第20話 天使様は俺の耳元でボソッとデレた言葉を呟く

俺は昨日、結局陽葵に告白できなかった。


ダメ元で告白すべきだったが、肝心なところで勇気が出なかった。


自分の優柔不断さと臆病さに腹がたった。俺は刹那的な陽葵との一瞬を失いたくなくて勇気を出せなかった。


しかし、俺に追い討ちをかけるような出来事が起きた。


「磯風、聞こえてないの?」


後ろからツンツンされてようやく我にかえって相手が冬月さんじゃないことに驚いた。


アリーさんだと? 天使様が俺にツンツン?


「ご、ごめん。寝不足でちょっとね」


どうもアリーさんは何度も俺に話しかけてたみたいだけど、寝不足の俺は半分寝てた。


「磯風、酷いぞ。私、無視されてるのかと思った」


「いや、ちょっと昨日のこと思っていて、半分寝てたと思う」


「え? き、昨日のこと? えと__あのこと?」


アリーさんは顔を赤らめて恥ずかしそうな表情で俯いた。


しまった。昨日アリーさんに誘惑されたことと勘違いしていると思い至り、俺はフォローした。あれは流石にアリーさんも暴走したんだと思う、黒歴史だと思う。


「いや、昨日の神将でのアリーさんは可愛かったなと思ってたんだ」


多分、俺が昨日のことばらすとかすると困るから口止めに来たんだろう。


俺はそんなことはしないから安心して欲しいものだ。


「そう。磯風__私のこと可愛いって思ってくれたんだ♪」


何故かアリーさんの頬がますます紅色に染まったような気がする。


西洋人の血のなせる技か、アリーさんの肌は驚くほど白い。


紅色に染まった頬と白磁器のような肌が印象的で相変わらず綺麗だ。


「でね。私達友達でしょう? 今日のお昼、一緒に食べよ♡」


「いや、ちょっと俺、こま__」


『__義妹さんのことバラすわよ♪』


脅しかよ!


俺は顔が引き攣っていたと思う。いや、陽葵のことが頭に半分、アリーさん、天使様のファンに対して半分。


『おい、いいこと聞いたぜ! スタンガン改造するとひと思いに行けるらしいぜ!』


『おい、バッドに釘打ち付けておけ、殴った時に血がたくさん出るようにな!』


『おい、知ってるか? 学校の裏にトリカブトが自生しているらしいぜ!』


なんか周りから物騒な声が聞こえる。


俺は変な汗がたくさん出てきた。


そんな時、秋月と冬月さんがやって来た。


「おい、磯風、天津風さんと付き合うことになったとかどういうことだ?」


「はっ! まさか、天津風さんに性的暴力を行って、卑怯にも脅しているとか?」


「初月さん、酷すぎん? 俺、そんなに卑怯な人間に見える?」


ホント、こいつら、多分、ボッチの俺に気をつかって付き合ってくれてるんだと思うけど、俺への評価酷すぎん?


「あ、秋月。わ、私、振られたばかりで、その。帰り道に怖い人に絡まれているところを磯風に助けてもらって、その後意気投合して友達になることになって__その、別に恋人じゃ」


「天使様がねぇ~。気が付いちゃったのかな?」


「何が?」


謎の発言の冬月さん。何なんだ? そのもったいぶった発言は?


「磯風君は気にしないで、せいぜい振られるまで青春を謳歌しなよ♡」


「だから、なんで振られること前提?」


全く、冬月さんは俺と話してくれるし、秋月と三人でお互い勉強を教えあったりする仲だけど毒舌が酷い。俺、こいつらと違って陰キャだよな?


優しくして欲しい。マジで。


「なあ、ところでなんで俺がアリーさんと一緒にお昼を食べるとこんなことになるんだ?」


「お、おい! あんなクズが天使様をニックネーム呼んでいるぞ!!」


「あいつ……絶対天使様の弱みを握ってるんだと思うぞ!!」


「そうだ! あんなクズが天使様に相手にされる訳がねえ!」


なんかクラスメイトの反応が酷い。


なんか普通にクズとか思われてたのか?


「まあ、仕方ないわよ。磯風君ってゴミっていう認識だからね」


「冬月さん!! 普通に俺の心を殺しに来ないで!!」


☆☆☆


そんなこんなで、物騒なクラスメイトから逃げて体育館裏の階段の陰でお昼を食べる。


「はい、じゃ『あ~ん』♪」


俺は心臓が止まるかと思った。突然の『あ~ん』だ。それもアリーさんは顔を赤らめて、明らかに凄い意を決して言っている。断った方がいいよな?


「あの、アリーさん? できれば、ご容赦頂きたいんだけど、俺たちそんな仲じゃない思う」


するとアリーさんは俺の耳元に顔を寄せてボソって言った。


『私__友達じゃなくて恋人にして欲しいな♪』


何ニマニマしてるの? 何をそんなに口元を緩めてるの?


そして、また耳元で囁く。


『泣いちゃう、磯風が酷いことした上、私をゴミクズのように捨てたって泣いちゃう♡』


また脅し? 俺がクラスメイトに殺されるだろ?


「わ、わかったから、食べるから、許して」


『うふふふっ♪ 言っちゃった、言っちゃった。私、告白しちゃった♪』


耳元でボソボソと呟く。


何その可愛い作戦?


ズルいぞ。断り難いだろう?


その上脅しとセットだ。


「磯風、女の子を泣かすとか良くないぞ」


コイツ お前が言うな!


アリーさんは俺を脅した後、俺に近づき、って、近い、近すぎる! いい香りと共に凄い近距離で唐揚げを持った箸を俺の口に突っ込んだ。


もぐもぐ。ていうか、箸、関節キスにならんか?


リア充の世界では当たり前のことなのか?


「磯風、美味しい?」


アリーさんの『あ~ん』の効果もあって、唐揚げは美味しかった


「なあ、俺、ヤバくないか?」


「何がヤバいの?」


「バレたらアリーさんのファンに殺されるような気がするけど?」


アリーさんは指を唇にあて、首を傾げて考える様な素振りをする。考えて! 俺の身の安全、大事!


「磯風、頑張ってね♪」


柔らかな声で、ニッコリ笑ってアリーさんはそう言った。考えてくれない訳ね。自分で何とかしなさいという事ね?


俺達友達じゃなかったっけ?


俺はそんなことを考えている余裕はなくなった。


アリーさんがまた耳元で囁く。


『これは昨日のご褒美だよ』


そう言って俺の耳を甘噛みして来た。

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