第39話 俺君、合宿は前途多難なことに気がつきゴムの携帯を心がける

「つまり文芸部の活動で小説を書いてwebサイトでそれを公開すればいいわけね?」


「そういうことになる。本来、うちの高校の文芸部はそこまで本格的じゃなくて感想文だけでよかったんだけど、ちびはるちゃんがねぇ、はあぁ〜」


「まあ、過ぎたことは考えても仕方ないから部の存続のため、俺達も協力するから前向きに考えていこう」


秋月……さりげなくちびはるちゃんを庇うけど、この件、むしろ絶対貸しだからな。


とは言っても普段一方的に俺の方が世話になってるから言えんか……。


「でも自分で書いた小説がたくさんの人に読まれるかもしれないって素敵ねぇ!」


「冬月さん。それはたくさんの人に読まれる幸運に恵まれた時だけしか味わえないんだ」


俺は冬月さんに予め言っておいた。そう、俺も投稿したことはあるが…察して…。


「でもでも、今から急に小説書くって言っても急ぎ過ぎない? 私、思いつくかな?」


「えっ? 磯風さんも合宿行くんですか?」


「なんか陽葵もそのつもりみたいですね」


俺も知らんけど、陽葵はそのつもりみたいだ。まあ、アリーさんを牽制できるからいいか。


「あれ、ちょっと待って、磯野君、違った、磯風君と磯風さんってもしかして?」


「兄妹ですけど、それが何か?」


「遺伝子って残酷ッ!」


残酷なのはあんただ!


「まあ、そんなことより合宿でみんな缶詰になって執筆してもらうからね、覚悟してね」


俺の残酷な遺伝子はそんなことなのか?


「あの、でも執筆と言っても、私、持ち運べるノートパソコン持ってないですよ?」


「大丈夫よ、天津風さん。スマホで書くか、紙に書いてくれたら先生のパソコンでアップロードするから」


「そっか、紙はちょっともったいからスマホで書けばいいんですね?」


「そうよ。ここは頼りがいのある先生に任せて!」


よく言うよ。誰のせいでこうなった?


「あの、先生、でも、2日間缶詰ってちょっとキツそうだな」


「磯風さん、安心してください。先生もそんなヒマなこと、ゴホンゴホン、鬼じゃないから楽しいリクレーションを用意してるわ」


「何なんですか? リクレーションって?」


「合宿所は先生の知人が経営してる伊豆のペンションでね。すぐ近くに海があるの、午前中は缶詰になってもらうけど、午後は海を満喫できるわよ。それに夜は花火とか、うふッ」


「す、素敵♪ お兄ちゃんと海でデートできるんだ♪」


「ちょ、ひ、陽葵ッ!」


「え? 何で? お兄ちゃんも楽しみにしてる……のかなーって……♪」


「いや、磯風妹、ブラコンは程々にな。わかってるよな、磯風?」


「も、もちろん、わ、わかってるよ。うん」


秋月に諭されて思わずうんと言わされた。陽葵は彼女だけど、ちびはる先生にバレると困る。まあ、バレても秋月が何とか口を塞いでくれるだろうけど、知られない方がよりいい。


「ところでみんな何書くか、大体の方向は決まってるのかな? 先生は素敵な教師と生徒の禁断の愛を綴ろうと思うの」


「ゴホン、ゴホン」


それ、フィックションじゃなくて私小説じゃないのか?


秋山が猛烈にむせた。


「私は記憶を無くした薄情な幼馴染との甘い恋の物語だな」


「あら、アリーさんも恋愛小説? やっぱり女の子ね」


いや、アリーさんも私小説くさい。


「わ、私ッ! 兄との禁断の切ない恋を書きます!」


「磯風さんは……流石にブラコンね。でも……禁断の恋って燃えるわよね!」


「ゴホン、ゴホンッ」


秋月がまた咳き込む。この先生、バレないように努力する気あるのかな?


むしろ自分から自白の方向に向かっているような気がする。


「ふっふふふ。私はちょっと趣向を変えて男の子同士の尊い禁断の愛を書こうかな? ちょうどイメージし易く二人男の子がいるし」


「それ、BLなんじゃ?」


「世間では普通そう言うわね」


「俺達をモデルにするの勘弁して、あとできれば実名とか誰なのか特定できるのは止めてください」


「俺も勘弁してくれよ、冬月。そういうの男子には耐性がないんだ」


「秋月君と磯風君のき、禁断の恋? ちょっと、先生は想像ができないかな?」


「あれ? 先生、ちゃんと決めた時のお兄ちゃんの写真見てもそう言えます?」


陽葵がなんか先生にスマホの画面を見せている。


「え? 嘘? これが磯風君? あわわわッ! 冬月さん、頑張って書いてね! 私、一番先に読ませてね?」


陽葵……何したんだ? BL患者が増えたぞ。


「秋月は何書くんだ?」


俺は割と黙ってる秋月に聞いた。


「お、俺か? まあ、ベタだけど異世界に転生して俺杖ッてやつをだな」


「それは俺Tueeeeだろ? 杖でどうする?」


「意外性とオリジナリティがあっていいだろ?」


意外すぎるだろ?


「それより磯風は何書くんだ?」


「う〜ん。よくある無自覚系最強主人公のファンタジーかな。あとハーレムありでぇ!」


うん、このジャンルは人気あるからな。外せない。これでも少しは投稿したことあるんだ。


多少は研究済みだ。


「ハーレムものか? お前が? それ洒落にならんぞ?」


なんでだ?


「お兄ちゃん? わかってる? ここ現代の日本だよ。お兄ちゃんの好きなラノベの世界では当たり前かもしれないけど、現実には奥さんは一人なんだよ、わかってる?」


「それ位わかってるよ。何言ってるんだ、陽葵? 結婚できるのは一人だろ? それ位のことわかってるよ。ただ、妄想の世界でだけはありなんだ」


「ふ、ふふふふ。そうよね。結婚できるのは一人、あとは愛人にしかなれないものね」


「……そうね。愛人と正妻では雲泥の差だぞ!」


アリーさんがヤバげな発言し始めた。俺は地雷を踏んだような気がする。


あと、冬月さんも同調してる、何で?


「ねえ、磯風?」


「何? アリーさん?」


「10代後半の男女の妊娠確率ってどのくらいか知ってる?」


「し、知らないけど?」


ていうか、何でそんなことを調べる?


「……80%」


「ひぃやぁッ! お兄ちゃんとの赤ちゃんが80%の確率?」


「赤ちゃんできたら……即、結婚よね?」


「……」


俺は無言になった。俺、Yabeeeeじゃないか?


『磯風、お前……ゴムは必ず携行しろよ』


秋月がコソコソと話す。


俺は首を縦に高速で振るよりなかった。

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