最強集結編—機巧城6
振り下ろされた炎の一刀。灼熱を孕んだ風がリィルと、その下にいるマインに当たろうした時。突如として半透明の薄い壁がマインを包み込むように現れた。
それは彼女の持つ、数少ない
やがて熱が消え去るとリィルは叫ぶ。
「アンタ何やってるのよ!?」
「見ての通りだ」
炎剣の標的たるエクスはなんと手堅いの無いことに真っ黒に焦げて倒れ伏していた。
ふむ、と考え込む様子を見せるエンド。
「この程度か……これならまだあの時の羽虫の方がよっぽど——」
「後ろッ!」
リィルの言葉と同時のタイミング。背後、天井から気配を察知したエンドは振り返る勢いを利用して敵の顔面へ拳を叩きつける。
だが相手もただで死ぬ気はないようで、殴られながらも握りしめる銃を向けて——膨大なエネルギーを発射した。
「鬱陶しい」
しかしエンドは息を吹いてそれと相殺。
そして、二人目のエクスに驚きながら思う。
————二人? 今
今飛びかかってきたエクスは囮だ。近くにエンドの命を刈り取ろうとしている輩がいるはず。そうでなくては無茶に接近する必要はない。
耳を澄ませて、物音に集中する。
一定に保たれたリィルとマインの呼吸音。壊れたエクスの機械音。先刻放射された時のような聞きなれない甲高い音——これだ。
音が鳴る方向へ詠唱を始め、
「〈
エンドの体全てを飲み込める程大きい炎球が放たれた。
その炎光に照らされて、密かに銃口を向けていた者の容姿が見え始める。
「エクスッ!? コイツ何人いるのよ!?」
肝心のエクスは諦める様子を出さずに、銃口から先と同じ一撃を放射した。とはいえ、その威力なら文字通り身をもって知ったエンド。
断言できる。あの程度では〈
「アイ、
言葉の途中で飲み込まれたエクスは〈
————まだ終わりではないだろうな。あの感じ……本気でオレに勝つ気でいやがる。
残念ながら今の段階ではエンドに敗北はない。それこそ天地がひっくり返っても。だが今までのがエクスの全力だとは思えなかった。
「終わっ、たの?」
「まだ生きているだろう。本体がいるのか、それともアレと同じのが蛆ほどいるのか」
「そう……」
「まあヤツも戦略は変えてくるだろう。オレを見たんだ。幾ら雑魚を送っても戦況は停滞、いや——オレに押されるだけだからな」
さて、どうしたものか。
次はこう上手くいかないはずだ。
エンドが部屋を出ようと、扉をくぐる。
「待ちなさい。私を置いてどこに行くのかしら?」
「ヤツを殺しに行くだけだ。着いてきても良いが
「…………」
リィルについては置いておいて。マインに関してはリィルが守りたいと吠えているだけでエンドはどうとも考えていない。
仮にリィルがエンドについて行き、そのままエクスと交戦した場合——次こそ十中八九マインは死ぬ。だからと言ってエンドに向かわせなかった場合、エクスには必要以上の準備時間を与える事になる。それは一番避けたい所だった。
どうする? と、リィルが内心で思案する。
————このままエンドと離れたらマインさんが危ない。私だけだったら……
こんな時、自分の能力の欠点に悔やまれる。どうして彼女自身一人しか守れないのか。理由に心当たりはある。だからこそこんな性格の悪い能力を渡した奴らが憎かった。
だから、これは奥の手だ。果たしてエンドが食い付くかも怪しい、あやふやな奥の手。本来リィルが別れ際に言って、エンドとの縁をもう少しだけ長くさせるための。
それを、ここで使う。
「エンド。アンタに情報をあげる。だからもう少しの間だけ私とマインさんを守りなさい」
「情報? この期に及んで何を言い出すかと思えば」
「あら?
食いつけ。緊張を隠しながらそう願った。
「いらん。いかにこの世界が広くとも、数多いる現鬼神を見つけることは出来よう。今回のようにな」
「確かにアンタなら出来そうね。でも、前回や今回のようにアンタを心の底から楽しませる事ができる奴とは会えるかしら?」
「何——?」
————この女……では何か? 自分ならオレを楽しませる
「私がアンタと会う前、いたのよ。私の盾にすらヒビを入れた化け物が」
「——ッ」
あからさまに反応を示したエンド。リィルは内心でニヤリと笑った。
「それ以上虚偽を吐くな。不愉快だ」
「虚偽じゃないわよ。それでどう? 少しは取引に興味を持ったかしら?」
「いや、いやありえん。オマエの盾を破ると言うことは————あり得ない。それを実行できるのは……いや、だが、一つ聞いてやる」
「……?」
————なんでそんなに動揺しているのかしら……エンドらしくもない。
彼女の些細な疑問などは当然耳に入らず、エンドは続ける。
「オマエの盾にヒビを入れたのは——竜か?」
「へ? え、ええ……でもなんで——」
「そうか」
その途中、リィルの言葉を酷く抑揚のない声でエンドが遮った。
否、眼前にいる男が放つ圧倒的巨悪の波動が、他でもない彼女の動きを、呼吸を、思考を停止させてしまった。
そこにいるのはエンドではなく——紛れもない悪虐の始皇帝だったのだ。
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