第34話 俺君、嫉妬に駆られてようやく告白する(←遅くねーコイツと思う)

「磯風、ここは俺が抑えておく! 早く追いかけろ!」


「あ、ありがとう! 秋月!」


俺は秋月の協力でカラオケルームを脱出すると、すぐに駅ビルを出た。


しかし、すでに長門と陽葵の姿はなく、途方に暮れた。


その時。


「磯風、こっちよ!」


「アリーさん?」


俺は突然登場したアリーさんに驚く。


「な、なんでアリーさんがここに?」


「今はそれどころじゃないでしょ? 長門はヤリチンよ」


「え?」


俺は目の前が真っ暗になった。


陽葵を泣かすようなことは絶対許せない。いや、それは偽善だ。それより__。


陽葵が他の男のモノになるなんて__そんなの嫌だ。


「陽葵ちゃんたちはあっちに向かったわ、行くわよ」


「ああ! すぐに追いかけないと!」


アリーさんがさした方角に向かって追いかける。


10分ほどで長門と陽葵は見つかった。


「__あ、ああ」


俺は思わず狼狽えた。__何故なら。


陽葵と長門は手を繋いでいた。そして仲良さげに笑みを浮かべていた。


俺の心にドス黒い感情が沸き起こる。長門をぶん殴ってやりたい。


そして長門に笑顔を向ける陽葵に__切なくなった。


俺に向けてくれた笑顔は二番目のモノだったのか?


俺は所詮二番目の男なのか?


俺に激しい嫉妬という感情が襲う。


「ねえ、どうする? 磯風?」


「ど、どうと言っても?」


「何はっきりしないの? 好きなんでしょう? 妹さん、義理の__」


「ど、どうしてアリーさんは__俺のこと__好きって言ったのに__?」


「好きな人が悲しむとこ見たくないでしょ?」


「__」


俺は思わず黙り込んだ。好きな人のために身を引く。


__それも愛の形なのか?


俺に陽葵と長門のデートを邪魔する資格があるだろうか?


俺はそんな気持ちがグルグル周り、結局10分以上陽葵達を尾けた。


「__磯風。あなたの悪いとこはその優柔不断さよ。優しくてもね、優柔不断は人を傷つけるよ。あの頃みたいな男気みせてよ!」


「__」


俺はアリーさんに何も言えなかった。アリーさんは知らない。


以前はアリーさんが一番の人だった。そして、俺は陽葵を二番目の彼女にした。


そんな俺には陽葵の隣にいる資格もアリーさんの好意を受ける資格もない。


俺は最低な男なんだ。


__陽葵の恋を見届けるべき__例え陽葵が傷つくとしても、俺に陽葵の恋を邪魔する権利なんて__ない。


そんな結論に達しようとした時。


「磯風? まずいわよ。あそこ__多分、イケナイホテルだと思うぞ」


「え?」


長門と陽葵は路地裏に入って行ってラブホテルの近くで何か話している。


「いいの? 磯風?」


「__」


俺は、俺は何か感情が爆発した。


「よくない! 絶対嫌だ!」


自分勝手かもしれない。でも、心に栓をしようとしても目の前でそんなとこ見せられたら__。


俺は何もかも忘れて、気がつくと陽葵のところに向かって走って行った。


「長門ぉ! 俺の陽葵に手―出すなんてぇ! 絶対許さんぞ!」


「ちょ、ちょっと待て! な、磯風?」


俺の鬼の形相で驚いたのか長門が狼狽える。


バキ


長門を一発殴る。


「__待ってお兄ちゃん」


そう行って陽葵は俺を止めた。


「な、なんでだよう。陽葵はほんとうに長門がいいのか? 俺との時間は何だったんだ? お、俺は二番目なんかじゃない__とっくに陽葵のことを一番好きだ!」


「じゃ、何でもっと早く助けに来てくれないのかな、お兄ちゃんは? 私が他の人と手を繋いだり、エッチなことしても平気なの? わ、私は最初からお兄ちゃんのこと__一番好きだったよ。__なのに、ぎりぎりまで助けに来てくれない__切なかったよ」


そう言って、陽葵が涙を流す。


「磯風はようやく言えたのね__ほんと、私ってバカみたいだぞ」


アリーさんは空を見上げてそう言った。


「アリーさん、俺は陽葵一筋だから__だから、ごめん」


「まあ、そのことは後日話すぞ」


俺はアリーさんにごめんと言うと陽葵を見た。


こんな発作的な告白じゃ自分でも納得できない。だから。


俺は陽葵の肩に手を置いて、そしてこう言った。


「陽葵__好きです。ずっと前から、ずっと前から一番好きでした。だから、俺と付き合ってください!」


俺はそう言って、肩から手を離して今度は右手を前に差し出した。


「お兄ちゃん。ようやく告白してくれたね。私も__私もずっと一番好きだったよ」


そう言って俺の右手を__ぎゅっと掴んでくれた。


「なあ、俺ってバカみたいなんだが?」


そう言ったのは長門だった。


「長門ぉ! お前、俺がお前を許すと思うのか?」


「だからちょっと待てって、お前、絶対勘違いしてる!」


「何をどう勘違いするところがある! このヤリチン野郎!」


「磯風__長門は別にそういうのじゃないぞ」


「え?」


まさかのアリーさんからの言葉に驚いた。


「磯風、俺はアリーから頼まれたんだ。この茶番にな。一発殴られるのも約束の内だ」


「どういうことなんだ?」


「これははっきりしないお前に決断させるために仕組んだ茶番だ。俺はアリーに頼まれただけだ。これを計画したのは秋月だ。俺はただ協力しただけ。そもそも制服でこんなとこ入れる訳ないだろ?」


「あ!?」


言われてみて気がついた。ラブホが制服姿の男女を相手にする訳がない。


警察を呼ばれて終わりだろう。


「全く、とんだ道化をさせられたぜ。アリーの頼みじゃ断れないしな__惚れた弱みだから__その想い人が他の女を好きとかやってらんねぜ」


俺は意外過ぎる展開にただ驚いた。

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