回想—機械軍の王1
その星で、
いずれ別世界へ行くことになるわけだが、別にこの世界に思い入れなんてない。そんな彼だが、後になって自分が恵まれた人間なのだと知る。しかし……天才たるエクスは発明に明け暮れ、周囲の環境などには関心すら向けなかった。
だから彼は
◆
幾十もの城が入りそうな巨大洞窟。黒よりも黒いその闇の奥底では六つの怪しげな光がギョロギョロと蠢いていた。
ここは竜の巣。溢れんばかりの威圧と恐怖に英雄であろうとも立ち入らない絶望の洞窟。最奥にて鎮座するのは世界最強と名高い邪竜が一つ、アジ・ダハーカ。
約二千年間。誰にも会わず、誰にも挑まれず、神話や御伽噺の伝説として認識された怪物は久方に困惑していた。
己に起こる忘れ去った現象を不愉快に感じながら、状況を再度確認する。
いつも通りの自分。洞窟も二千年前と相変わらず。魔力の乱れも一切なし。外も騒がしくはない。
古の邪竜たる自身の前には————人間?
なんだ、これは。
アジ・ダハーカは遂に己の病気を疑った。数多種族の英雄すら恐れた己の前に、よりによって人間である。勝負云々ではなく、話にすらならない。と言っても過言ではない程度に人間の能力は低く……唯一他種族に優っているのは一騎討ちにおいてまったく無意味な繁殖力くらいだろう。
————数で押せば邪竜の首を取れるとでも考えたか?
なんて馬鹿な思想を浮かべるくらいには混乱している。とはいえ、自殺志願者という訳でも無さそうだ。
兎に角。言い交わさなければ分かるものもわからない。
意を決して、とは違うが、アジ・ダハーカが重い口を開けた。
「人間よ。我が巣へ何用だ」
たったそれだけの言葉は、大気を震わせた。魔力が騒めきだす。
殺意に似たそれを向けられた人間の負担は計り知れないだろう。邪竜にそのつもりがなくても、多くの人々に圧死の錯覚をさせる程の恐れを貼り付けてしまう。
しかし、眼前の人間は人形のように無表情だ。恐怖も歓喜もありはしない。
ふと、忘れていたかのようにその人間——エクスは言う。
「キサマの心臓が欲しい。どうしても必要なのだ」
——ワタシの欲を満たすためにも。
どうやらこの人間は竜の心臓を欲しているらしい。
確かに歴史上、竜の心臓を素材とした武器や兵器は猛威を払っていた。一部の国々では神器だと崇められている事も頭に入っている。
「心臓、ときたか。人間、よもや譲られるとは考えておらぬだろうな?」
「無論。戦闘は避けられないと予測している」
「ならば良い。クククッ、邪なる
「英雄? ワタシはただ、機械を作っているだけの哀れな王だ」
「左様か。では哀れな王よ、今ここに古の戦を始めようぞッッ!!」
アジ・ダハーカが三つの口から大剣のような牙を剥き出しにした。吐かれるは地獄の炎。
迫り来る火の海が明かりとなり漆黒の鱗を照らし出す。
三つの頭、壁のように巨大な翼、大樹のような尻尾、輝く六つの血の瞳。
恐怖の全容が見えた。
普通なら失禁しても不思議ではない。だが、
「
エクスは意味ありげに独言した。
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