第6話 ハンカチ
「なんだか、案外あっけなかったなぁ」
緊張と期待が入り混じった入学式は、秋人の未だ燻る高揚感をよそにつつがなく無事終了した。
煌びやかな灯りが照らすコンサートホールのような会場で始まった入学式だが、見渡すと座席はほぼほぼ埋まっておりその新入生の表情は秋人と同じように浮き足立っているように思えた。
開始のアナウンスに新入生への挨拶、来賓紹介と進んでいき、最後にはよくわからない大学歌を歌って大学長の締めの挨拶を聞いて今に至る。
現在は他の人に混じって会場を後にしている途中だ。
「さて、これから何をしよっかな」
周囲を見渡すと、新入生の隣には親が居たり、その場で友達が出来た人もいるのか表情が固いながらも談笑している姿が伺える。微笑ましいな、という感想が頭をよぎるが、同時に羨ましいという感情が去来した。
去年オープンキャンパスに赴いたが、残念ながら友達などは出来なかった。仕方ないとはいえ地元から離れて引っ越してきた以上知り合いもいないし、入学式で隣になった席の子が話し掛けてくれるといった都合の良い展開などもない。
このまま帰宅するか、と秋人が考えたところで背後から声が掛かる。
「あ、あの……すす、すみません!」
「ん……?」
ざわざわと喧騒がある中でもはっきりと耳朶に届く可愛らしい声。もしや自分に話し掛けているのだろうかと振り返ってみれば、スーツを身に纏った小柄な女性が案の定こちらに視線を向けていた。
さらさらとした黒髪をポニーテールに纏めており、目元をぱっちりとさせたすっきりで端正な顔立ち。身長こそ秋人よりも顔一つ分くらい小さいが、可愛らしい美少女と表現して良いだろう。もしくは小動物系女子。
胸元にコサージュがあるので、どうやら彼女は秋人と同じ新入生のようだ。
とはいえ秋人は彼女とは初対面。一体どうしたのだろうかと思いながら小さく首を傾げる。
「あの、何かご用でしょうか?」
「ハ、ハンカチ落としましたよっ!」
「え? あぁ、すみません。ありがとうございます」
「い、いえいえっ」
どうやらいつの間にかハンカチを落としていたようだ。きっと座席から立ち上がる際にでも落としてしまったのだろうか。誕生日プレゼントとして父から貰った大切なハンカチだったので、わざわざ拾ってくれた優しい彼女には感謝しかない。
秋人が微笑みながら感謝を述べると、目の前の美少女は顔を真っ赤にさせながらこくこくと頷く。すると何故かこちらをじーっと見つめてくるではないか。
「? あの、どうかしました……?」
「じー…………」
これから大学生なのである程度耐性があるとはいえ、出会ったばかりの美少女に食い入るように上目遣いで見つめられるのは流石に恥ずかしい。
やがて彼女は脱力すると、小さく息を吐く。
「……やっぱり覚えてないよね」
「え?」
「う、ううんっ。な、なんでもないですっ!」
「は、はぁ……」
両手を前にしてぶんぶんと手を振る彼女に、秋人は思わず気の抜けた声を洩らしてしまう。俯いたり笑みを浮かべたりどうやら情緒が忙しいようで、怪訝な顔になってしまうのも仕方がなかった。
「では、僕はこれで……」
「あああのっ!」
「はい、なんですか?」
「私!
「はぁ、僕は平山秋人です」
「その、もしまた会ったら、仲良くしてくださると嬉しいです!」
「あぁ、こちらこそ宜しくです」
「そ、それでは!」
三嶋と名乗った美少女はぺこりと頭を下げると、そのまま人混みを縫うように去って行ってしまった。
学部は不明だが、同じ新入生ならばきっとまた大学で出会う機会もあるだろう。先程の彼女の緊張(?)した様子を思い出し思わずくすりと笑ってしまうも、感謝の念を浮かべつつそのまま会場の外へ向かったのだった。
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