第30話 妹ちゃんと天使様はコソコソ話す

俺はお昼を食べ終わった後、陽葵に長門が彼女と別れたことを教えた。


「__そっか」


陽葵はそれだけ言った。


俺は陽葵を励ましたりできなかった。


教えたけど、もうお兄ちゃんの方が好きと言って欲しかった。


そう言ってくれないから、切ない。陽葵が長門のものになるとか__切ない。嫉妬の炎がメラメラと上がる。


俺は思い切って陽葵に告白しようとしたが__。


キンコンカンコン


お昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。


コソコソと校舎裏の階段の陰から教室に戻った。


☆☆☆


流石に今日は天使様__教科書忘れたとは言わなかった__でも。


じー


じー


じー


ずっと俺のこと見つめてる。


落ち着かないんだけど?


そんな責め苦を受けて、ようやく放課後になって、部室に向かおうとするが葉山さん達のグループに捕まってしまった。15分ほど遅くなったけど、部室へ向かう。


部室に入ろうとすると。


「陽葵ちゃんは親友よ」


「私もアリーちゃんのこと一生の親友だと思う」


そんな声が聞こえてきた。


陽葵とアリーさんが一緒にいる?


考えてみれば今までもあった筈のシチュエーションだ。


しかし、喧嘩している訳ではなく、お互い親友か__。


陽葵にとって俺が一番じゃないからか?


軽くショックを受けるが顔に出さないようにして部室のドアを開ける。


「よう!」


「あら、磯風は私を待たせるのね。酷い男だぞ!」


「お兄ちゃん、遅いよ! 陽葵、待ちくたびれたよ!」


「いや、葉山さん達に捕まって__ごめん」


何故かアリーさんの口元が緩んだように思える。


「ねえ、お兄ちゃん。それよりさ。お兄ちゃんは本当に小学生の頃のこと覚えてないの?」


小学生の頃のこと?


__ああ、あのことか。でも、何故陽葵がそんなこと聞くんだろう?


「俺ね。小学生を卒業して、すぐに高熱出してね。なんか難しい病気になって__小学生の頃の記憶が曖昧なんだ」


「__え?」


「嘘でしょ? 磯風?」


「いや、ちょっと記憶が曖昧なだけだよ、心配しなくても、もう大丈夫だよ」


「いいえ、可哀想に__だから磯風はあんなにバカなのね?」


「いや、記憶と知能は関係ないから!」


アリーさんの言葉に棘にちょっとムカついた。


「お兄ちゃんさ。不治の病だったら良かったのに__死なないけど苦しいヤツ__それなら同情できる__」


嘘だろ? まさか陽葵に辛辣にディスられた。陽葵らしくない。


「い、いや、俺なんか変なこと言った?」


「「言った!」」


二人同時に突っ込まれた。


しかし、この話はここで終わりだった。


「じゃ、私は先に帰るね。頑張ってね! お兄ちゃん!」


そう言ってサムズアップの親指を俺に見せる。


俺、凹むんだけどな。


「さて、妹さん公認になったぞ♡」


「アリーさん? 本気で言ってる?」


「__マジだぞ♡」


余計悪いよ。


「ねえ、磯風__今日__磯風のうちに行っていい?」


絶対ダメなヤツだろ? 両親いないし、陽葵との二人っきりの生活がバレたらどうする?


「__ごめん、今日は親が不在なんだ」


「あら、かえって好都合だぞ♡」


どう言う都合?


そう言ってアリーさんと下校することになった。


なんで俺、ダメって強く言えないんだろう?


アリーさんや陽葵の言うことにいつも流される。


でも、ここは強く言わんとな。


「ねえ、アリーさん__もう話したけど、俺と陽葵は義理の兄妹なんだ。そして俺たちは付き合ってるんだ。だからね、察して遠慮してくれないかな?」


「あら? 親御さんいないところで好きあってる高校生の男女が同じ屋根の下で住んでいるってる理解でいいかしら? __それは学校に報告しないと__返事次第では__」


「脅しかよ!」


またアリーさんに脅される。


「もう、お土産も買ってあるんだぞ♡」


そう言って包みを持ち上げて俺に見せる。


「ねえ、だからさ! 両親も誰もいない男の家にこれからアリーさん行くんだよ! これ、どう言う意味かわかってる?」


「わかってるわよ」


そう言うとアリーさんはちょっと下を向いて、顔を赤くして__。


『ちゃんとゴム使ってね』


そう、ボソっと呟いた。


まさかのやる気満々だった。これはダメだ。


俺が必死に我慢するよりない。


脅されてエッチなことになる未来しか見えんけど__。


頑張れ、俺!


☆☆☆


家に帰宅するとアリーさんをリビングにエスコートした。


手をとって案内してあげる。アリーさんの顔が心持ち赤いような気がする。


多分、俺も赤くなってると思う。同級生の女の子を家にあげるとかめっちゃ恥ずかしい。


まず最初に紅茶を淹れた。アリーさんのお土産はケーキだった。


お茶うけには紅茶が合うなと思い、ティーカップに入れてアリーさんに出した。


「ありがとう。紅茶を出すなんて、なかなか気がきくね__いい、旦那さんになるぞ」


「お言葉は嬉しいけど__俺は陽葵の旦那さんになりたいから__」


「あんなこと私にしたのに、私のことは捨てるの?」


「人聞きが悪いよ。俺、そんなに酷いことした?」


そうだよ、アリーさんが脅すから胸揉むとか__キスとかした__不可抗力だよ。


『磯風が私に酷いことした。私の心__盗んだ』


また、アリーさんがデレてる。めちゃくちゃ可愛いけど、俺困る。


だけど、ケーキを食べているうちに何故か会話が盛り上がっていった。


自分でもわからないけど、謎のテンションが俺を襲った。アリーさんも__。


それに身体がぽっぽする。


俺はアリーさんの持ってきてくれたケーキの箱が何気なく視界に入った。


箱には__ブランデーケーキ(酒成分(極大)、彼女を酔わせるのに最適♡)。


そう書いてあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る