実は神絵師なおっとり系美人先輩と人気ラノベ作家兼大学生の僕がアパートでいちゃあま半同棲生活を送ることになった件。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

第1章

第1話 アパートへの引越し




「———よし、それではこれで荷物は以上でしょうか?」

「えっと……はい、大丈夫です」

「かしこまりました! 今後また引っ越しなどご入用でしたら、是非シロクマ引越センターをご利用くださいませ! それでは大学生活頑張って下さい!」

「あはは、ありがとうございます」



 失礼します、と爽やかな笑みを浮かべて去って行った二人組のお兄さんを見送る。今年から大学生となる青年、平山秋人ひらやまあきとは引っ越し作業が終わった疲労感と安堵に包まれながらほっと息を吐いた。


 無事大学受験に合格し、県外の大学へと通う事になった秋人。今年から四年間、もしくはそれ以上住む事になるであろうアパートの一室をぐるりと見渡しながら、そっと表情を緩めた。



「ここが僕の新居か……。うん、楽しみだなぁ」



 このアパートは『さくら荘』という名前だ。間取りとしては、1LDKに洗面所にクローゼット、しかも浴室やトイレが備え付けられているので一人暮らしにとっては優良な賃貸物件といっても良いだろう。


 大学進学にあたりインターネットで様々な物件を探していたが、ちょうど手頃な家賃で内装が綺麗な部屋が見つかって良かったと一安心である。



「家具は引っ越し屋さんが設置してくれたからいいとして、実家から持ってきた食器とか私物の整理をしなきゃな……。後で管理会社にももう一度連絡してガスと水道、電気も使えるようにして貰わないと……。あぁそうだ、ご近所さんへの挨拶回りもしなきゃ———」



 テンテケテンテン♪ テンテンテンテンテン♪


 秋人は積まれた私物の入っている段ボールに囲まれながら本日の予定を組み立てていると、突如スマホが鳴った。ポケットから取り出して画面を覗き込むと、そこには見知った名前が表示されている。


 目を細めながら秋人が通話ボタンを押すと、そっと耳にスマホを押し当てる。



「もしもし、父さん?」

『あぁ。秋人、そろそろ引っ越し作業が終わった頃じゃないかと思って電話したが……大丈夫か?』

「うん、ちょうど運び終わってこれからどうしようかと考えていたところだよ」

『そうか』



 秋人がそう言うと、普段から真面目で堅物な父の声が何処となく弾んでいるような気がした。


 最後に父の顔を見たのは二日前。

 なんとかこのアパートに着くまでは、近郊のビジネスホテルに寝泊まりしつつ道を覚える為に周囲を散策などしていた。その都度こまめに連絡を入れていた筈なのだがきっと心配性な父のことだ、無事荷運びが完了したのか気掛かりで電話を掛けてきたに違いない。


 一拍間をあけると、父はそのまま言葉を続けた。



『……なぁ秋人、こちらから入学費用や生活費など出さなくて本当に良かったのか? お前が心配せずとも俺の収入は安定してるし、ちゃんと貯蓄もある。いくら秋人がとしても、せめて親としての役割は果たしたいのだが……』

「ありがとう、父さん。でも僕なら大丈夫だから」

「秋人……」

「前にも言った通り、僕は自立したいんだ。この大学生活でどれだけ成長できるかまだわからないけど……ラノベ作家として様々なものを取り入れて、ここまで育ててくれた父さんと慕ってくれる鈴華すずかにこれからたくさん恩返しがしたい」



 実のところ、家族である父と妹の鈴華は秋人と血が繋がっていない。秋人の本当の両親は秋人が物心つく前に交通事故で亡くなってしまったらしいのだ。当時誰が引き取るかで親族同士で揉めている際に、両親と幼馴染の関係であった父が名乗りを上げてくれたおかげで今に至る。


 人間関係や戸籍登録などで相当苦労したようだが、育児に慣れないなかシングルファザーである父の手一つでここまで育ててくれたので感謝してもしきれない。



「それに、今度は鈴華の大学進学が控えているでしょ? 行く所によってこれからお金も掛かるだろうし、年頃の高校生なんだから友達と一緒に遊んだりして入り用のお金も増えてくると思う」

『ううん、しかしだな……』

「しかしもへちまもないよ。……だからさ、父さん。僕よりも鈴華に目を掛けてあげて。僕の方は大丈夫、貯金はだいぶ減ったけどまだ暫く暮らしていけるだけの生活費は残ってるから。勿論こっちでも描くつもりだし、社会経験の為にバイトもしてみたいし、ね」

