最強集結編—バジリスク討伐2


 地下二十階。

 先の洞窟エリアとは打って変わり、空気が美味しい森林エリアへと場所は移る。背の高い木々に生い茂る雑草、石などにはベッタリと苔が張り付き川の流れる音が心を癒してくれるようだ。

 日のような暖かい光はどこから来ているのだろうか。それはまだ聖神国ですら解明できていないダンジョンの秘密だった。


「ギャッ!」

「邪魔だ」


 生息している魔物は木に化ける異形の怪物と最低五匹で行動する深緑のオオカミ。それとほぼ姿は見えないが、鳥獣が空を飛び回っている。

 どれもエンドの知らぬ生き物だが、警戒するほど強くはなかった。


 今だって群がってきた深緑のオオカミを腕を振るって撃退したところだ。

 エンド目線で言うのなら「弱い」。しかし妙なことに人間の亡骸の姿は徐々に少なくなっている。二十階に降りて落ちていた死体の数はゼロ。もちろん魔物に食われたのだろうが、だとしても上層の数に比べたら僅かだろう。


 そもそも二十階まで降りれる冒険者が少ないのが原因なのだが現在のエンドに知る由はなかった。





 地下二十五階。

 そこは何もない空間だった。巨大な正方形の部屋は静寂に包まれ不気味だ。

 エンドにダンジョンの知識はない。しかしバジリスクと呼ばれる毒を持つ怪物は他の魔物とは一味違うと聞いた。

 所謂ボス。バジリスクは五十階に居座る唯一の魔物。巨大な部屋に侵入すれば閉じ込められ、それを倒さない限り脱出することはできないという。

 おまけに倒したとしても月日と共に蘇るダンジョンの恩恵を際限なく享受している。


 その危険度から冒険者はパーティを作り、攻略するのが鉄板。

 まあつまり、エンドが到達した地下二十五階はバジリスクとの可能性が高いということだ。


 ゴゴゴゴォ。


「——なんだ?」


 一定のラインまで足を進めると重音を奏でながら入り口が独りでに閉じられた。いや、塞がれたという表現の方が正しいのかもしれない。

 とにかく、これで今から始まることの予想はつく。


「小手調べには都合が良いか」


 瞬間——下から液体が溢れだす。やがてそれは巨人の形へと変化し、色が足された。

 そして、


「オマエは……ヘカトンケイル?」


 真の姿を表したソレを見て、エンドが呟く。

 多くの腕を持ち、壁のごとき体躯を誇る巨人。かつて己が殺した存在——ヘカトンケイルと酷似していた。


「ガァアァァ!」


 多腕巨人の咆哮がエンドの耳朶を震わせた。威圧感は降臨した神のようだ。


「少し驚いたが——弱いなオマエ」


 悍ましい姿なのは確かだが、それと強さが比例するわけではない。ダンジョンで出会った一番強い魔物なのは間違いないがそれでもたかが知れる程度だった。

 刹那の喜びも消え失せ、多腕巨人に手のひらを向ける。


「燃え尽きろ、〈神霊の焔アグニ〉」

「ガァ——!?」


 放たれる一つの炎球。ただしサイズは多腕巨人を前にしても劣らぬほどだった。

 奴はその熱量に浅黒い皮膚を焼き切られながらも多数の腕で炎球を受け止めている。


「ガァァアアアッ!!」

「……存外やるではないか。まさか受け止めるとは予想だにしなかった」


 まあ、と彼は一呼吸置いた。


「それで死んだら世話がないがな」

「————」


 ドスン。と丸太のような千切れた腕を落としながら膝から崩れる巨人を前に冷静に告げる。

 炎球に命を無くしたソレは灰のように消えた。あからさまに残っているのは岩を彷彿とさせる魔石と多腕巨人の手だ。


「さすがに大きいな。放置しても良いが……金になるか」


 一銭たりとも所持していないのは不便だ。これらを売れば多少は金になるだろう。なんて思いながらエンドは両手をそれぞれのドロップ品に触れされた。

 するとそれらは一瞬の輝きののち、彼の体内にブラックホールのように吸い込められた。


「さて、あまり時間をかけ過ぎればあの女にどやされる。ペースを上げるか」


 エンドはいつの間にか出現した二十六階への階段を見つけて走り出した。

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