第9話 妹ちゃん、海でわちゃわちゃする

俺たちは海の近くの鎌倉駅近くのうどん屋の前で待ち合わせをした。


うどん屋には迷惑だと思うけど、俺が決めた訳じゃないから許して。


「お待たせしましたぁ、ごめん、待たせちゃったぁ!」


そう言って到着したのは今日の主役、葉山さんだ。


白いワンピースに青のスカート、カゴのバック、典型的な清楚系の装いだ。


今日はこの葉山さんと三浦君をくっつけようというクラス委員長の秋月の発案で始まったみんなで海に行くという作戦だ。


もちろんそれに乗じて他の男女の仲も進むかもしれないことも計算のうちだ。


今日は秋月を中心に10名近い男女が集まっている。


俺も人数合わせで入っているけど、陽葵も誘ってと秋月に頼んだ。


陽葵のLI○eのIDを秋月は知っていた。秋月の友好関係の広さは驚くばかりだ。


秋月は陽葵が俺の妹だと知って驚いたけど、陽葵がクラス一のイケメン、天使様の彼の長門に憧れていると聞いて快く妹を誘ってくれた。


秋月はクラスカーストのトップに君臨する秀才で運動も出来て面倒見が良くて、それなのにボッチ気味の俺の友達でいてくれるという不思議な存在だ。


「みんな集まったな。じゃ海に向かうぞ」


秋月を先頭にみんなめいめいに海に向かって歩き出す。


砂浜に着くと、すぐに海の家の更衣室に向かった。幸い、ここの更衣室はかなり綺麗だ。


陽葵や女の子達がいるから、ぼっこいと大丈夫かなと心配してしたけど大丈夫みたいだ。


着替えて荷物や貴重品をロッカー預けて、準備する。まだちょっと肌寒いのでパーカーを羽織る、よし! 準備完了だ!


俺が着替え終わると秋月も三浦君も準備できたみたいで、一緒にビーチの待ち合わせ場所に向かう。女の子達は多分、もう少し時間がかかるかな?


しばし待つと陽葵をはじめ、葉山さん達や冬月達女子チームも集まった。


女の子はみんなビキニだ。


嘘! みんなガチ?


俺は陽葵の方を向くと、サムズアップで親指を突き出す。そして、みんなに陽葵を紹介した。


「知らないヤツもいると思うから紹介させてくれ。この子、俺の妹で陽葵て言うんだ。一こ下だけど、みんな仲良くしてくれな!」


「やったぜ、陽葵ちゃんて1年で一番人気のある子だろ?」


「いや、それより陽葵ちゃんて、磯風の妹ちゃんなの?」


「遺伝子どうなってんだ?」


遺伝子繋がってません。


だから似ても似つきません。


顔面偏差値の違いの論拠はあるけど、あえてそれには触れない。


触れられない。


「なあ、陽葵ちゃんの兄貴が磯風なら?」


「そうだな__磯風と__」


「仲良くなっておいた方が」


「将を得んと欲すれば先ずは馬を射ろってか?」


そう言うとみんな俺の周りがガヤガヤとうるさくなる。


いや、俺こんなに人気者になったことないから困惑する。


それよりこれから陽葵の意中の人の長門に上手く陽葵を印象付けなくちゃいけないのに、俺がモテてどうする?


「皆さんごめんなさい。私、ブラコンだからお兄ちゃんを取られると悔しいです!」


「は?」


「え?」


「へぇ」


最後のは俺の間抜けな声だ。


陽葵は何故か突然俺のそばに来ると。


「お兄ちゃん、海辺をデートしよ♪」


「ちょ! 陽葵? 何を?」


そう言うと陽葵が俺の手に腕を絡ませてムニッと胸を押しつけてくる。


いや、胸がぁ! 胸、当たってるぅ!


「磯風いいな〜」


「俺もブラコンの妹欲しい!」


「いや、あれ、胸当たってない?」


「本当だ! む、胸がぁ!」


「男子、五月蝿い! それ位で騒がない!」


副委員長の冬月が止めてくれたけど。


俺は焦った。だって今日は陽葵と長門の仲を取り持つのが俺のミッションだ。


タイミングを伺って長門に陽葵を紹介しようと思っていたのに、これでは長門からマイナス評価になるんじゃないか?


俺は思わず長門の方を見た。


だが、長門はこっちを向いていなかった。


代わりにこっちを睨んでいたのは金髪の天使様だった。


何で金髪の天使様が?


まさか俺達の企みがバレてる?


いや、そんな筈はない。秋月と俺達しか知らない筈だ。秋月は口が硬いし。


だけど、その前に!


「ひ、陽葵、む、胸、胸当たってるから!」


陽葵の顔を見て俺は思わず言ったが、こっちを向くとニヤっと笑った。


「当たってるんじゃなくて、当ててるのぉ♪ お兄ちゃんを取られるの嫌だし、お兄ちゃんの困った顔を見るの、私、大好きなの!」


はぁ?


陽葵は何考えているの?


「とりあえず海辺をデートしよ!」


そう言って、俺を引っ張って行ってしまった。


__結局俺と陽葵は二人っきりで1時間位は遊んだ。


「お兄ちゃん! そりゃー!」


「やったなぁ! うりゃー!」


陽葵がバシャバシャと俺に突然波飛沫をぶつけてくるから当然応戦する。


だけど、俺は突然手を止めた。


「どうしたの? お兄ちゃん?」


「長門と金髪の天使様だよ」


「え?」


浜辺を背にしていた陽葵は後ろを振り返る。


二人で浜辺を眺めると金髪の天使様と長門が二人で浜辺を歩いていた。


学校で一二を争う美男美女のカップルだ。もう完璧で、様になっている。


長門の隣が陽葵でもそれは一緒だけど、俺はちょっとダメージを食らった。


憧れていた人がデートしてたら多少はめげる。


もっとも以前なら即死級だっただろうが。


でも、陽葵にとったら即死級かもしれない。


「メンタルめげるね」


「そうね。お兄ちゃん」


こうして、俺たちは二人をぼうっと眺めていた。

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