第2話 妹ちゃんは自慢の胸をモミモミしてもらいたい

「なら二番目でいいから彼女にして」


「お、お前、な、何を言って?」


俺は狼狽した。


義理の妹とは結婚できる。


それは知っている。だけどそこには蓋をして付き合ってきたつもりだ。


一度壊れたら二度と取り返しがつかない。


だからどんなに距離を縮めても永遠に平行線。


それが義理の妹というものだと思い聞かせて来た。


だけど、それが一瞬で壊れた。


妹の一言で。


「二番目でいいから」


陽葵ひまり はそう言って俺の顔に顔を近づけてくる。


「―――――!!!!」


突然キスをしてくる。


「二番目でいい、ドライな関係を実験したいの。私と付き合って、お兄ちゃん♪」


俺は不覚にも妹のキスをはねのけることが出来なかった。


ぷっくりと柔らかそうな桜色の唇が俺の唇に触る。


初めての口づけはとても柔らかくて気もちがいいものだった。


「俺達兄妹だろ?」


「血は繋がってないよ」


「二番目なんてダメだろ?」


「私もお兄ちゃんのこと二番目に好き。だめかな? こんなクズな考え?」


妹には好きな人がいる。幼馴染の男の子、以前聞いたことがある。


「私、お兄ちゃんと一緒だよ。長門さんと金髪の天使様が距離を縮めているとこ見ていると切ない。お兄ちゃんも一緒でしょ?」


「……ああ」


長門ながと 。多分、妹の幼馴染、そして金髪の天使様の彼氏。


それから俺達は秘密のカップルになった。


そして俺達はルールを決めた。


二番目の恋人。ドライな関係。そう、この関係はお互いの一番の想い人との関係が成就した時点でなくなるお互いを慰めあう関係。


だからルールを決めた。


約束は『二人の関係は秘密にする』、『お互いの一番の人との恋が実ったら別れる』、『最後の一線だけは越えない』。


最後の一線を越えないのは俺の兄としてのささやかな抵抗、最後に残った良心だった。


超えたら俺はダメを通りこして人として何かが足りない人間になると思う。


「私ね。子供の頃に幼馴染の男の子と約束したの『お嫁さんになる』って」


「それなのにいいのか? 俺とキスなんてして?」


「なんで? お兄ちゃんのこと二番目に好きなんだよ。それに癒される」


妹はもう一度キスをした。


今度はディープなやつだった。


長い、舌を何度もお互い絡めあう。


妹が唇を放すと唾液が糸を引いた。


俺と妹のが交じり合った糸。


☆☆☆


磯風いそかぜ絶対に海来いよ !」


「頑張ってね! 引き立て役は必要だから、心が砕けたら、私が膝枕で慰めてあげるからね♡」


「なんで心が砕け散ることが前提なんだよ!」


俺と親しくしてくれるクラス委員長の秋月あきづきと副委員長の冬月ふゆづき さんに海に誘われた。


海水浴はクラスの三浦君と葉山さんをくっつける作戦だ。


クラス委員の秋月は人の世話をするのが趣味の変人だ。


まあ、陰キャでボッチの俺に仲良くしてくれるのも彼の世話好きが原因だろう。


おかげで俺は何とかクラスになじめている。


「わかったけど、俺にできる事なんてあるの? 俺は別に泳ぎ下手じゃないぞ?」


「そこが凄いんだよ。あれだけの運動音痴にもかかわらず自覚のない音痴加減が。三浦は泳ぎが上手いという情報はリサーチ済だ。三浦の前でお笑いをとってもらったら最高じゃないか?」


俺、最悪じゃないか?


「まあまあ、その代わりに凹んだところは私の膝枕が待ってるからね♪」


「そ、そんなのあてにしないから!」


「また、照れちゃって、いいのよ、私に惚れても♪」


「バカ言わないでくれ!」


俺は帰り支度をすると教室をさっさと出ていく。


俺は文芸部に所属していて部活の時間だからだ。


本当は帰宅する天使様を眺めて口惜しいが、目の保養をするためだ。


「あれ? 本気で怒った? 何なら前倒しで膝枕したげよっか?」


「結構だよ。冬月さん、ほんとに俺が膝枕してって言ったら困るでしょ?」


「え? 別に困らないよ」


「もう!」


妹の陽葵も散々俺のことからかうけど、冬月さんも酷い。


彼氏の秋月の前でそんなことできる訳ないだろ。


「ああ、磯風は部活の時間だったな」


「そっかごめん。膝枕は明日ね、磯風君」


俺は黙って教室の扉を開けて部室の元理科室に向かった。


海水浴は週末の日曜日だ。


☆☆☆


「お兄ちゃん。部屋に入る時はノックしないと駄目じゃない? 女の子がいるんだよ」


「何言ってんだ! そもそもここは俺が部長の部室だ。陽葵が勝手に侵入してるんだろう?」


「そんな事言って、陽葵があられもないカッコしてたらどうするの? お兄ちゃん?」


「なんで、唐突に陽葵が俺の部室であられもないカッコしているシチュがあるんだ?」


「あれま!? へへ☆ 簡単に論破されちゃった☆」


こういうとこウザいな!


