第8話 大学生活



「は〜、やっと講義終わった〜! よし秋人、学食で昼飯食おうぜー」

「いいよ、駿平しゅんぺい。教科書片付けるからちょっと待ってて」



 長い講義から解放されて元気を取り戻した様子の友人の声に、微笑みながら返事を返した秋人。机の上に広げられたテキストやノートを閉じてバッグに仕舞うと、食堂で昼食を食べるべく立ち上がった。


 ———あれから一週間が経過した。通学初日はがちがちに緊張しながら教室へと向かって授業計画、つまり配布されたシラバスに目を通しながら講義内容や年間スケジュールを確認して大学の設備などを案内されたのだが、最初ということもあり色々手続き関係でしなくてはいけないことがたくさんあった。


 受けたい講義を自分で申請する履修登録など、これまでの高校までの授業と異なり新鮮だった。



「秋人は今日も弁当か。そーいや自分で作ってんの?」

「うん。学食で注文して食べるのもいいけど、こっちの方が節約になるから」

「そっか、でも料理出来るなんてすげーな。俺なんて目玉焼きすら作れるか怪しいぞ」

「今から料理に挑戦しても全然遅くないでしょ。将来的に覚えといて損はないし、料理男子は女性にモテるって———」

「ようし、目指すか料理王……!!」



 廊下を歩きながらキメ顔で顎に手を当てている男の名前は獅子本ししもと駿平しゅんぺい。そのルックスは大変整っており、遊ばせた金髪に耳にはピアスをつけているといった派手めな印象だ。


 通学初日の教室にてたまたま隣になったのだが、秋人が空き時間中にスマホで小説投稿サイトを覗いているといきなり彼から話し掛けてきたのが、こうしてよく行動を共にするようになったきっかけ。見た目によらず実はアニメやラノベを見るのが趣味と話す駿平がラノベ業界に造詣が深い、というか関係者である秋人と仲良くなるのに、そう時間は掛からなかった。

 数あるラノベやアニメキャラのどんなところが好きなのかなど意気投合して今に至る。


 言動の通り駿平は明るく気さくな性格で、陽キャの部類に入る。地味で大人しく、どちらかというと陰キャ寄りの秋人と比べるとまるで水と油だが、こうして運よく友人に恵まれたのはとても嬉しい。



「よければ今度料理教える?」

「マジ!? 良いのか!?」

「授業料が発生するけど」

「金取るんかい!! うーん、でも、しかし……」

「あはは、冗談だよ。食材さえ持ってきてくれればいつでもいい」

「秋人って確かさくら荘に引っ越してきたんだよな。あそこなら家から自転車で三十分も掛かんねぇから……うん、ヨユーで行けるわー」



 どうやら駿平はこの辺りが地元らしい。小さい頃から育ってきたが故、周囲の建物やお店事情、入り組んだ道などに詳しいようだった。


 何教えて貰おうかなー、と間伸びした声でうんうんと思案する駿平。軽い態度や言葉とは裏腹に、中身は意外に真面目なんだよなぁと考えながら歩いていると、しばらくして食堂に辿り着いた。



「おーおー、相変わらず混んでますなぁ」

「まさに大学って感じがするよねぇ。座るとこあるかな?」

「ま、テキトーに空いてるとこ探すべ」



 学食にはラーメンやカレー、カツ丼といった値段が安く量が多いという良心的なメニューが多く、中には女性が好みそうなお洒落なランチメニューがある。ここでしか食べられない季節ごとの限定メニューなんかもあるらしいので、きっとそれが理由で利用する学生が多いのだろう。


 ざわざわと喧騒が響く広い食堂を見渡しながらそう呟いた駿平。秋人に顔を振り向くと、券売機がある方へ指差した。



「じゃあ俺なんか買ってくっから、秋人は———げっ」

「———げっ、てなによ、げって。相変わらず随分な態度じゃない駿平。こんな清楚で可愛い幼馴染に向かってさぁ?」

「残念でしたぁー、本当に清楚な人は自分で清楚って言いませんー。どちらかといえばお前は跳ねっ返りなじゃじゃ馬娘ですぅー!」

「なんですって!?」

「やんのか?」

「こ、こんにちはっ。平山くんっ!」

「こんにちは、三嶋さん。あぁほら、駿平も東雲さんも落ち着いて」



 顔を真っ赤にしながらこちらをまっすぐ見つめている小柄な美少女、三嶋と挨拶を交わしつつ秋人は睨み合っている二人を宥める。その言葉が届いたのかは不明だが、息が合ったかのようにそっぽを向く二人には乾いた笑いしか出ない。

 互いに顔を合わせたら悪口を言い合うのはもはや恒例のパターンだった。


 そして三嶋は以前入学式の時にハンカチを拾ってくれた可愛らしい女性だった。秋人と同じ学科で、このギャルっぽい女性、東雲しののめなぎさと常に行動する姿を見掛けていたのだが、最初は残念ながら声を掛けるタイミングがなかった。


 だがまさか東雲と駿平の二人が小学校からの幼馴染だったとは思わなかった。しかしそのおかげで三嶋と再び言葉を交わせる機会が巡ってきたのだから、世の中は不思議である。


 

「平山くん、こいつがふざけた態度とってきたら遠慮なくぶっ飛ばしていいからね? あたしが保証する」

「余計なお世話だ渚。六花ちゃん、こいつ我が強いからなんか文句とかあったら気にせず口にして良いからな? 俺が許可する」

「あ、あはは……!」

「まぁ喧嘩するほど仲が良いって言うよね」

「「誰がこんな奴!!」」



 再び揃って睨み合う二人だったが、一体過去に何があったのだろうか。思わず秋人と三嶋は互いに顔を見合わせて肩を竦めてしまう。



(……ま、これも青春かな?)



 そんなこんなで始まったばかりの大学生活は、騒がしくも秋人の中に暖かい思いを残しながら過ぎていったのだった。















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次回、ようやく千歌お姉さんが登場します……!!


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