第10話 妹ちゃん、岩陰でイチャイチャしようとして海底に沈められる

「ねえ、お兄ちゃん。私__癒しが欲しい」


「癒し?」


なんのことだ?


「好きな人が違う人のこと見てたら傷つくよね。お兄ちゃんもでしょ?」


「あ、ああ。それはそうだよな」


俺は嘘を言った。今の俺は天使様に憧れてはいるけど、憧れているだけ。


恋愛的な意味での好きは、今、陽葵に傾いている。


俺の中で一番は陽葵になっていた。


でも、俺は陽葵を二番目の彼女にしてしまった。


そして陽葵には一番の長門という憧れの人がいる。


「ねえ、岩陰に行こ♪」


「岩陰?」


「そ♪ 岩陰でこっそり二人でキスしよ♪」


俺の陽葵に手を引かれて岩陰の方に連れて行かれた。


「この辺がいいかな?」


「そうだね。へへ♪ ここなら誰も見てないし」


ニコッと笑う陽葵が天使のように見える。


俺たちは岩場の陰にこっそり身を潜めた。


「__陽葵」


「お兄ちゃん♪」


弾んだ声の陽葵の顔を見ると俺はドキっとした。


白いビキニに包まれた俺の義妹は綺麗で__そして顔を上に向けて目を閉じていた。


キス待ちの天使。俺が天使の誘惑に勝てる筈もなく。


「あ、ん、お兄ちゃん、んぐ」


「__陽葵」


俺は陽葵の柔らかい唇を蹂躙した。そして口の中に舌を入れる。


「お、お兄ちゃん、ん……♪ んん、ぢゅ……ん、う……ん♪」


陽葵がエスカーレートしてる。今日のキスは激しい。陽葵の舌が俺の口内を舐め上げる。


そして、二人は唇を離す。陽葵の口から二人の唾液がツーと糸が引く。


「お兄ちゃん。私、癒しが足りない。好きな人が違う人を見ているの切ない。だから癒して」


「ああ、陽葵は俺が癒してあげる」


二番目の彼氏として俺は陽葵を癒す義務がある。


だけど、それは__激しい嫉妬が伴う。


陽葵は俺を見てキスをしてくれているんだろうか?


「__お兄ちゃん。触って♪」


涼やかな声で陽葵は俺の手を取ると、自分の胸に押し当てた。


「私、お兄ちゃんに触って欲しい。お兄ちゃんに求められてると思うと心が穏やかになる」


「__陽葵」


陽葵が手を自分の胸に置いた時、俺は抵抗できなった。


大切な義妹。そして大切な彼女。俺にとって陽葵は二番なんかじゃなかった。


例えその目が俺を映さないときが来るとしても、今は俺のものだ。


「__ひ、陽葵」


「__あ、ん♪」


陽葵が嬌声をあげる。妹のこんな声は初めて聞く。昂る俺。


ムニ。


陽葵の胸の感触についての感想は自重する。だけど、今だけは俺のもの。


そう思うと俺は満たされた。


しかし。


「あ! ちょ、ちょ、ちょ! ちょっとお兄ちゃん。誰かいる!」


「え?」


俺が慌てて振り向くと、その先の堤防に小さな灯台があった。


逆光で良く見えないが__あれは天使様と彼氏の長門。


二人はかなり近い距離にいる。そう__多分、キスしてる。


「天使様と長門さんだね」


「ああ、更にメンタルがやられたね?」


「__そうだね」


妹の声のトーンが下がるのを聞いて、俺は激しい嫉妬に駆られた。


長門という学校一と言われるイケメンで、天使様の彼氏にだ。


いっそ、早く陽葵を長門にけしかけて、振られたら、陽葵は俺のもの。


俺の中には醜い感情が溢れた。その癖激しい罪悪感と嫌悪感。


陽葵に相応しいのはむしろ長門かもしれない。


俺は__俺は義妹を二番目の彼女にするような最低の男だからだ。


「ねえ、お兄ちゃん。私たちって何だろう? セフレかな?」


「違う! 陽葵はセフレなんかじゃない! お互い一番になる人になるまで絶対最後の一線は越えない。俺は陽葵が大切なんだ。好きなんだ。大切にしたい」


「お兄ちゃんは変なとこ真面目だね。私はいいよ__最後の一線なんていつでも越えてもいいよ。お兄ちゃんに愛されている、必要とされている、求められていると思うと気持ちが満たされる」


だけどそれは本当は長門に満たされてたいんだろう?


「陽葵ってクズかもしれない。こんなクズでもいい?」


「陽葵はクズなんかじゃない。クズは俺だ」


一線を越えてなくても俺は義妹をセフレにしている。クズは俺だ。でも、妹の魅力に抗しがたい自分がいる。


気がつくと陽葵は涙を流していた。


目の前で想い人のキスシーンなんて見たからだろう。


俺は陽葵を抱き寄せた。


陽葵は俺の肩に顔を寄せると、時々俺の肩に陽葵の涙が落ちた。


その涙が報われて欲しいと__兄ならそう考えるべきなのだろうけど、俺は陽葵が長門に振られるといいと思った。


相手はあの天使様。


天津風―アリシア。アメリカ人の血を引く本物の金髪のハーフの子。


顔立ちは大人びていてクールだが、整った顔立ちはまるで人形のようだ。


性格もクールで言葉は少ないが、それがかえって彼女の魅力を引き上げる。


正直、陽葵とどっこいどっこいの魅力の持ち主だろう。


陽葵が日本車の最高級車だと例えるなら彼女は外車の最高級車とかだろう。


普通に考えれば同じ位魅力があるなら今カノの天使様の方にぶがあるはず。


だから早く長門に陽葵をたきつけて、振られてくれれば__陽葵は俺のもの。


そんなゲスなことを考えながら俺は陽葵の頭を優しく撫でた。


そして、もっと陽葵を抱き寄せると唇にそっと触れるかどうかのキスをした。


「お、おにい__」


「陽葵__」


何か言おうとした陽葵をキスで黙らせた時、誰かに見られたような気がした。


ふと目を灯台の方にやるとそこには長門と天使様じゃなくて、秋月と冬月が近い距離でいた。


キスしてたんだろうな、とそう思った。


だけど見つかるかもしれないという思いより、陽葵を独占したいという気持ちが昂り、俺は再び陽葵にキスをした。

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