第29話 妹ちゃん、俺君にアーンをして幸せを噛み締める

「磯風君、ちょっといいかな?」


「何? 葉山さん?」


俺は教室で何故か葉山さんに声をかけられた。


最近女子から声をかけられることが多くなった。


アリーさんの影響かな__アリーさんは女子の学級カーストトップだからな。


逆に男の子の方は__何故か最近少し静かになってる。なんで?


秋月がみんなに何か言ってくれたのかな?


あいつ、本当に人の世話を焼くの好きだからな。


以前聞いたら、ほっておく方がもやもやすると言っていた。


人間国宝に指定した方がいいと思う。


「でね。話なんだけどね。長門君って、芽衣ちゃんと付き合い出したけど__昨日別れたんだって。だから、アリーちゃんにまた心を戻したのかも__私、応援してるから頑張ってね!」


そう言うと葉山さんはパタパタと三浦君達の方に向かって行った。


え? 長門、芽衣ちゃんと別れた? 確か芽衣ちゃんって城ヶ崎さんのことだよな?


俺はつい城ヶ崎さんの方を見た。


胸はアリーさんよりちょっと大きいDカップ位だ。アリーさんは胸の差で負けたのかも__。


絶対言えないな。


「なんか__なんかおかしいような気がする」


俺は違和感を覚えたが、それが何なのか結局分からず終いだった。


そしてお昼休憩の時間になり、俺は速攻校舎裏に逃げた。


アリーさんに誘われそうだけど、今日は陽葵と約束してる。


普段は学食なんだけど、今日は陽葵がお弁当を作ってくれた。


これを食べないなんていう選択肢はないだろう!


「お兄ちゃん! もう来てたの?」


「いや、俺も今来たばかりだよ」


本当は10分位待ったけど__。


「ごめんね。実は途中で告白されてね__丁寧に断ってたの」


「まあ、陽葵はモテるみたいだからな」


内心、誰だ? 俺の陽葵に手を出そうというヤツは? と怒るが、俺と陽葵が付き合っていることは内緒だ。その男に罪はない。


「好きになってくれるのは嬉しいけど__断る時はほんとに申し訳なくてね」


うー。俺にはわかんない気持ちだ。告白なんてされたことないからな。


アリーさんは告白とかはすっ飛ばしていきなり迫って来たしな。


有無を言わせない感じだった。


ちゃんと言ってくれたら、丁寧にお断りして、こんなややこしいことにならんかったのに。


いや、人のせいにしてはダメだ。俺がしっかりしない上、陽葵を二番目の彼女になんてしたからこんなことになったんだ。


「お兄ちゃん、早く食べよ♪ 私、お腹減ちゃった♪」


「ああ、食べよ。ちゃんと持って来たよ」


朝、陽葵から渡されたお弁当箱を見せる。


そして二人でお弁当を食べ始める。


校庭から声が聞こえるけど、まだまばらだ。


みんな食事中で、もう少し経つと、みんな遊び始めて喧騒に満ちてくる。


「お、お兄ちゃん。もう、どうせダメなお兄ちゃんのことだから期待してるでしょ?」


「な、何をかな? 俺、わかんないな__」


「そ、そんなことないよね? お兄ちゃん、わ、私から『あーん』して欲しいんだよね?」


「いやいや、俺は別に__」


ここは駆け引きだ。だって、絶対陽葵の方が『あーん』したいんだもん。


さっきからこっちをチラチラと伺って、ソワソワしてたから、多分。


「そ、そんな〜! 彼女の『あーん』期待してないの?」


やっぱり。焦らした方が陽葵は可愛くなる。


「それはね__期待してるに決まってる!」


「良かった! じゃ、今ね!」


陽葵は一口サイズの焼売を箸で取ると。


「はい、『あーん』」


そう言って俺に箸を差し出して来た。


「い、いただきます!」


俺はもちろんそれをじっくり味わって食べる。


あー彼女の『あーん』してもらって食べた焼売最高!


今まで食べた中で一番美味い食い物だ!


「ね、ね、お兄ちゃん?」


「な、何? 陽葵? 焼売はもちろん美味しかったよ」


「そうじゃないの__」


「どうしたの?」


俺はてっきり陽葵が料理の感想を聞いて来たと思ったけど、違うようだ。


「わ、私にも『あーん』して♪」


「おおッ!」


なんと、逆『あーん』! これは想定していなかったけど__。


めちゃめちゃ嬉しい! 陽葵はなんで俺が喜ぶことこんなにしてくれるんだろう。


俺は早速弁当を見て、陽葵の小さな口でも食べられるよう焼売を半分に割った。


「じゃ、陽葵、『あーん』♪」


思わず俺の語尾が陽気にあがる。


「う、んん」


陽葵に箸を差し出すと、陽葵は恥ずかしそうに__パクッと焼売を食べた。


「うう、美味しい!」


「そうか? だけど、陽葵が作った焼売だぞ?」


「ううん、お兄ちゃんに食べさせてもらったから、美味しいの♪」


「俺は、両方だから倍美味しかったかも」


「ふふっ、もう、そんなこと言ってほんとにダメなお兄ちゃんねぇ♪」


パシパシと俺をはたく陽葵、だけど頬がすごく赤くなっていて、めちゃめちゃ照れてるんだと思う。


「も、もう一口__いいかな?」


「もちろんだよ、陽葵!」


俺はもう一口陽葵に箸を差し出す。


「はむ。もぐもぐ。やっぱり美味しー」


頬に手をやり、幸せそうな顔をする。


ああ、天使がここにおる。俺も幸せな気持ちになって来た。


「じゃ、今度はね♡」


「何? お水も持ってきたの♪」


そう言うと水筒を取り出して見せる陽葵。


「でも、コップがないぞ」


「あ! 忘れてた」


「いいよ。直接口をつけて飲も__か、関節キスだな!」


「__ううん、ダメだよお兄ちゃん」


え? 俺と関節キス嫌なの? 今更?


「__こうする♪」


そう言ってスポーツタイプの水筒に口をつける陽葵。


どういうこと?


そして小さな口で少し水を含んだ陽葵はすっと上を向くと__目を閉じてキス待ちに__。


陽葵! 天才?


「__陽葵、そういうとこ好き♡」


そう言って、そっと陽葵に口ずけする。


「ん、んん」


ゴクリと喉に少し緩くなったポカリが流れ込んで来る。


「__へへ♪」


「もう、陽葵! 天才すぎ!」


「こ、今度はお兄ちゃんの番だよ」


そう言って頬を赤くする陽葵。


「うん、わかった」


そう言って、水筒を手に取ると__。


少し口にポカリを含む。陽葵は小柄だからそんなに一度に飲めない筈。


加減して口に含む。


そして前を見ると__。


「―――――~~~~ッ!!!!」


陽葵は俺の準備ができるや否や口ずけして来た。


「ん、んん」


陽葵の喉にポカリを流し込んで行く。


「へへっへへへッ」


「もう、陽葵、大胆過ぎ!」


「あれ? お兄ちゃん? 口からポカリが少し溢れてるよ♪ 私が__してあげる」


そう言って。


「お、お兄ちゃん、ん……♪ んん、ぢゅ……ん、んん、れろ…♪」


俺の唇と口元を唇で拭ってくれる。


陽葵! 大胆過ぎ! あと、天才過ぎ!

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