回想—機械軍の王2
昔。それは遥か彼方の遠い記憶。世界に災いを齎す邪竜は人々にとって名声を得るための最高の的だった。
その大方は雑魚を通り越した蟻のような存在だったが、確かに英雄はいた。ただし、皆が強者であった訳ではない。
それでも、
『大英雄ベル』
一人だけ忘れられない英雄がいた。
黒髪で宝石のような青い瞳が印象的な男だった。小柄な癖に竜の前脚を正面から受け止めるくらいの膂力があって、何よりも。
————強かった。
古の邪竜が太鼓判を押すのだから間違いない。あの少年は歴史上稀に見る本物の英雄であった。もっとも、その最後は呆気のないものだったが。
『ぐッ……かはァッ!』
『貴様……そうか。やはり人間とは脆弱生き物だな』
『は、はは。その脆弱な生き物がおまえに傷をつけたんだ』
『左様だ。敬意を払い、貴様には最高の魔法をくれてやる』
奴は、大英雄ベルは不治の病を患っていた。魔法で仕留めたと言えば聞こえは良いが、実際は病で死んだようなものだ。
そう言う話でいえば、大英雄ベルは唯一アジ・ダハーカが殺せなかった英雄とも表せる。
しかし、なぜだろう。
新たな
エクスを眺めているとベルと姿が重なって見える。彼らに相似点はないはずなのだが……。
「それが貴様の得物……か?」
「
漆黒の鎧が装着されたエクスの声は先とはだいぶ違っていた。それに地から足を離し、背部や足裏からはジェットを噴射させて宙に浮いている。長年生きてきた邪竜だがこの様な奇怪な得物を見たのは初めてだ。
「実に面白い」
飛行能力があるのはわかった。他にも手指に空いている穴から何かを飛ばせるかも知れない。なにより
総重量は百を超えているあの機体を浮かせられるジェット噴射——移動速度も高いとみていい。
「〈
六つの闇がエクスを襲う。
かつての英雄達はこれだけで亡骸に変わったのだが……。
「
エクスは両腰にかけられた銃を引き抜くと膨大なエネルギー弾で迎えうった。
両者の弾がぶつかり合う中、アジ・ダハーカは黙っていない。即座に幾つもの五属性の魔法陣を展開した。
エクスを囲む形で五色に光る魔法陣は一瞬だけ光力を弱めると——
「——ちィィ!」
弾、光線、重力、氷、土、丸太のような根っこに灼熱の炎。それぞれが彼に向かって猛攻を始めた。
「アイ。エネルギーバリアを展開しろ。その他援護も任せる」
[了解しました]
「ぬ?」
これまた不可思議な光景に邪竜が唸ると、次の瞬間には宝石を軸とした卵型のバリアが張られた。
「これも効かぬ、と——」
エクスが再度
しかしその一発は彼の予測を超えた威力だったらしい。お陰で撃った反動でよろめき、銃口が溶けてしまった。
————だが無傷では済まないはずだ。
「——!」
しかし……アジ・ダハーカは笑っていた。それはもう、新しい玩具で楽しむ子供のように。
「クククッ」
「? まさか——」
——嬉しいのか?
邪竜とエクスの思考が一致した。
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