最強集結編—バジリスク討伐3
「さて、と」
粗暴な冒険者達から「パイトス」について聞いたリィルは彼が籠っている鍛冶場へ向かっていた。
どうやらあの冒険者はパイトスに多くの呪具を製作してもらっている常連らしかった。一発目からアタリを引くのは運がよかった。
もっとも彼は冒険者の中では相当な有名人らしく、溢れるほどの情報が手に入った。
曰く、聖堂騎士団を嫌っている。
曰く、値段ぼったくり常習犯。
曰く、女癖が悪い。
とにかく、
まあ鍛冶場を誰も通らないような薄気味悪い場所に置いているくらいなのだから、明るい人ではないのは予想がつく。
仮にパイトスがコチラに友好的でなかったとしても対策はある。ほぼ間違いなく呪具製作を請け負ってくれるだろう。
リィルが一番不安を持っているのは、エンドのことだった。
————あの性格なら逃げる事はないでしょうけど……いやそれよりもバジリスクを討伐できなかった時のことを考えるべきね。
もしも長い時間をかけてしまえば、聖堂騎士達は死ぬだろう。自信満々に「助ける」などと言った手前、そうなればマインに申し訳が立たない。
「……」
そんな事を考えている内に気づけば例の鍛冶場に到着した。軽く咳払いしてから、固く閉ざされた鉄の扉をノックする。
「すみませーん! ここにパイトスさんがいらっしゃるとお聞きしたのですが!」
「……」
返ってきたのは沈黙だった。しかし中からは鉄と鉄がぶつかり合うような甲高い音が聞こえる。まず何者かがいるのは間違いない。
無視してる……という訳ではなさそうだ。単に聞こえていないのか、それとも直ぐに出れる状態でもないのか。
「少し待て」
鉄扉から響く音が止むと低い声が小さく聞こえた。どうやら聞こえてはいたようだ。
それからすぐに扉が開かれる。
「以前にこの時間には来るなと言わなかっ——」
強面の男はダルそうな様子のまま、扉に手を当てていた。露出的な服に汗が滲んでいる。
だが今はそんな強面も困惑していた。十中八九リィルの存在が原因だろう。
「おいおい、ここはガキが来る場所じゃねぇぞ」
「パイトスさんですか? 呪具製作を依頼したいのですが」
「ああぁ?」
不機嫌そうな顔だがパイトスである事は否定していない。本人ではなかったらこの状況を鬱陶しく感じて「違う」の一言で終わりだろう。
そうしないのは彼がパイトス本人だから。ここで虚偽してもリィルが真実に辿り着くのは時間の問題とでも考えたのだろう。
「なぜ呪具が欲しいのか、
「もちろん嘘なんてつきませんよ」
言葉と裏腹にリィルは内心で舌打ちしそうになった。これは最悪の状況の一つだ。
パイトスの「嘘が効かない」という発言の真偽はわからないが、どちらにしろこれでリィルが話を作ることは出来なくなった。もしも本当に嘘を見破れるのなら嘘をついた時点でリィルへの信用は地へ堕ちるからだ。
なにより、本当の話をするとなればパイトスが嫌悪する聖堂騎士団の件について話さねばならない。
そうなれば彼は「気に入らない」なんて理由で呪具製作を拒否する可能性が高い。
————無理かもだけど一応話すしかなさそうね。最悪、無理矢理にでも従わせるわ。
丁寧な態度を保ちながら彼女はここへ来た経緯を語り始めた。
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