最強集結編—聖堂騎士団6


「ここが……」


 エンド達が連れられた先では数人の騎士が距離をあけて横になっていた。一人の女騎士が濡らしてあるタオルを病人の額にあてていることから、熱が篭っていると伺える。


「倒れている騎士は他にもいますが、ここにいるのは比較的軽症な方々です」

「……もしかして隊長さんが看病しているほうが重症の方々ですか?」


 マインがこくりと頷いた。


「そうですか……」


 しかし不思議なものだ。エンドは顔を赤くしながら呻く騎士達を見て思った。

 彼らの症状は人間世界で生まれた「風邪」と酷使していたからだ。しかしその線は薄い。一斉に何十人も、それもほぼ同じタイミングで風邪の餌食になるなど普通では考えられない。仮にそうだったとしても、彼らの苦しみかたは異常だった。


「……これは」


 ふと、エンドが気づく。


「どうしたのよ? まさかわかったの?」


 リィルは長年生きてきた者らしく、多くの知識を内蔵している。実際に数えきれないほどの病だって見てきた。それでもわからなかったのが、今回の騎士達の病だった。

 だからこそ疑わしく彼に投げかけたのだ。


「オレはほかよりが良いからな」

「ほ、本当にわかったのですか!?」

「そう言っているだろう」


 術理カーティオの瞳。それがエンドの左目の名称だ。通常、この瞳に病を見破る力はない。これはあくまでも術や魔の力に関する事にしか真価は発揮されず、それ以外では視力の良い目となんら変わらない神眼の一種。

 だが反応があった。


 騎士達の体内で、螺旋状に蠢く二種類の魔力気配。

 彼らのではないく、他者の魔力。あり得ないほど強大で、不気味なもの。そして片方の魔力をエンドは知っている。


「病ではない。魔力だ。コイツらは膨大な魔力を吸うことによって泥酔に近い状態になっている」

「泥酔? そ、そんなの聞いたこともありません!?」


 彼女の言う通り、他者の魔力を吸った程度でここまで症状が出る事などなかった。そんなことはエンドとて存じている。

 だが、


マイン女騎士、オマエに聞く。この草原で羽を生やした銀髪の男を見たか?」

「銀髪……? ——っ」


 その途端——痺れるような感覚とともにマインの脳内に蘇った一つの光景。

 それはこの草原をえぐったと思われる大男の椅子となっていたもの。

 それは子供に弄ばれる玩具のようになった銀髪の美男子。


 間違いない。


「見ました……しかしなぜそれを……?」

「そいつらがこうなった原因だ」


 少し遅れてリィルが横から口を開いた。


「待って。マインさんの言った通り、魔力を吸った程度で泥酔なんて私も聞いたことがないわ」

「だろうな。こんな状態オレも知らん」

「なによそれ」


 呆れたふうにリィルがため息を吐いた。

 だがこの際なぜ魔力を吸って不調になったのか、なんて疑問はどうでもいい。

 大事なのは、


「か、彼らは治るのですか!?」


 そう、目的は疑問の解消ではなく騎士の治療。


「難しいだろうな」

「——っ!」


 別に相手の気持ちを考えてものを言う必要もない。そんな考えが透けて見れる態度だった。

 だがここにはリィルがいる。彼女は比較的常識的で心優しい。

 そんな事が相まって、リィルはエンドの耳元でこそこそと口を開き出した。


「ちょっと、何とかしなさいよ」

「無茶を言うな」


 これを治すことは今のエンドでは不可能だった。

 なにせただ身体に魔力が宿っているだけなのだから治すも何もないのだ。強いて言えば、魔力が抜け切る時間まで待てば解決するだろう。


 ————しかしなぜ一部の騎士だけが倒れている? 単純な力量の問題か、あるいは……


「魔力が問題なんでしょ? だったらそれを奪ったらどうなのよ?」

「治るだろうな。ただ魔力を吸い取る術など持ち合わせていない」


 ——この状態が続けば騎士どもも時期に死ぬだろう。

 なんて言わない。言えばリィルがギャーギャー喚きそうだったからだ。


 がっくりと肩を落とした彼女の側で今度はマインが俯いていた顔を勢いよく上げた。


「ま、魔力を吸い取る呪具なら心当たりがあります……!」



 

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