最強集結編—呪具製作1


 バジリスクの死体を回収したのち、エンドは上層へ急いだ。一度、目にした道を戻るだけなので降りる時よりもずっと早い。

 彼が地上へ戻ったのはそれから五分後のことだった。






「つまらん場所だったが……暇つぶしにはなったか」


 疲れが溜まっている訳ではない。しかし面倒ではあった。少しくらい悪態をつく気にもなろう。

 だがそれも程々に。まだエンドの仕事は残っている。とりあえずリィルの元へ向かわなければならない。


 ————アイツの気配は覚えている。……そこか。


 聖神国は小国ではない。というよりも大国なのだが、それでもこの程度の国の範囲からリィルを探し出すのは容易かった。

 すぐに見つけるとエンドは気配を断ちながら歩き始めた。




「遅かったわね」

「……労いの一つも言えんのかオマエは」

「あら? 言って欲しかったの?」

「いや、虫唾が走る」

 

 汗臭いボロボロの鍛冶場に入って、いの一番に迎えたのは小馬鹿にするような雰囲気のリィルだ。苛立ちはあるがそれに付き合えば今以上に笑われるだろう。まさに思う壺だ。

 

「オマエは呪具職人の説得に成功したようだな」

「あったり前でしょ? 私にかかればどんな奴だって思い通りよ」


 その発言に少し違和感があったが気にせずにリィルの背後へ視線を移す。彼女とは別に誰かがいる事はわかっていた。恐らくソイツがパイトスであることも。

 強面な男だったが、それよりも異様なオーラが不快だった。やがてリィルの言葉の意味を理解する。


「魅了か。やけにスムーズだと思ったが……とんだアバズレだったな」

「ちょっと私をアバズレ認定するのやめてくれる!?」


 魅了という術が存在する。術といっても技術だったり才能が事を大きく分ける要因になるエンドとはほぼ無縁なものだ。大抵は異性にしか効かないし、完全に魅了し尽くすのなら体の関係だって必要になる。

 という知識を持つ彼だからこそ今の発言を飛ばしたのだが、


「私の身体はアンタが思ってるほど安くないの。他の女と私を比べないでもらえるかしら?」

「何でもいいが例の呪具は作れるのだろうな? そうでなくてはバジリスクを取りに行った意味がない」


 自分の言葉を無かったものにされたリィルはジトっと男を睨むがそれすらも無視された。

 代わりに返事を寄越したのはエンドが魔法陣から引っ張ってきたバジリスクの死体だ。


「製作にはどの程度かかる?」

「……」


 無言のパイトス。


「オレは少しリィルオマエを舐めていたが……今は初めて賞賛する気になった」

「ホント失礼ねアンタ」


 魅了という名の洗脳状態であるパイトスには主人の美声しか脳に届かない。

 のだろうとエンドは予想した。ここまで強力な魅了は見たことも聞いたこともない。これは最早魅了なんてものではなかった。完全な支配だ。対象者には己で考える力すら残されていないのだから。 


 ——エンドはその時、リィルもまた己と同類である事を思い出した。

 紛うことなき能力ちからだった。


 そうなると次に気になるのはリィルの顔だ。彼は女の顔にどうこう言うような柄ではないが、ここまでの魅了技術を持つ彼女の顔に興味が湧いた。


「オマエ、なぜフードで顔を隠している? こんなマネが可能ならば醜女ではないはずだ」

「なによ。やっぱりアンタも私みたいな超絶美少女には目がないのかしら?」

「戯言を。第一、オマエの顔すら見ていないオレがオマエが美少女である事を知っているはずもない」


 ——存外、醜いだけかもしれないしな。などと付け加えてエンドは本題に戻ることにした。


「それでどの程度の時間がかかる」

「素材さえ有れば遅くとも一日で大丈夫だって言ってたわ」

「そうか。オレは少し離れるぞ。バジリスクは既に置いたし文句はあるまい」

「はいはい。早く作れるかもだからギリギリで戻ってくるとかやめてよね」


 ふん、とエンドは鍛冶場から早々に立ち去った。

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