最強集結編—聖堂騎士団7
赤髪の女騎士に差し込んだ一縷の光。それは無尽蔵に魔力を吸い込む呪具の存在だ。
しかしそれは何年も前に彼女が読んだ古い文献に写真とともに記載されていたもの。実物を目に入れてなどいないし、製法ですら記憶の中で曖昧となってしまっている。覚えているのは聖神国のダンジョンの地下五十階に居座る『バジリスク』の猛毒が必要なことくらいだろうか。
有名な怪物が必要となるのだから彼女に襲いかかった当時のインパクトは強烈なものだった。
「……!」
そうだ、とマインの頭部が揺れた。
思い出したのだ。製法ではなく、一風変わった鍛治職人のことを。
聖神国でも群を抜いている変わり者。
「ワシが世界一の鍛治職人だ」という台詞が口癖の男。ただ、大多数の聖堂騎士には嫌われていた。彼のこだわりの強さが、人を見る目が面倒だと感じたのだ。
何よりマインもその鍛治職人を——パイトスを苦手としていた。
己が最も忌避すべき呪具専門の鍛治職人だったことに加え、彼自身も聖堂騎士のことを好いていないようすだったから。
「なるほどな」
一連の話を聞いたエンドが腕を組む。
そして返答を決めた。
「オマエの気持ちは察するがオレ達に行く気は——」
「私達がバジリスクの毒を採取して、パイトスって人に持っていけば良いんですね?」
「え? は、はい……。恥を承知でお願い申し上げようとは思いましたけど……」
「わかりました! この出会いも何かの縁です。必ず呪具を持ってきますので少々お待ちください!」
もはやエンドは物言わぬ置物だった。実際にこのような扱いを受けたのは初めてで、どう対処したら良いものかわからない。
何はともあれ彼の思う結果とは大きく違うが、向こうで話は纏まったらしい。
「そうと決まったら行くわよエンド」
「……。ここから聖神国とやらはどのくらいかかる?」
「何言ってるのよ。アンタなら一っ飛びでしょ?」
ほら、と言いながらリィルがエンドの手を引きつつ目的地の方角へ体を向けた。
それからエンドへ体を寄せる。
つまり、「私を抱えていけ」と言いたいのだろう。
「……」
「どうしたのよ? ほら早く」
若干の苛つきを抑えて、それを発散するように彼の腕はリィルの腰を引き寄せ、
「へ? ちょっ——ひゃぁぁぁあ!!」
弾丸のごとき速度で飛び上がった。
もはやリィルの事など考えていない。別に死んだところでどうと言う話でもないが、仮にもこの世界に呼ばれた者ならばダメージは少ないだろう。
とはいえ、精神的に圧迫されることに変わりはなく——聖神国に到着してからしばらくの間、エンドは睨まれ続けたという。
◆
到着してすぐ、一分も経過すれば国内にまで潜入する事ができた。
まともに門から入ろうものなら入念な検査と身分証明が必要となる。当然彼らに真っ当な身分などない上、想像以上にリィルが検査に拒否感を抱いていた。
しかし戦争中ならばこれも仕方のないこと。本来なら大人しく受けるほかない——本来なら。
残念ながらと表現すべきか、エンドには無作為に国内へ潜入する術がある。時短できるのならそれに越したことはない。
「助かったわ。検問なんて冗談じゃないもの」
「よほど厄介な事情でもありそうだな」
「当たり前でしょ。美少女なんだから秘密くらいあるわよ」
「妄言はほどほどにして行くぞ」
「何が妄言ですって!?」
目的地であるダンジョンは聖神国の中央にある。生憎、一時の勢いに任せて飛び出した二人はそんな情報を持ち合わせていなかった。しかしそれでも確信を持って足を進めることができるのは、明らかな異物の気配を掴み取っているからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます