最強集結編—悪虐の始皇帝VS機械軍の王4


 緊迫した状況のなか、漆黒の一撃を放ち先手を取ったのは意外にもエクスだった。

 ——魔力邪竜砲レールガン、そう名付けられた闇の奔流である。しかし当然、馬鹿正直に受け止める事などせずに回避を選択したエンド。


 撃たれた場所に視線を送ってみれば、まるで最初から何もなかったかのように物質が消滅していた。


 ————なるほど。邪なる魔力は邪竜のものか……。


 となると、先の木偶竜もまた邪竜の恩恵を受けていたのか。そんな事を考えながら、例の機械竜を思い返してみてもやはり納得はいかなかった。

 確かに眼前の鎧霊装よろいに似た不愉快な気配はあった。だがそれは雀の涙程度でしかなく、それこそ他の気配と混ざりすぎて本当にそれなのかも怪しいくらいだ。


「邪竜が元であるならば対応は容易い……」


 邪竜とは最も強大で凶悪で魔力適正の高い伝説の竜である。それこそ各々が得意とする術であれば、無効化どころか弾き返してしまう事だってあるのだ。身体能力も高く、漆黒の鱗は魔法のみならず物理への防御力も底上げさせる。

 これだけ耳に入れたものは「勝ち目がない」、そうほざくが、実際には弱点がある。


 単純明快な弱点、それは——神聖属性に対しては滅法弱い、というもの。その弱さと言ったら、哀れで仕方がないほどだ。

 例えるのなら、マッチ一本の火を消すために大海を注ぎ込んでいるとでも表するべきだろうか。過剰だが、それくらい神聖属性に弱いのが邪竜という生き物だった。


 人間は魔力が低いが、それでも神聖属性魔法を行使すれば邪竜を傷つけることは可能なはず。もしも神聖属性使い百人で挑もうものならば、邪竜彼らは竜としてのプライドを捨てざる負えない。要は逃げるしかないということだ。

 しかし歴史を顧みても人間が邪竜を討伐した話など英雄譚や御伽噺くらいで、稀だった。なぜなら————全種族に共通して、神聖属性魔法を自由自在に操れる者は殆ど居なかったからだ。


 しかし——今回の場合はどうだろうか?

 エクスは刹那的な世界で自問した。

 仮にも相手は己と同じ神に選ばれた生物。その実力は悲惨になった機巧城を見れば明らか。

 数々の強力な魔法も使用していた。特に〈聖炎の龍ピクマゴ・アングウィス〉という超魔法は一瞬だけ、神聖属性だと勘違いした程に驚愕してしまった。


 ————最悪だ……エンドこの男は、使えるのか?


 〈聖炎の龍ピクマゴ・アングウィス〉が聖属性と火属性の魔法なのは知っている。そして神聖属性ほどでなくとも、希少な属性である事実も。

 となれば……もしかして、と考えるのは仕方ないだろう。

 そして、


「神聖属性は久しぶりだ、〈一輪の後光ウヌス・ルクスソーリス〉」


 エンドの背後方面が、光った。まるで仏に差す後光のように。

 その煌めきは瞼を開けないほどであるが、エクスにとってそれは障害になり得ない。最たる障害は、一つ。溢れ出す神聖たるオーラであった。


「ッ! やはり使えたか……!」


 プルプルプルと震えだす鎧霊装パワードスーツを無理矢理押さえつけながら苦言したエクスは、続けて言う。


「アイ、なりふりは構うな! 奥の手だ——アレを起動させろ!」

[了解しました]


 徐々に分解されていくアジ・ダハーカの鎧。そして、遂にその全てが剥がれた時に〈一輪の後光ウヌス・ルクスソーリス〉の光は消え去った。

 あの光がなくなって、快晴の空は曇ったように暗く感じる。などと感傷に浸っているエンドとは真逆に、翼を失ったエクスは落ちそうになる一歩手前。


「よくやった。準備はどうだ?」

[既に完了しました。ご命令とあればいつでも動かせられます]

「ならば今すぐ動かせ。時期にワタシが向かい操作する」

[了解しました。では一時的にオート機能をオンにさせて、牽制を]


 鳥の機械に助けられた彼は何者かと話している。奥の手とやらが気になるのが本心だが、目的を履き違えてはいけない。

 始末するため、エンドが近づくと。


「——ッ!」


 とんでもない速度で何かに吹き飛ばされた。


「キサマでも今のは効いたか? これが最後だ。ワタシが作った最強の兵器、機巧城をもってキサマを殺す」


 ただの城だったそれは、大きく変貌していた。十本以上の鉄色に輝く触手はあちらこちらから生えており、本体と予測できる頭部のみの巨大な丸型の部位には口が見える。

 先程エンドを不意打ちしたのは十中八九この触手だった。


 ————やってくれたな。あの鉄屑どもが。

 

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