最強集結編—エクス=ギアルス4


 データは土魔法で作られた簡易的な東家の影——内部に設置されたテーブルに隠れて尊敬している上司と敵を観察していた。


「——っ」


 思わず息を呑んだ。

 どうやら敵の正体は人間では、否。生物ではないようだ。光を反射する傷ひとつない鉄の塊。よく眺めてみれば、騎士達を殺し回る歩く鉄は幾つもの脚で動いている。


 あれは……


 ————蜘蛛……?


 そう、蜘蛛だ。あの鉄は蜘蛛の形をしている。

 重そうな見た目なわりに、すばしっこく動き回るその機械に騎士達は反応すら出来ずに心臓や脳天を鋭利な脚で貫かれていた。


 やっぱり自分だけがこうして隠れているのは嫌だ、とは思うものの出たところで無駄死になのは想像できる。


「このチビどもが……! 我らに楯突いてただで済むと思うなよ!」


 一人の聖堂騎士が怒鳴った。最も相手はただの機械。怯えることなどありはしない。

 と、その時。


「っリーさ————!」


 データが空を飛ぶナニカに気づく。

 反射的に叫びを上げるが、当然のように間に合わなかった。


「あ、ああ……」


 地上には素早い蜘蛛が。天空には美しい銀色の筒を騎士達へと向けながら飛び回る鳥がいた。その機械鳥は無慈悲な大音を響かせて鉄の雨を降らせ続けている。


「がぁぁあ!」

「た、助け——」

「いやだ、嫌だぁぁあ!」


 抵抗する暇もなく仲間が死んでいる。今のところ敵を倒した騎士は一人として確認出来ていなかった。


「————」


 改めて現状を理解してしまうと絶句してしまう。次に込み上げるのはいかずちのごとき激情と悔しさ。クソッ! と地面を殴りつけるデータは大粒の涙が溢れ出るのを自覚した。


 しかし、


「機械であっても私を避けるのは、貴方がたにも生存本能に似たものがあるからですか?」


 三つ編みの赤髪を靡かせた偉大な騎士が立ちはだかる。真紅の瞳に確かな殺意を漲らせていた。

 隠れている彼が心のどこかで安心してしまったのは仕方のないことだ。


 なにせ彼女こそは……


「これから先は聖神国聖堂騎士団第十三部隊副隊長・カーマイン=スカーレットが相手になりましょう」


 聖堂騎士団の中でも屈指の天才であり、十三部隊の中で最強の女騎士なのだから。


「確認、確認。通常ノ人間ヨリモ高イ高エネルギー反応」

「危険、危険。排除スル、排除スル」


 無機質な声音は不気味だか、マインにそれを気にする余裕はない。

 

 相手の異常を察知し、身構えた彼女に合わせて機械蜘蛛は六機で襲い掛かった。


 ————危ないっ!!


 データがそう叫びそうになると、一機一機をマインは華麗に飛び上がることで回避する。

 次の瞬間、


魔法付与エンチャント雷付与トニトルス・インドゥオー

 魔法付与エンチャント炎付与フランマ・インドゥオー

 魔法付与エンチャント風付与ウェントゥス・インドゥオー

 魔法付与エンチャント水付与アクア・インドゥオー

 魔法付与エンチャント土付与フムス・インドゥオー〉」


 マインは早口で付与魔法を唱えた。

 その詠唱が発動すると彼女の身体に五つの属性が奔りだす。さて、これで準備は整った。

 白を基調とした鎧と共に携えている剣を鞘から引き抜く。

 今、彼女が最も優先すべきことは一つ。


 ————機械蜘蛛を倒す……前に。まずはアレから……!


「久しぶりにいきますよ」


 己が手にした剣に呟くと、まるでそれに応えるかのように剣が光り出した。

 一瞬の煌めきは天に向けられ広範囲を閃光で埋め尽くす。たった一瞬、されど効果は絶大らしい。


「ギィギィ……エラー、エラー。自爆シマス、自爆シマス……」


 狙い通り空から何十機もの機械が墜ちた。むしろ完全に壊れていないことに驚くが、それは後だ。それよりもあの機械鳥は聞き捨てならない事を宣っていた。


 ————自爆ッ!?


 範囲がわからない。しかしこれほどの耐久力と殲滅力を併せ持つのだから何十機でここら一帯を爆散しても違和感はない。

 付与魔法を行使している今の彼女なら逃げられる。

 しかし……


「仲間を見捨てるわけにはいきませんね……」


 とは言ったものの、どうしたものか。いや、やる事は一つしかない。なにせ現状で何人の仲間が生きているか不明なのだから、一か八かこの光の魔剣で機械鳥が自爆する前に完全に消滅させる。細胞の——という表現は間違っているだろうが、とにかく鉄の一欠片も残しはしない。

 ここが踏ん張りどころだ。

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