最強集結編—バジリスク討伐1
新品の防具や剣を身につける青々しい若者に年季の入った装備でダンジョン内部へ足を運ぶ冒険者。それらを目にしながらリィルが口を開く。
「そういえばマインさんが言ってたわね。魔力を吸い取る呪具を作れる……えっと……」
「パイトスだったか。呪具専門の鍛治職人だと言っていた」
「そうだったわね。んー、じゃあ私はパイトスって人に会って話を通しておくわ」
「どうやら相当な変わり者らしいからな。オマエが面倒を相手にするのなら文句はない」
そうして二人はそれぞれダンジョンとパイトスの元へ分かれた。懸念点を挙げるのなら、バジリスクの住う地下五十階は上級冒険者でも一人では行けぬほどの難易度を誇ること。そしてパイトスという頭の硬い鍛治職人の説得だろうか。聖堂騎士を嫌悪しているという話から、今回の一件を馬鹿正直に説明するのはやめた方が良いかもしれない。
◆
夕焼けのような色合いを放つ魔石が幾つも並べている洞窟に似た空間をエンドは走っていた。よく見れば障害物を避けるような動きで魔物をスルーしている。彼は弱い魔物など当たり前に眼中にない。そしてそれは冒険者に対しても同じだった。
すでに地下五階に到達した段階で数人の死体と瀕死の人間を見ている。しかしその足を止めることはない。単純に興味が湧かなかったから。
————あの女がいないのは僥倖だな。
もしいたら……目に入った分だけ助けるとか言いそうだ。ただでさえ厄介な状況なのだからエンドからすればたまったものではないだろう。
なにはともあれ、
「これで六階か」
あと四十四階降ればバジリスクと出会える。
「パイトスっていう鍛治職人を知りませんか?」
「いやぁわからねぇな。鍛治職人なら冒険者に聞くのが一番だぜ嬢ちゃん」
「わかりました。そうしてみます」
一方でリィルがはじめたのは聞き込みだった。なにせ例の鍛治職人について何も知らない。無闇に歩き回るなど論外、まずは居場所を炙り出す必要があった。
今も果物を売り出していた店主に情報を得ようとした時だった。
結果は「不明」だったが、助言はもらえた。とりあえず適当な冒険者を捕まえるべきだと。
「失礼します」
「あぁん?」
ちょうど目に入ったのは朝方から悪酒している三人の冒険者チーム。薄汚れたただのチンピラだと紹介されれば納得できてしまうような男達だった。
しかしまあ、こういう雰囲気のロクデナシの方が変わり者と呼ばれるパイトスを知ってるかもしれない。
「んだよテメェ」
仲間三人で楽しく飲んだくれていたのか、リーダーと思われる中央の男が突如テーブルに入ったリィルを睨みつける。
「名前ですか? リィルです。ところで一つお聞きしても?」
「やだね。何で見ず知らずの女の言うことなんか……」
どうやら質問に答える気はなさそうだ。しかしここで諦めて次の冒険者へ向かうのもなんだか負けた気分になる。
こんな時解決してくれるのは大抵「金」なのだが、彼女が持っているはずもない。
「第一金もわたさねぇでんだよそれ」
それ見たことか、とドヤ顔を晒したい欲を抑えてリィルが軽口をたたく。
「残念、無一文なので」
「チッ! じゃあ諦めろ」
————これ以上粘っても時間の無駄ね。負けたみたいで嫌だけど仕方ないか。
と、その時。舌打ちした男の右側に座るしゃくれアゴがコソコソと耳打ちを始めた。
「リーダー。この女よく見たらイイ体してますぜ」
「あぁ? ……確かに悪くわねぇな」
————丸聞こえだっつうの猿どもが。
ついついエンドのような思考に至るリィルだがそれを表には出さない。
すると聞こえてないとでも思っている冒険者達は自信満々といった様子で言い出した。
「金がねぇなら体でいいぜ? テメェも俺も利害は一致するだろ?」
下卑た笑みを隠そうともせずに男達が言う。気分が高揚してきたのか、勢いよく酒を腹に収めはじめた。
大きなため息を吐き出して、リィルが一言。
「まったく……お猿さんの相手は大変ですね。これが飼育員さんの苦労ですか……」
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