第11話 秋月の彼女がぶっ飛んでたけど、結婚を考えているとか重いこと言われる

妹が泣き止んで、気持ちが安定してきたみたいなのでみんなのところに戻った。


「おー! 磯風! 羨ましいぞ!」


「俺もマジで妹欲しい!」


「兄の特権だよ」


「いや、ある意味不幸だぞ! 血が繋がってるんだぞ!」


血が繋がっているという言葉にギクっとするが、俺たちにはもっと背徳的な秘密があった。


それは誰にも知られる訳にはいかない。知られたら陽葵まで変な目で見られる。


それだけは断固回避だ。


しかし、そんな俺たちに近づいて来た女の子がいた。


天使様。天津風-アリシアだ。


「磯風君__あなた酷い人ね」


そう言って踵を返して去って行った。


やはり、陽葵と岩陰に居たのを見られたか?


そして、冬月が俺を睨んでいる。


やっぱり秋月や冬月にも見られたか__。


「みんな今日はそろそろ帰るか。女子は門限ある子もいるからな」


俺は秋月に助けられた。__だが。


「磯風、後で顔貸せ」


秋月にそう言われた。


☆☆☆


帰りの電車の中で陽葵は俺の袖を掴んで俺に身体を預けていた。


周りからは恋人同士にしか見えないだろう。


陽葵のいい香りや、暖かさが伝わって来た。普段なら気持ちがそぞろで陽葵にやられてしまう俺だが、今日の俺は自問自答を頭の中で繰り返していた。


俺の一番は天使様__天津風さんじゃない。俺は陽葵を二番目に好きと言った。


でも、今は__。


しかし、妹には一番の人がいる。だから今は陽葵にお前が一番だと言えない。


入り込んだ迷路。好きな人に好きって言えたらどんなに簡単だろうか?


でも、俺は自分から迷路に入ってしまった。


それに肝心の天使様や長門にも俺たちのことを見られたかもしれない。


「何をやってるんだ、俺は!」


思わず天を仰いだ。


気がつくと妹は寝ていた。


意地悪や俺を誘惑するいつもの陽葵の顔じゃなくて、子供みたいにあどけない。


『陽葵だけは守らなきゃ』


俺は秋月に呼び出されていた。陽葵を家に送ったら、駅の近くの茶店で落ち合う。


Li○eが着信していた。


『妹さんの件で話を聞きたい』


そうあった。断れる筈もない。


俺は陽葵に出かけると言った。


「早く帰ってきてね。今日はお兄ちゃんにたくさん癒してもらわないとね♪」


そう言って笑顔を見せた。


「できるだけ早く帰って来るよ。秋月にちょっと用事があるんだ」


「そうなの? もうー。陽葵より友達優先するとかー」


「はは、今日のことのお礼もあるんだ。仕方ないだろ?」


「むー」


陽葵はリスみたいに頬袋を持っているのかな? という位、頬を膨らませた。


可愛い。


この可愛い笑顔を守らないと。


『兄の務めだ』


二番目の彼氏である以前に俺は兄だ。兄として陽葵に害がないようにする必要がある。


☆☆☆


茶店に着くと秋月はもう来ていた。


「ようやく来たか、磯風」


「時間通りだろ?」


「お前、立場わかってんのか?」


「そ、それは__すまん」


「まあ、謝るのは事情を聞いてからだ。先ずは座れ」


そう言って、ウエイトレスさんを呼んでくれた。


俺はアイスコーヒーを頼むと、秋月は碇ゲンドウみたいに両手を前で組んでいた。


「まず最初にこれを渡しておく」


すっと出されたものは__避妊具だった。


「コ、コ!?」


「バ、バカ!? 声に出すな。さっさとしまえ」


俺は言われるがままにコンドウさんをポケットにしまった。


「時々買い足しておけよ。俺も時々使うけど、そんなにしょっ中という訳じゃないからな」


俺は無言で聞いていたが、リア充は怖ぇーと思っていた。


俺には縁がない__いや、陽葵と間違いを起こすことは十分に考えられるか。


そして、それを秋月に知られてしまっているということだ。


「俺は恋には理解がある方だ。恋は盲目だ。盲目で何が悪いと思っている。だから安心しろ。多少のことでどうこう言うつもりはない。だけど、流石に放置しかねてな。事情を説明しろよ。お前__ややこしいことになってるだろ?」


「__あ、ああ」


俺は頷いた。いい機会かもしれない。秋月ならいい相談役になってくれるかもしれない。


だが、陽葵のこともある、いくら口が硬い秋月でも信用して全部話していいのか?


俺のはっきりしない態度に秋月はこう言った。


「その顔は後ろめたいことがあるんだな? なら、俺も自分の後ろめたいこと言ってやるから白状しろ。言質だ。その代わり、包み隠さず全部吐け」


「秋月に後ろめたいことって?」


冬月さんとそういう関係になっていることか?


そんなの別に__進んでるなー。とは思うが__。


「俺の彼女はちびはるちゃんだ」


「ぶはぁー!!」


思わずお冷を吹いてしまった。


だって、ちびはるちゃんて言うのは俺たちの学級の担任の先生だからだ。


それに時々使っているという秋月の言葉にも頭がクラクラする。


「冬月とは二股なのか?」


「バカ言うな。冬月とはそんなんじゃない。まあ、腐れ縁ではあるがな」


秋月は確かにちびはるちゃんと接点が多い。クラス委員という立場から接点が多いのは事実だが、それは__。


「言っておくが、俺はちびはるちゃんのこと本気だ。結婚を考えている。遊びじゃないからな。もしバレたらどうなるかはわかってる。もしバレたら、俺が一生ちびはるちゃんを守る」


俺は秋月の本気の覚悟を見た。生半可な気持ちじゃないんだ。


気がつくと、俺は陽葵を二番目の彼女にしていることを告白していた。

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