第19話 俺君と妹ちゃんはすれ違う
「せっかくゴムあるし、しよ?」
「女の子がそんなこと言っちゃダメ!」
「ゴム持って女の子の家に来たくせに?」
「これは万が一に備える紳士のマナぁ!」
「じゃあ、今使えばいいじゃん? 私__そんなに魅力ない?」
「そ、そんな訳、ないだろ。金髪の天使って言われて__自分でも自覚してるだろ?」
「なら、しよ?」
「絶対ダメェ!」
俺はアリーさんの誘惑を振り払ってなんとかして家へ帰った。
「お帰りなさい♪ お兄ちゃん!」
「ひ、陽葵? 友達の家に泊まったんじゃ?」
「そんな簡単に人様の家に泊まれないよ。チキンのお兄ちゃんに発破をかけたの♡」
ニヤリと意地悪な顔を見せる陽葵。でも、この意地悪な妹の顔がとても愛しい。
「お前、俺がどんな気持ちだったか__」
本当、俺がどんなに陽葵のことを好きで、困ったか__。
おかげでアリーさんと友達にされた上、家に引きずり込まれそうになった。
いくら俺でも女の子の方からガンガン来られたら多分落ちる。
危なかった。不貞を働くとこだった。
「で、首尾はどうだったの? お兄ちゃん?」
「い、いや。別にお礼を言われて、ちょっとご飯をご馳走になっただけだよ。それで終わり」
「もう、情けないお兄ちゃんね。こんなチャンスでそれだけ?」
意地悪な声で言うけど、陽葵の顔には笑がある。
「陽葵、笑い過ぎだろ? そんなに兄貴をバカにするなよ」
「意地も悪くなるわよ。私、これでも二番目の彼女だよ。嫉妬位するわよ。だから上手くいかなかったと聞いたら、すごく嬉しかった。私、クズだから、そう考えちゃうよ」
「陽葵はクズなんかじゃない!」
俺は思わず大声で言った。クズは俺だ。陽葵を二番目の彼女にした上、一番のアリーさんを完全に拒絶することが出来なかった。俺は陽葵のことだけ考えるべきだったんだ。
「お兄ちゃん? 何を怒ってるの?」
「__すまん。陽葵」
「どうしたの? お兄ちゃん急に?」
俺は妹への罪悪感でいっぱいだった。だが、これだけは言っておいた。
「天使様、天津風さんは長門と別れたそうだ。そもそも付き合ってなかったそうだ」
「そう__なんだ」
「陽葵はどうするんだ?」
俺は一抹の望みをかけて陽葵に言った。
陽葵も今は俺の方が好きって言う言葉に期待して__。だが。
「陽葵の気持ちは今も昔も変わってないよ」
そう言って、下を向く。そして。
「お兄ちゃん。キスして♪」
「どうして? 長門がフリーになったんだろ? 陽葵のチャンスじゃないのか?」
「だってお兄ちゃんとキスできなくなるかもしれないもん。だから今のうちにたくさんして欲しい」
「__陽葵」
俺はだらしなくも陽葵の唇を奪った。
長門に渡したくない。長門より俺の方が好きだったと言って欲しかった。
陽葵Side
『お兄ちゃんのバカ』
お兄ちゃんは私に聞いた。
『陽葵はどうするんだ?』
私は今も昔もお兄ちゃんだけが好きだよ。
それに何より長門さんのことなんて言わないで__。
__そこは。
『陽葵は俺のモノだ。長門なんかに渡さない! 今すぐ俺のモノになれ!』
そう言って荒々しく私のことを抱くべきシチュでしょ? これ?
お兄ちゃんはやっぱり、あの金髪の天使様が好きなのかな?
そうだよね。私は黒髪で、どう見ても日本人だ。
お兄ちゃんが金髪碧眼のお人形さんみたいな天使様が好きなら、全然好みじゃないよね。
もしかしてお兄ちゃんが天使様に告白して秒で振られるとかしてたら、お兄ちゃんは私のモノ。その時は今日はお兄ちゃんにお兄ちゃんのことが一番好きと告白して__。
お兄ちゃんの本物の彼女になろう。女にしてもらおうと思っていた。
今日は一番可愛い下着つけてたのに__。
勝負下着なんだよ。
__それなのに。
長門さんとのこと心配するとか酷いよ。
それにいつかあの金髪の天使様にお兄ちゃんを取られるかと思うと。
天使様がお兄ちゃんの魅力に気が付く可能性は高い。
私は自然に言っていた。
「お兄ちゃん。キスして♪」
いつかお兄ちゃんとキスできなくなるかもしれない。
二番目の彼女でさえなくなる時が来るかもしれない。
そう思ったら、自然に言葉になった。
そして、何度も、何度もお兄ちゃんの唇に触れた。
天使様-アリーさんSide
ほんとに酷い人。磯風。そして愛しい人。
__私の気持ちをこんなにして。
あんなにカッコよく登場しておきながら何にもしないで去るとかあり得ないでしょ?
私がどんなに恥ずかしいのを我慢して家に誘ったと思うの?
自分から男の子を誘うとか自殺もんのハズいシチュよ。
でも、磯風はあの妹さん、義理だよね。いい仲になっている。
あの海で長門君に灯台の下に呼び出されて告白を断った時、磯風と妹さんが見えた。
『胸揉んどるー!!』
びっくりしたわよ。どんなけ進んでるの? あの陰キャボッチわぁ!!
だから、それ以上のことしないと落とせないと思った。
それに__神将であれだけ嫌味を言ったのに__。
あいつ眉ひとつ動かさなかった。
あいつ__私との思い出__忘れちゃったのかな__。
私は薄情な幼馴染の一人に悪態を吐きながら、明日からどうしようと思案していた。
『もう、世間体とか外聞とか気にしている場合じゃないわね』
相手は1年で黒髪の天使と呼ばれるとんでもないライバル。
でも、とりあえず友達にはなれた。
__なら。
友達から恋人に昇格するってよくある話よね?
そう思って磯風とデートする自分、優しくされてキスされる自分を思い描いて。
「__うふ__。うふふふふふふふ__。」
誰もいない家中に響く声で私は笑っていた。
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