第37話 俺君、文芸部の合宿をすることになり貞操の危機を感じる

「今日呼び出したのわね。文芸部の活動に関することなの」


俺は担任のちびはるちゃんに呼び出されていた。ちびはるちゃんは文芸部の顧問でもある。


ちびはるちゃんは新任ということもあるけど、小柄でつい守ってあげたくなる衝動に駆られる小動物系の女性だ。いや、ぶっちゃけ制服着たら高校生と見間違えるかも。


冬月さんと全然違うタイプ。冬月さんは身長も高くてしっかりものだ。


秋月が冬月さんを恋の相手とは考えられないというのにはびっくりしたが、好みのタイプが全然違うというのは確かなようだ。


いや、身近に最高のレベルの女の子がいたら、そのタイプの他の子は霞んで見えるかもしれない。そして相手もみんな冬月さんの存在に挫折するだろう。


その辺のこともあるかもしれない。秋月の中学の時の彼女はもしかして……。


「えっとね。先日のクラブ活動報告会でね。文芸部が実は何も活動してないんじゃないか?ッて事実を指摘する酷い先生がいてね……」


いや、事実を指摘することは酷いことじゃないだろ?


「それでね。先生にどんな活動してるか? なんてハードルが高い説明を要求してきたの。これ絶対これセクハラよね?」


いや、セクハラでもないし、部の顧問が活動内容把握してないとかないでしょ?


ていうか、活動報告は毎月書いて提出してるでしょ?


文芸部は存続が危ぶまれる存在で先代の先輩から引き継いで毎月活動報告を行なって、活動をアピールすることになっている。


俺だってただ自堕落にラノベを読んでいる訳じゃなくて、その感想文を書いて部の活動報告に添付している。代々の部長が一人犠牲になってそれをやってきたんだ。


だから、アリーさんには読書の感想文は要求してない。


「それでね。磯野君……」


……俺、磯風な? 陰キャボッチは辛い。そもそもいちいち訂正する気にすらならない。


「あの、何か言いづらそうなんですけど」


そう、ちびはるちゃんはとても言いづらそうだ。


まさか__廃部?


「あのね。陰キャの磯野君にはとっても辛い仕打ちだと思うの。来週の週末にね。部の合宿を行なってね。小説を執筆して無料web小説サイトに掲載する活動を行う約束したの」


「はあ?」


いや、合宿が陰キャにとって辛いのはそうだけど、それを指摘される方が辛いわ!


それに何で小説を執筆することになっているのか、ましてやweb小説サイトに掲載する必要があるのか、意味がわからんわ!


「先生もね。一生懸命だったの、文芸部って何してるとこか必死に思い出そうとしたけどね。全然思い出せなくって__それでね、戸塚先生が助けてくれてね。活動内容は小説を執筆していて、それをweb小説サイトに投稿する活動してるってことになったの。それでどうなったと思う?」


「そんな活動してないと指摘されたんでしょ?」


当たり前だ。そんな活動してないし、その痕跡がないのはすぐにバレる。


文芸部はあくまで文芸図書を読んで、その感想文を書いたりするだけの部だ。


もちろん、文芸小説を書いたりする部の方が多いと思うから戸塚先生の意見は間違ったものじゃない。


どっちかと言うと、活動内容を把握してないちびはるちゃんが悪い。


俺の2年分の感想文の努力を返せ!


「本当、磯野君は陰キャのくせに察しがいいのね♪」


陰キャが察しが悪いという根拠はなんだ?


いい先生なんだけど、天然ぶりが酷い。しかも陰キャに厳しい。


秋月にとっては庇護欲が満たされる存在なんだろうけど、俺には若干殺意が湧く。


「まあ、そんな訳でね。来週末の3連休は私と磯野君と天津風さんとで合宿ね。天津風さんと合宿なんてきっと磯野君の心臓がドキドキしてると思うけど……」


「はあ、ちょっとドキドキ……してます」


アリーさんに何されるかわからんからドキドキもするわい。でもこのちびはるちゃんは絶対違うこと考えてると思う。


「今から失恋した時のこと考えて気持ちを整理しておいてね」


「あの、先生……俺、別にアリーさんのことそんな……」


いや、アリーさんのことは好きだ。ただ陽葵が一番だから受け入れられないだけだ。


「あのね。磯野君__今はそうでも、陰キャの子はね、身近に女の子がいると、すぐに好きになっちゃうの。磯野君と天津風さんだとね……分かるよね?」


「何が分かるんですかぁ!」


この先生酷すぎん? 陰キャボッチは確かにそういう傾向にあるかもしれんけど、全ての陰キャの恋が実らないという偏見酷い。


「磯野君……今はそんなこと言ってるけど、絶対磯野君は天津風さんのこと好きになるからね。それと男の子はプライド高いからね……振られた時はね、辛いと思うの」


「あの、先生?」


「何?」


「俺、天津風さんに好きって言われたんですけど?」


俺はドヤっとちびはるちゃんに言った。


「……可哀想に……もう手遅れなのね……しかも妄想癖まで発症して__」


「ち、違います!」


俺はちびはるちゃんの酷い言いように腹がたった。もうこれはお灸を据えてやろう。


「ちびはるちゃん、嘘かどうか、秋月に聞いたらいいですよ。ベッドの中でね、ニヤリ」


「ひ、ひぃやああああああああああ」


たちまちちびはるちゃんの顔が真っ赤になる。


後で秋月に怒られるかも。


「い、磯野君、それはどういう意味かな? せ、せ、せっ」


「セックス?」


「ひぃやぁああああ~! 先生意味わかりません!」


「いや、別に深い意味はありませんよ。ただ、先生と秋月は仲良いいですね?」


実際クラス委員と担任のちびはるちゃんが仲良く話してるとこはクラスメイトなら誰でも知ってる。ただ、二人の仲が教師と生徒の関係以上だと知ってるのは俺と冬月さん位だろう。


「わ、わかったわ。磯野君、私もこう見えても大人だから、磯野君の言ってる意味位わかるよ。だからね……一度だけでね……許してね……」


そう言うと、ちびはるちゃんは自分のシャツのボタンを外し始めた。


「わあぁあああッ! ちょッ 先生、何考えてるんですか?」


「え? 何って口止め料。やっぱり、一回じゃダメ?」


はあぁ〜。この先生ヤバいわ。秋月はさぞかし苦労してるんだろうな。


まあ、世話付きの秋月にとってはたまんないのかもしれないけど。


「まあ、口止め料ていう意味がまず何のことかわかんないですけど、何より口止め料で服脱ぎ始めるとか、そういうこと普通します? 俺、そんな卑怯なことしませんよ?」


「えっ? 普通、こういう時って、教師は生徒に脅されて意に沿わず蹂躙されるものじゃ?」


「それはエロい小説の中だけの話です!」


「そうなの?」


「当たり前です!」


こうして俺達文芸部はちびはるちゃんのおかげで合宿を行うことになった。

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