『……はぁ、わかったよ。秋人がそうなったらテコでも動かないのはいつものことだからな。でも、これだけは言っておく』

「?」



 耳にスマホを当てながら秋人は小さく首を傾げる。電話越しでもわかる程に改まったような雰囲気になったが、何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。



『———秋人、何があろうとお前は俺の息子だ』

「…………!」

『これからの大学生活、新たな出会いもあるだろう。いろんな事に挑戦して、いろんな事に悩め。もし壁に当たってどうしようもないときは逃げたっていい。居場所なら、いつだって俺が空けておいてやる』

「父、さん……」

『鈴華だって、お前がいなくなって寂しがっていることだし、な?』



 慣れてもいないだろうに、父のおどけたような声が秋人の耳朶を震わせる。きっと自分で言っていて照れ臭くなったのだろう。不意に紡がれた義父ちちの言葉に、思わず熱いモノが込み上がりそうになる。


 それをなんとかグッと堪えると、次は自然と笑みが溢れた。不器用だな、と思うと同時に、父なりの励ましの言葉だと思うと秋人はじんわりと胸が温かくなった。



「……ありがとう、父さん。僕なりになんとか頑張ってみるよ。……あと、鈴華に謝っておいて。僕が家を出るときに最後まで反対してたし、悲しい思いをさせちゃっただろうから」

『あー……そう、だな。わかった。伝えておく』

「うん。よろしくね」



 何故か返事の歯切りが良くない父だったが、きっと鈴華のことを憂いているのだろう。そっと目を伏せながら秋人は当時の様子を思い浮かべる。



(鈴華とは家から出て行く、出て行かないで言い合いになったまま引っ越しちゃったからなぁ……。なんとか家を出る直前に自室にいる鈴華に扉越しに声を掛けることは出来たけど、結局顔を合わせられないままだったし)



 妹である鈴華は目に入れても痛くない程可愛い女の子だ。秋人を小さい頃からお兄ちゃんお兄ちゃんと慕ってくれていたので、今回の県外への大学進学も応援してくれるかと思っていたのだが、まさかの猛反対だったのは心底意外だった。

 最近では口数も減って、家や学校で会う度につーんとそっぽを向かれたりしたので寂しかったのだが、我儘をどうか許してほしい。


 鈴華の様子が心残りだったが、頼もしい父ならばしっかりとフォローしてくれるだろう。ふっと頬を緩めた秋人は、大切な家族とこれからのことへ想いを馳せながら口を開く。



「じゃ、僕これから色々しなきゃいけないことがあるから、そろそろ切るね」

『そうか』

「甘えそうになっちゃうから、戒めとしてしばらく連絡は控えるよ。それと長期休暇とか年末年始ももしかしたら帰省しないかも。一応、これが家を出た僕なりのケジメと覚悟だから」

『……あぁ。怪我や病気だけは気をつけろよ?』

「うん、わかった。じゃあね」

『あぁ、じゃあな』



 こうして父との会話は終了した。未だ残る余韻に秋人はそっと息を吐きながら真っ白な天井を見上げた。



「———頑張ろう」



 父が言っていた通り、これからの大学生活には様々な出会いや困難が待ち受けているだろう。だが家族の制止を振り切って家を出たのは秋人自身が選択した道である。新しい事に触れ、見て学んで体験する。そうして色々なものを取り入れて、成長して、ここまで育ててくれた家族へ恩返しをする為に家を出た以上、弱音を吐く訳にもいかない。


 いよいよ始まる新生活。初めての一人暮らしへの緊張と不安は確かにあるが、秋人は静かに決意を誓うとこれからへ想いを巡らせた。



「さて、早速アパートに住んでいる人たちに挨拶……する前に」



 壁に掛けられてある時計を見てみると既に午後二時過ぎ。このアパートに住む住民への挨拶をしなければいけないだろうが、お腹が空いてしまった。


 だが引っ越しのごたごたで少々精神的に疲労感があった今の秋人にとって、自炊は不可能だし外へ出歩く気力は皆無だった。そもそも1ヶ月程前に管理会社に連絡したはずなのにガスや水道、電気が通っていないのは正直如何なものか。


 コンビニやスーパーに行けばお湯があるのでカップラーメンを持ち込めば作れるのだろうがそれは流石に失礼。それならば精々今ある食べ物で空腹を辛うじて誤魔化せるものはゼリーくらいだろう。



「仕方ない、近くのスーパーで弁当とか買ってくるかなぁ」



 ご飯が食べたい気分だった秋人はそのようにぽつりと呟く。気力を振り絞って財布とスマホを持ってアパートの扉を開けると、早速スーパーへ足を進めるのだった。







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どうもぽてさらです!(/・ω・)/

大学生ラブコメは初めて挑戦するので緊張しますが、是非お楽しみ下さい!!


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