最強集結編—エクス=ギアルス3
良質な死体の記憶を漁り始めたエンドは、自分だけでなくリィルにも見せるためにその記憶を具象化した。
◆
場面はエンド達が去った後。
冴えない聖堂騎士——データは体調を崩している先輩の手当を任されていた。もちろん不満なんてないし、むしろこんな自分に役割を渡してくれた隊長には感謝しかない。第十三隊の中では一番の若手なこともあり、普段から彼は面倒を見られる側だった。
だから、今回の件は微力ながら自身が
————結局なにも出来てないな、僕……。
「うぅ……」
苦しむ先輩の表情を見るたびに心が暗くなる。その行為は己に利益をもたらさず不利益を運ぶだけだと分かっていても、そうならずには居られない。
「データ、そんなに落ち込んでどうされたのですか?」
「か、カーマイン副隊長!? お疲れ様ですっ!」
「相変わらずですね貴方は……」
彼女は柔らかく
「それでどうですか? 彼らの様子は」
「……とても苦しそうです。ごめんなさい僕……なにも、できてなくて」
「そんなことなら私も同じです。回復魔法が効かない以上、どのみち今はタオルを替えることくらいしかできませんからね」
「貴方は最善の手を尽くしています。必要以上に自分を責めないで自信を持ってください」
そう続けられた言葉にデータは涙が出そうだった。流さなかったのは彼の中にある男としての矜持がそれを許さなかったからだろうか。
誤魔化せてはないだろうが、両目をゴシゴシと腕で擦る。
「はい! ありがとうございます!」
「よろしい。では引き続き彼らをお願いします」
「了解しました。僕に任せてくださ——っ」
データが途中で押し黙った。なにやら不思議な音が彼の台詞に重なったからだ。短くはじけるような音響だった。
マインは訪れた不気味さから腰に携えている剣に手を当てている。少しずつ足音を消して外の様子を伺う彼女に、データも続いた。
「——っ!」
しかしマインは手のひらを向けることで彼の動きを抑制した。つまり「貴方は来なくていい」と言いたいのだろう。
足手まといの自身を連れないのは納得できるし無駄死にさせないための優しさであることも、誇らしい先輩方の看病をする人間が必要であることも重々承知。しかしそれでと悔しいと思った。
データは強く拳を作ると頷いた。
すると彼女はまた優しく笑みを浮かべて、
「…………」
——ありがとう。
声は出していないが、口の動きからそう言った気がした。
ならば自分は自分の役目を全うするまで。例え身にかかる負担が両者の間で段違いであろうとも。彼女がそうであるように、自分もそうでなくてはならない。
————ご武運を。
ただ心の中でその言葉を呟いて、データは彼女を見送った。
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