最強集結編—聖堂騎士団5


 リィルの自信ありげな声音が、赤髪の少女の耳朶を打つ。彼女は一瞬だけ惚けたように身を固まらせると、正気を戻すように首を振った。


「そ、それは……しかし名も知らない旅人の手を借りるなど……聖堂騎士として……」


 マインにもマインの誇りプライドがある。本来、騎士とは弱きを助け国を守護する責務があり——その役目は第三者に委ねて良いものではなかった。

 しかしそう考える一方で彼女の脳裏には精悍な顔立ちを苦痛に歪める聖堂騎士なかまがよぎる。


「そういえば自己紹介してなかったですね。私はリィル。隣にいるいかにも生意気な顔をしてる奴はエンドっていいます」

「待て。なぜ助けるていでいる。そこにいる騎士も遠慮していただろう」

「まだ迷ってるだけよ……それに一方的に施しを受けるのはフェアじゃないでしょ?」


 ————それが騎士の仕事のはずだが。


 だがやはりリィルに耳を貸す気はなさそうだ。

 幸いなのはマインがエンド達の手を借りるのをよく捉えていないことだった。


「リィルさんにエンドさんですね。失礼。私から名乗るべきでした」


 土の椅子から立ち上がり、姿勢を整える。


「私は聖神国聖堂騎士団第十三部隊副隊長を務めているカーマイン=スカーレットと申します」


 親しい者はマインと呼ぶのでお二人もそう気軽にお呼びください。 

 と続けられてから、リィルが訪ねた。


「聖堂騎士団ってなんですか?」

「えっ? 本当にご存知ではない……と?」


 本気で驚いたような今の反応で彼女らが相当に有名なのは理解した。だとすれば旅人の設定を使ってもそれを知らぬのは余りにも不自然だ。

 これ以上の不信感を募らせないためにも彼はリィルの肩に手を置いた。


「暑さでおかしくなったか? 聖堂騎士団を忘れるとは……」

「ん?……え、ええそうかも。私ったらどうかしてたわ」


 これで多少は誤魔化せただろうか。


「よかったです。流石に聖堂騎士団はご存知だったようで」


 それを聞いたリィルがすかさず問う。


「流石にってことはやっぱり聖堂騎士団って有名なんですね。まあ私達も知ってるくらいですからねー、あははは……」


 これ程までに下手な作り笑いを見たのは久しい。

 とはいえマインは特に疑問には感じなかったようだ。騎士団の中では上位の実力を有する彼女にしては鈍い。これが所謂ポンコツというものなのかは神のみぞ知っている事なのだろう。


「そうですね。自画自賛のようですが聖堂騎士団私達は世界でもトップクラスの武力と権力を所持していますから……」

「そうなんですか!? あ……いえ、知っていますよ……もちろん」


 ごほんっとわざとらしく咳払いをしてからリィルは話を戻すことにした。


「ところで考えてくれましたか? 私達が協力するって話」

「……はい。ですが回復魔法ならすでに試しました。それでも彼らは治らなかった。いえ、むしろ症状が悪化したのです」


 単に回復魔法のレベルが低いのか、あるいは回復魔法では意味のないほど凶悪な症状なのか。

 どちらにしろ自らの目で見ない事には判断がつかない。


「実際に見たいので案内をお願いしてもよろしいですか?」


 わずかな沈黙の果てにマインが頷く。


「わかりました。すぐ隣なので着いてきてください」


 満足そうな様子のリィルを見てしばらく孤立していたエンドが小さく唸る。


 ————情報提供の事は頭から抜け落ちてるな。


 だが彼女の立場になってみれば無理からぬこと。そもそも仲間が窮地に立たされている現状、余裕などは当然として落ち着いてすら居れないだろう。それでもマインが彼らを良くするのは聖堂騎士としての責任感や彼女自身の善性が高いからのはずだ。

 それにリィルは完全に助けるその気になった。今の二人の関係上、リィルの機嫌を損ねるのは面倒だとも思う。


「はぁ……」

 

 ただ一人の始皇帝はため息を吐きながら騎士と賭け女の後に続いた。

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