最強集結編—機巧城1
機巧城、機械化実験室。
エクスはそこで新たな人型機械の点検を行なっていた。さほど捕らえられたわけではなかったが、質は悪くない。少なくともそこいらの人間を使った機械よりはマシだろう。
あの聖堂騎士とか名乗っていた者達を多少舐めていたのは事実だが、筋肉のつき方から何まで常人の域を脱していた。当たり前だが武器無しで挑めば返り討ちにあっただろう。
「さて……」
そこそこの評価はしたものの、一番楽しみなのは彼女だった。
手術台に寝転がる赤髪の少女。マインである。
他とは明らかに違った力量。それに興味が湧いて、未だ手は加えていなかった。最後にゆっくりと時間をかけるつもりなのだ。
普段なら生物の機械化はそれ専用の機械に任せるが、今回は別。彼自身がやる気でいるのだからマインに対する期待は大きそうだ。
「まずは眼球から……いや、腕も捨て難いか? それともいっその事、全身機械化は辞めてみるか」
貴重な現地人の実験だ。特に良質な身体を持つ彼女は大事に使いたい。とはいえ、その気になれば代わりは探せるだろう。
————まあ何処からでも構わんか。どうせ時間は余っている。
早速エクスが彼女の瞳に手術器具を当てた。
◆
「——きャァァァ!!」
「うるさいぞ痴れ者が」
「急にアンタが飛び上がるからでしょ!?」
まるで台風に投げ込まれたような気持ちになる程度には妙な感覚だった。おまけにエンドの身勝手な発言。
リィルの頭は痛くなるばかりだ。
しかし強引ではあったが、成果は得られている。実際、彼女の目には機巧城と呼ばれる円形の城が映り始めていた。
まあ、こんなに速いのなら、いいのか?
と、半ば思うが、エンドを許すつもりは無い。後で説教をしなくては……なんて意気込んだ——瞬間。
「ちょ、ちょ! エンドあれ見てあれ!」
「わかっている。いちいち喚くな」
のっぺりとした機巧城から幾つもの突起物が顔を出す。それが何なのか、なんて疑問は持たない。
つい先刻、データという名の聖堂騎士の記憶で見た物に似ていたからだ。
————魔力で壁をつくれば十分だな。
そしてやはり、その幾つもの突起物がまばらに光りはじめると弾が飛ばされてきた。
データの記憶と同じだ。
「ど、どうするの!?」
「壁を作ってこのまま突っ切る」
と言ったものの。よく考えてみればリィルに攻撃は効かない。身をもって知ったのだからはっきり言い切れる。
「そういえばオマエは防御手段を持っていただろう。なぜ慌てる?」
「私のは私以外に使えないの。もしアンタが落ちたら私も一緒に落ちることになるじゃない!」
————この程度の高さから落ちて死ぬほど柔な体でもないだろう。
と言っても良かったが、リィルのことだ。怖いとかのくだらない理由で今の言葉を口にしたのは容易に想像できる。
まあ当てにできないのなら仕方がない。どうせエンドの魔力があればこの程度の攻撃など恐るるに足らないのだ。
紫色が混じる半透明のバリアが張られ、次に瞬きをした時には悪ガキに小石を投げられているように激しい音が聞こえてきた。
だが、
「壊れる気配はない……」
ただ魔力を固めた壁で防げるのなら警戒する優先度は低い。
「さすがね。この程度なら問題ないかしら?」
「当然だ——間もなく着くぞ」
そう言っている間に機巧城を超えた位置まで飛んでいた。すぐに魔力で足場を作り方向転換し、
「あわわ!?」
適当な場所に着地する。
最も彼がすぐに手を離してしまったので、リィルは思い掛けず盛大に転んで見せたが。
「アンタもう少し乙女を丁寧に扱いなさいよ!?」
「乙女など知らん。だがまあ、少なくともオレの前にいるのはギャーギャー泣き喚くメス猿だろうな」
ジトリと睨みを効かせた彼女を相手にもせずエンドがいう。
「それよりも早々にお出迎えらしいぞ」
「え? ちょ、どうするのよ……一応断っておくけど私戦えないからね?」
「チッ……役立たずが」
「小声で言っても聞こえてるからね!?」
そんな漫才のような遣り取りを遮るように、ガシャンと機械らしい足音をたてた三機の人型機械がエンドらの前に立ち塞がった。
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