第15話 俺君、天使様を助けたらポカーンと見つめられる栄誉を得た

俺はとぼけた口調で間にわって入って、天使様の手を取って連れ出そうとする。


「えっ?」


「な、なんだお前!?」


「ああっ!? お前なぁ!!」


まあ、予想はしていたが、ナンパ師は豹変してガラの悪さを露呈する。


__おぉー怖ぇ。


そんな親の仇みたいな顔で見ないでくれないかな。


絶対、俺、お前らの親にも誰にも恨まれるようなことしてないぜ。


俺だって面倒ごとは嫌いなんだ。


何よりちびったらどうしてくれる?


「あ、あなた__」


天使様も突然の乱入者に驚いたようだ。


それにしても天使様__俺の名前も覚えていてくれないのか?


「この子を見逃してあげてくれないかな? そうしないと困るんだ。俺、目立たない方の男の子だから、荒事はできれば避けたいんだ」


「目立たないのは見ればわかるさ? 荒事避けたいから許してくれ、なんだそれ?」


「聞いた事ないぜ! 助けに来ておいて、何もしないでくれって? 馬鹿か?」


「でも、俺、そこの天使様に用があるんだけど__」


俺は天使様の方を見る。天使様は目に涙を浮かべながら目をパチクリさせている。


だが、天使様から出た言葉は意外なモノだった。


「あ、あの、私の為に危ない目にあうのは止めて。気持ちは嬉しいけど__」


俺は頭に来た。この天使様は心根が優しいことで有名だけど、自分がピンチの時にすら相手のことを慈しむらしい。


そう言えば、さっき振られている時も相手の女の子の幸せを願っていた。


「なんだよ。お前、やっぱり関係ないじゃないか!」


「痛い目にあわないうちにさっさと失せろや!」


そう言って、二人のナンパ師は俺との距離を詰めてきた。


「うわぁ__顔がこわ過ぎだよぉ、ママ助けてぇ。」


「お前、さっきから何ナメたこと言ってやがる? 随分と痛い目にあいたいようだなぁ!」


ガラの悪い男が俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。


「だ、だめぇ! 早く逃げてぇ!」


天使様が俺に向かって叫ぶけど__。


いや、俺がボコられるの前提で話さないでくれないかな?


そりゃ、俺は見た目陰キャで、強そうには見えないけど。


と思いつつも、勝手に身体が動く。


天使様のありがたい逃亡へのご指導を賜った瞬間、俺の胸ぐらを掴んでいた男の身体がフワリと舞い上がった。そして、激しく地面に落下する。受け身なんて知らないだろうから、角度は緩いものにしたが。


「なぁ!? てめえ、何しやがった! 卑怯者!?」


えっ? 卑怯? 別に卑怯じゃないと思う。唯の柔道だ。むしろ、2対1で普通に喧嘩しようと思う方が卑怯じゃないか?


「この野郎ただものじゃねえな? お遊びはこのくらいだ。こうなったら、俺の古武道の威力を見せてやる!」


「いや、できれば話あいで解決しないか?」


「止めてっ! 駄目! あなた達、早く逃げて!!」


えっ? 天使様? まさかのガラの悪いヤツらの心配?


俺の方が悪いヤツみたいじゃないか?


さっき投げ飛ばした男が再度起き上がって、古武道がどうとか言っていた男も二人がかりで俺に殴り掛かる。俺はひょいひょいとかわした。


当たらなければどうと言う事は無いよね?


その後も色々俺の知らない武器を出したりして仕掛けてくるが、全部かわした。なんか、弱すぎて真面目に戦う気がしない。


「ハァ……ハァ……な、何なんだコイツ?…………し、仕方ねぇ。これだけはやりたくなかった! 俺の最終奥義! 紅蓮流空手奥義! 細胞の一片たりも残らねえから覚悟しろ!!」


いや、細胞の一片も残さないって、どんな奥義だよ! 漫画か! それに、それ唯の殺人だからな!


「紅蓮流 拳闘術、我の拳は鋼なり、我の身体の源は無限の闘気なり、我が拳は無敵なり!」


「いや、待っていられないかな!」


ナンパ師の拳闘術、多分インチキ古武道だろう、言霊に乗せて気を取り込み、身体能力を数倍に引き上げるとかなんとか……。眉唾だけど、待っている馬鹿はいないよな?


俺は素早く拳闘術士の懐に潜り込むと、大外刈を仕掛けて、その男を宙に舞わせた。


男の身体は舞い上がり、今度は加減しないで地面に叩きつけた。


「ぐ、ぐすん、ち、畜生、父親にだってぶたれた事ないのに……」


嘘だろ? こんな悪ぶっておいて、まさかのお父さんにぶたれた事ないって……俺もぶたれた事ないけど……でも、俺は悪い事しない子だから。


「お、覚えてやがれ!?」


「この、喧嘩は預ける!」


まあ、この手の手合いは一度やりあうとなかなか見逃してくれない。


だからと言って、ほおってはおけなかった。多分、この天使様の涙とあのなんとも言えない表情を見てしまったからだ。


「__」


戦いは終わったけど、そんな俺の顔を天使様は何故かポカーンと見つめていた。


俺、おかしいことしたか?

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