飛ばされた。嘘でしょ!?——とリィルが歪んだ扉に心配したような目を向けながら、言う。


「あんな扉を壊そうって考えるのは現鬼神アンタらだけだから」

「ふんっ。だとしたらアダマスこの世界の連中は腰抜けばかりだな」


 ————いやアンタが異常なだけだから安心しなさい。

 ツッコミを入れれば切りがないのは子供でも理解できる。無視しよう。これがリィルの最善手のはずだ。


「まったくホント意味わかんないんだから」


 疲れた様子で足を進ませるリィル。そしてその先で——ぎょっと足を止めた。


 まず初めに見たのは血の付着した手術台。その複数ある中のひとつ——灼然いやちこに紫色に腐敗した遺体がある。顔は性別の判別ができないほどにぐちゃぐちゃだ。だが、その中で唯一本来の輝きのままであるものがある。


「聖堂騎士の……鎧……」


 そう、腐敗した体とは別に鎧だけは綺麗なままだった。


 ————あの騎士どもなら最近殺されたのは間違いない。だが妙な腐敗だ。魔法を使ったのだろうが、その行為に何の意味がある?


「ひどいわよ、これは……」

「存外ヤツも不本意な結果だったのかもしれんな。この騎士も本来ならオレ達の前に現れた人型機械木偶と同じようになったのだろう」


 つまるところ、失敗、である。その結果がコレなら憐れむべきかエクスの人形に堕ちなかった事を喜ぶべきか難しいところだ。

 リィルが無意識にあまりの残酷さに目を逸らした。なんとなくその視線を追ったエンドは……気づく。


「ほう、コイツは——」


 長く三つ編みにされた赤髪の少女——カーマイン=スカーレット。彼女また同じく、手術台の上で横になっていたのだ。

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