「なあ、鍵は何処で手に入れたんだ?」


俺は単刀直入に言った。そうなのである、妹はどうやって鍵を手に入れたんだ?


部室には鍵がかかっている。


「ちびはるちゃんに頼んで貸してもらった」


ちびはるちゃんというのは文芸部の顧問だ。そんな手があったか?


だが、ちびはるちゃんも一応忙しい身だ。それに俺の妹ウザいけど俺のこと好き……なんだよな? 二番目だけど……。


「なあ、スペアの鍵、貸してやろうか?」


「え! いいの?」


妹はさっきまでの意地悪から一転、顔色は嬉色に……わかりやすいヤツだな。


だけど、交換条件を出そう。兄をからかうような悪い妹にはお仕置きが必要だ。


「なあ、鍵と引き換えに胸を揉ませて」


「な、何言ってんの、お兄ちゃんのエッチ!!」


「まあ、無理にとは言わないけど」


「うー、でも鍵が手に入るんなら」


こいつどんなだけ俺のこと好きなんだ?


妹はしばらく考えたようだ。まあ、女の子がこんな提案にのってくる訳ないし。


仕返しは完了かな。しかし。


「やっぱり鍵欲しいから……だからね、お兄ちゃんに胸揉まれるのOKしようと思うんだ。お願いしてもいいかな?」


「お、俺は全然構わないけど。ほ、本当にいいの?」


動揺した。まさかこんな提案にのってくるなんて……それも『お願いしてもいいかな?』とお願いされている。


「今、用意するね」


そう言って妹は制服のシャツの中に手を入れて器用にブラを外す。


生でいいの?


「じゃ、入れちゃうからね」


「……」


俺はドキドキしながら妹のシャツの中に手をいれようとしていた。


制服のシャツの上からのつもりだったんだけど、妹は何故かブラを外してしまった。


「一応、いやなら言えよ。無理やりはしないから」


「わ、私、お兄ちゃんに触ってもらいたい。きっともっと二人の仲が進むよ」


「い、いいのかな? 俺達まだ高校生なのに?」


すると妹はいたずらっ子みたいな意地悪な顔をする。


「往生際の悪いお兄ちゃんね♪」


だけど俺は妹の顔が赤くなっているのを見てとると。


「陽葵! お前、ほんとは恥ずかしいんだろ? 顔が真っ赤だぞ! お前だって男と付き合った経験なんてないだろ? 平気なふりするの止めろよ!」


図星だったみたいだ。大きな目がクルクルと泳ぐ。


「そ、そんなことないもん。私、慣れてるもん」


「奥手のくせに、何こんな大胆なことしてるの?」


「お兄ちゃんが悪いんだよ! だって、あれから何もしてくれない」


今度はプンプン怒り始める。


そんなこと思ってたの?


何、めちゃめちゃ可愛いんだけど?


一旦は止めようと思ったけど、可愛い妹に歯止めが利かない俺。


「じゃ、改めていれるよ」


言っておきながら俺もドキドキして来た。


陽葵は下から俺を見上げていた。そしてすっと目を閉じる。


すかさずキスをして……。


俺は妹の胸元に遠慮なく手を入れた。


「ごめん。少し触るだけにするつもりだったけど、もう止まらない」


「少しだけにしようよ。お兄ちゃん」


「ごめんな。 陽葵」


「妹をヤッた感想はどう?」


陽葵はまた意地悪な顔で俺を見た。俺は負けず嫌いでつい言ってしまった。


「人聞きの悪いこと言うなよ! 胸揉んだだけだろ?」


「だけ?」


「__ごめん」


「でもやっぱ恥ずかしいね」


「俺達、遮るものが何もなくなったな」


「そうだね」


本当は罪悪感でいっぱいで……それでいて陽葵の魅力にあっさり陥落するダメな俺。


俺は陽葵に完敗した。

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