第26話 俺君、天使様の隣の席になってオタオタする

あくる日学校に行くと朝のホームルームで席替えがあった。


するとなんとアリーさんと隣同士の席になった。


「磯風の隣になったぞ。ラッキー」


「それ、普通俺が言うセリフだと思う」


「なんで? 多分、クラスの女子から私が羨望の的よ」


「は?」


意味わからん。どう考えても俺が男子の羨望__というより殺意を受ける__あれ?


なんかクラスの女子がスマホと俺の方を交互に見ている。


気のせい__だよな?


視界に葉山さんが入ると何故か俺に手を振った。思わず手を振りかえす。


__ガンッ


「てぇ!」


いきなり後ろから椅子を蹴られた。一体何だろうと思い振り返ると冬月さんだった。


は? なんで俺は冬月さんに椅子を蹴られてるの?


「ふ、冬月さん? 俺、何かした?」


「何ぁに〜クラスの女子に手なんか振ってんのよぉ! この陰キャボッチわぁ!」


「冬月さん。見苦しいわよ。どうせ私はチョロ__それに冬月さんも」


「__う、う、五月蝿い! わ、私はチョロくなんてない!」


「私はチョロいなんて言ってないぞ」


「五月蝿い!」


__ガンッ


「てッ!」


何で俺が蹴られるの?


「まあ、モテる男は仕方ないな」


いつの間にか現れた秋月が俺の肩を叩く。


「秋月ぃ! 余計なこと言わん!」


「はいはい、そのうちわかることだろうに、おー怖」


そう言って秋月は去って行った。


一体、何なの?


「はいはい、騒がしくしてないで、授業始めるわよぉ〜」


気がつくと担任のちびはるちゃんが授業を始めようと場を収める。


ちびはるちゃんが秋月の方を見るのを見て__やっぱり二人は__。


大人の世界は怖ぇーと思った。


しかし、今日は次から次へとトラブルが起きる。


「先生! すいません。教科書を忘れました! 磯風に見せてもらっていいですか?」


「仕方ないわね。磯風君、見せてあげてね」


__教科書を忘れたのは__信じられないことにアリーさん、天使様だった。


絶対嘘だと思った。そして、机をピッタリとくっつけて来るアリーさん。


__ガンッ、ガンッ!


追撃に冬月さんの蹴り。一体今日は何なの?


とは言うものの、教科書を忘れたことになっているアリーさんに教科書を見せてあげる。


てぇ! 近い、近い!


アリーさんは思いっきり寄って来た。いや、これ男女の距離じゃないだろ?


女子がそんな距離に男子を入れる筈がない。


しかし、それを大きな声で指摘する訳にもいかず、小声で伝える。


「(アリーさん、距離近すぎない?)」


「(なんで? 私のこと意識してるの?)」


意識させる気? 教室の公衆の面前で?


「(いや、俺は、その)」


『私は意識してるぞ♡』


ボソっとアリーさんがデレる。


__ガンッ、ガンッ、ガンッ!


冬月さんの蹴りが辛い。どうなってるの? これ?


☆☆☆


結局アリーさんは全教科教科書を忘れると言う嘘をついてずっと俺の横にいた。


距離はどんどん近くなる。いや、もうぴったり身体押し付けて来るんだけど?


コロコロコロコロ


消しゴムが転がって来た。アリーさんのだ。ついうっかり転がしてしまったんだろう。


さっと掴んで、アリーさんの方に渡す。


「はい、アリーさん」


『そういう優しいところ__大好き♡』


思わず赤面しそうになる。


__ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!


流石にこのままでは俺が男子から殺される。


命の危険を感じて思いきって先生に訴える。


「せ、先生! 天津風さんの距離が近すぎて__俺、ちょっと困ってます!」


「あら、磯風は私をエロい目で見てるのね?」


「え? ちょっッ! ち、違います!」


「磯風__まあ、お前には刺激が強すぎるかもしれんが、神様の好意を無にするな」


ち、違うんです先生! この子、俺のことめっちゃ狙ってます!


__なんて言える筈もなく__。


『磯風__私はエロい目で見てるぞ♡』


__ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!


冬月さんの追撃がよりきつくなる。


そしてどうもそれが聞こえていた訳ではないようだけど、周りから殺意を感じる。


『なあ? どっかでチャカ買えんか?』


『知ってるか? 坂本がドス手にれたってよ!』


『おい! 〇〇組のヒットマン、100万でいいってよ!』


「ひぃやあああああああああああ!」


俺は思わず叫び声をあげてしまった。


☆☆☆


俺は放課後ほうほうのていでクラスを脱出して文芸部の部室に逃げ込んだ。


「だめだ。アリーさんに精神的なHPを削られた上、クラスメイトにリアルHPを0にされそうだ__あいつらマジ__だよな」


考えたら当然だ。ほんの数ヶ月前に天使様が他の陰キャボッチに心を奪われてたら、俺はあいつらの親友になれそうな気がした。


「何で俺なんだろう?」


正直わからない。確かにアリーさんが振られた直後助けたりしたけど__俺、アリーさんのこと嫌いとか__言った__好かれる要素ない。


思考はぐるぐる回るが結論、推測は出ない。


さて、今日はもう一旦忘れてハルヒでも読もうかと思うと__。


「磯風!」


「アリーさん?」


気がつくとアリーさんが部室のドアの前に立っていた。


「な、な、な、何の用かな?」


「何よ。今日は磯風が喜ぶことしてあげようと思って来たんだぞ」


「また、エッチなこと?」


「人聞きの悪いこと言わないで、今日は入部届を持って来たの♪」


は? 入部届? 確かに文芸部は俺一人で廃部の危機ではあるけど__。


入部希望者は歓迎すべきだけど__。


「入部って言うと__エッチなことしないなら歓迎するよ」


「磯風__それは約束できないぞ」


__やっぱり。


「アリーさんてさ__俺の身体狙ってるとかないよね?」


『狙ってる♪』


アリーさんはボソっと言った。

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