第9話 執筆作業




「………………」



 カタカタカタ。タタンッ。


 アパートの室内には無機質なタイピング音が連続的に響く。午後の講義を終えて急いで大学から帰宅した秋人はノートパソコンを立ち上げると作成したプロットを元に新作の小説を執筆していた。

 打ち込んだ文章を目で追いつつ、無心に物語を紡いでいく。



「———ふぅ、こんなもんかな」



 そう呟いた秋人はだらんと身体を脱力させると、パソコンの画面から目を離す。しばらく執筆作業に本腰を入れていた所為か目がしばしばするのだが、なんとか区切りはついたのでほっと一安心である。

 秋人は手元にあった缶コーヒーの中身を口に含むと、ゆっくりと息を吐いた。


 帰宅してから約二時間程度だが、約五千字くらい集中して執筆出来たのは上出来なのではないだろうか。まぁごく一部の作家には一時間で一万字を執筆する猛者もいるので、調子に乗る気は全くないのだが。



「やっぱり環境が変わったからかな? いつもより筆が乗る気がする」



 執筆作業は三度の飯よりも好きな方なのだが、引っ越してからここ最近はそんな感覚が強い。そして秋人は元々一度執筆に集中すると一日中寝食を忘れてのめり込んでしまう性格だ。実のところ過去にはそんな様子の秋人を見兼ねて妹の鈴華から何度か注意されたこともあるのだが、当然ながらここに彼女はいない。


 一人暮らしをする以上、自分自身での体調管理は必須。学業と作家業、その二つを両立する為にも、今まで通り時間を気にせず一心不乱に執筆するという訳にはいかないのだろう。アニメ化の件だってある。


 今後気を付けよう、と心に決めた秋人は凝り固まった身体をぐーッと伸ばす。


 因みに既に『ワールド・セイヴァーズ』の店舗特典用のSS小説の執筆は完了しており、現在では担当編集である東堂の返事待ちである。もしダメだったら再び改稿して、オッケーであればそのまま店舗特典用ペーパーとなる予定だ。



「ふわぁ、なんだか眠くなってきたな……」



 目を細めた秋人は大きく口を開けながら欠伸をする。大学生活がスタートして一週間が経ったとはいえ、まだまだ慣れないことばかりである。きっと気が付かないうちに疲労が溜まってしまっていたのだろう。


 壁の時計を見遣ると、現在の時刻は五時を過ぎた辺り。正直、晩御飯を作るにはまだ早い時間帯だ。



「ちょっとだけ、ちょっとだけベッドで横になろう……」



 少しだけ仮眠を取ろうと、スマホの目覚ましで一時間にセット。部屋の電気を消し、ベッドへのろのろと移動して仰向けで横になると、瞼が次第に重くなってくる。

 



(そういえば、黒峰さんって今何してるのかな……?)



 ふと秋人の脳裏にはおっとり系美人である黒峰の姿を思い浮かべながら、やがて意識を手放したのだった。









「…………?」



 ブーッ、ブーッとスマホのバイブ音が振動と共に鳴り響く。ぼんやりとした頭のままむくりと起き上がった秋人がスマホを手に取ると、そこに表示されていた時刻はもうすぐ八時を迎えそうだった。


 軽く仮眠するつもりが、どうやら二時間以上も寝てしまっていたようだ。スヌーズ機能をオンにしていたから良かったものの、設定していなければきっとその倍以上の時間を睡眠に費やしていただろう。


 予定通りとはいかなかったが、なんとか起床出来て秋人は安堵からほっと息を吐く。



(やっぱり疲れが溜まっていたんだろうな……)



 言っておくが別に睡眠が悪い訳ではない。むしろ推奨されるべき事なのだろうが、何事のバランスである。つまりはメリハリだ。

 とにかく寝過ぎてしまった以上、くよくよしても仕方が無い。少々遅くなってしまったが、晩御飯の支度をしようと思い立ち上がった秋人。


 すると次の瞬間、玄関の方からピンポーンとチャイムが鳴った。



「……ん、こんな時間に誰かな?」



 配達便が届くという割には時間的に遅い。秋人は不思議に思いながらも急いで玄関へ向かう。



「はーい、どな———」

「こんばんは、秋人くん。きちゃった♡」

「へ?」



 扉を開けた先にいた人物を見た秋人は思わず息を呑む。そこには満面の笑みでこちらへ視線を向けながらこてんと首を傾げる私服姿の黒峰が立っていたのだった。

















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今までは一話2000〜4000字を目安に執筆してましたが、これからは更新頻度を上げる為に1000〜2000字で更新しようかと思っております。読後感が薄れてしまうかもしれませんが、どうかご了承くださいませ(/・ω・)/


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