最強集結編—凹凸コンビ結成


 リィルの喉元に漆黒の刃が迫る。

 普通ならこれで終わりだ。しかし、エンドに伝わる感触は肉を斬ったものではなかった。それどころか鉄のように硬い何かを斬ったような気さえして、


 ————なんだ……今のは。


 未知との遭遇。それに喜ばしさを覚える反面、賭けには大敗を期したことを察した。

 ふと、思い出す。


 ————そういえばあの女……オレが負けた場合のことを言ってなかったな。


 説明前にリィルを斬りに行ったエンドが悪いが、それを自覚することはないだろう。


「負けか……存外良い盾を持っているな」

「な、な……何なのよアダマスここにいる奴ら!?」


 小刻みに体を震わせながら、リィルはキッと何事もないかのように佇むエンドを睨みつけた。


「喚くな。せっかく褒めてやってるのに」

「いきなり斬りかかるってホント頭おかしいわアンタ……!」

「それで? 不本意だったとはいえ、負けは負けだ。オレはオマエに何を払えばいい」

「……アンタが人の話聞かない男なのはわかったわ」


 慣れたのか、あるいは諦めただけなのか。リィルは頭に手を当ててため息をつく。

 だが今は僥倖な状況。不意打ちだったのは心外だが、そのお陰で一撃の威力自体は大したこともなかった。


 とりあえず都合のいいように解釈すると、リィルは手短に要求を話し出す。


「アンタには私と一緒にいて欲しいの。もっと言えば協力もして欲しい。よく分からないけど強いんでしょ?」


 要求の内容は簡単だった。だがエンドからすれば不愉快な女と共にいる未来など苦痛以外の何でもない。

 しかし賭けに負けてしまったのなら従わざる追えないだろう。むろん、こんな口約束を破ることなど容易にできる。

 だがそれは、


 ————皇帝らしからぬ醜態だな。


 なんとか納得して、口を開いた。


「よかろう。ただし期間は決めろ。いつまでもオマエと一緒ではコチラの目的も果たせぬのでな」

「そうね……じゃあアンタが私達と同じ類の奴を殺すまでにしましょう。そっちのほうがやる気も出るでしょう?」


 確かにそれなら、とエンドは軽く了解のサインをだす。

 

「なら契約成立ね。これからよろしく、えっと……」

「エンド=E=サリバンだ。偉大なる始皇帝様とでも呼ぶがいい」

「わかったわ。じゃあ改めてよろしくね、エンド」


 リィルが手を差し出すと、悪虐の始皇帝と恐れられた男は不満そうな顔で何処かへ歩き出した。


 これが性格が真反対な凹凸コンビ結成の瞬間である。







 頭上に光輪を浮かばせる男は先の戦いを思い出しながら飛翔していた。

 いや——この場合は逃走していた、という言葉の方が適切だろうか。


 召喚されたばかりの世界。いくあてなど当然ない。ただ、自身の勘に従って前を進んでいるだけだった。


「あの化物……間違いなくただの人間ではありませんね。対策を立てなければ今度こそ潰される可能性がある」


 独白をして、気づく。


「あれは……」


 ————人間?


 奇妙な巡り合わせだ。たった今、一人の人間について思考していたのだから。

 しかし妙なものだった。それもそのはず。現在ルシファーが飛んでいるのは一面緑の大草原なのだ。地平線までなにもない、そんな場所でポツリと人が一人。これで違和感を感じない者がいるだろうか。

 

 なにより、


「濃厚な殺気——只者ではないですね」


 その男にこびりつく色付いた殺気。まるでそれは今しがた刃を交わしたエンドを彷彿とさせ——正体が現鬼神であると確信した。

 同時に脳内をよぎる、最悪の記憶。人間如きがと、わずかな慢心が引き起こした敗北。


 ぐっと湧き上がる屈辱を抑制して、今度こそ慢心はしないと誓う。

 故に、


「先制はこちらが貰います。名も知らぬ人間よ……!」


 ————最高の技でもって葬り去る!




 瞬間。雷鳴のように烈しい魔力が大草原を包み込んだ。

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