第18話 恨・怨・呪
ヴォルニカが生み出した砂塵竜と、残された魔物と聖騎士の戦いは佳境を迎える。
シンハクは砂塵竜の持つ凄まじいスピードに翻弄されながらも、高い技量でなんとか戦いを維持しているような状況であった。歴戦の戦士であるにも関わらず、言葉を話すこともできないただの獣を相手に押し負けている状況はシンハクのプライドを傷つけていたが、だからといって取り乱すようではダメだということを学んでいる。押されながらも、少しづつ隙を見定めて反撃へと転じようとしていた。
(バンジに発破をかけておきながらこの有様では笑えんな)
親友であるバンジはボロボロになりながらも、それでも強大な敵に立ち向かうために再び戦いへと向かっていったのだ。ならば、自分が砂塵竜ごときに負けるなどあり得ない。バンジと肩を並べるためにも、今ここで限界を越えるしかないのだ。
シンハクは意を決して_____成功させたことのない技を使うことを決めた。砂塵竜から距離を取り、妖気を練り上げる構えを取る。
不心転流の槍術は突き技を主体としたものだ。槍による突きは少ない力で高い殺傷能力を誇るため、力が弱い者であっても強者と渡り合うことができる。
だが、当然ながら突き技が通じる相手には限度がある。物理的な攻撃など一切意味をなさないような、理を超えた怪物に対してはまた異なる技を編まなければならない。砂塵竜はまさしくそういう相手であり、どれだけ攻撃をしても痛みもせず怯みもしない。
ならばシンハクが放つ技は一つのみ。不心転流槍術の奥義にして、剣技の奥義『
「
妖しく光った槍の先が、鮮やかな色の光の線を描いた。
それは錯覚である。正しく神速と呼ぶにふさわしい速度で動いた槍の穂先が、目では追えないほどの速度で動いたことで見えた残像のようなものである。
光の線は天を駆ける龍の如く波を打ち、槍の刃先が縦に激しく動いた。
突き技ではなく、槍の刃を利用した斬り技。
槍の長いリーチを活かした強力な斬撃は、一拍にも満たぬ僅かな間に十の軌跡を描き_____砂塵竜を微塵に斬り裂いた。
「……やはり俺は……本番に強いな」
この技はシンハクほどの腕前であっても、一度も成功させた試しがない超高難易度の技だ。血の滲むような努力をしても身につけられなかった技を、まさか土壇場になって習得できるとは。やはり、戦場での命を懸けた極限状態が心を強くするのだろう。シンハクはしみじみと、技との向き合い方を考え直すことにした。
_____一方、シンハクと同じく単独で砂塵竜と渡り合うのは聖騎士序列三位のヴェルト。こちらもまた、技量によって自分よりも強い相手と渡り合っている状況だった。シンハクほど苦戦はしていないが、砂塵竜の不気味な戦闘能力には押し切れない感覚を抱いていたが、シンハクが見せた凄まじい技を目にして、ヴェルトも覚悟を決めた。
「この技はこのような獣相手には使わないと決めたんだがね。あのような素晴らしい技を見せられては、こちらも奮いたくなるというものだ」
ヴェルトは聖なる剣技、アルフェン流の達人である。その腕前はイルトを超えており、聖騎士の中では剣術の指南役を買って出ているのだ。
剣技は凄まじいものの、有する始素の量や身体能力は魔人に覚醒したイルトやアグラには遠く及ばない。だが、だからといって二人よりも決して弱いわけではないのである。どれだけ不利な状況に置かれようとも、技を極めた達人は紙一重の隙から勝利を掴み取ることができるのだ。
「
シンハクの放った技よりもさらに速い斬撃が見舞われる。
突かれるだけで体のバランスを壊される八箇所の部位を狙った八つの剣閃が、ほぼ同時に放たれる。それを眺めていたシンハクですら、その剣閃の正確な動きを見ることは叶わなかった。斬られた砂塵竜は自分が斬られたことにも気づかれないまま、元の砂へと戻っていった。
「……化け物め」
技に自信があるシンハクから見ても、ヴェルドの腕前は異常であった。あれほどの剣技を身につけるために、一体どれほどの修練を積んだのか、想像もできない。
「あなたの槍術も見事でしたよ。槍は得意ではないので、是非御指南をお願いしたい」
「……皮肉にもならんな。俺の槍は魔物専用の技だから、貴様では真似できんぞ」
シンハクとヴェルドの相次ぐ勝利を見て、他の者たちも振るい立つ。
アユカとランカの二人は、アユカが前衛を、ランカが後衛を担うことでなんとか戦況を保っていたが、このままでは体力を消耗し、物量で負けてしまう状態であった。
ならば、シンハクやヴェルドのように、技の力で勝負に出るしかない。
「やってやるわよ。バンジさんがいなくたって、私はできる_____!」
「ええ。いつまでも頼るわけにはいかない。戦いはいつだって、自分のものなのだから_____!」
アユカとランカは共に限界を超えて妖気を練り上げる。
アユカが練り上げられた妖気は手にしたクナイへと注ぎ込まれ、ランカが練り上げた妖気は複雑な術の動力源となる。
砂塵竜は二人が動きを止めた隙に襲いかかってきたが、その鉤爪は二人に届くことはなく、ランカが発動した術の障壁によって阻まれた。
「
ランカが発動した術により、砂塵竜は狭いドーム状の空間へと閉じ込められる。
そして、そこにアユカの全身全霊を込めたクナイが投擲された。
クナイは結界の中へと放り込まれると、次々に結界の壁を跳ね、跳ねる勢いを増していく。そして、しまいには砂塵竜の硬い肉体をも貫いた。
ランカの張った結界の特性は『鏡』である。完全に密閉されてしまえば、中では際限なくクナイが跳ね続け_____すぐにでも、ランカの技量では制御不能なほどに威力が高まる。
高密度の妖気の塊が跳ね続け、いつしか砂塵竜の肉体は粉々に砕かれていた。
「はぁっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ランカが全力の気迫でもって、結界の中で増幅した力を鎮めていく。
「はぁ……はぁ……なんだ、やっぱ……やればできるじゃん、私たち」
「ええ……そうね」
アユカもランカもヘトヘトになっているが、それ以上の達成感を味わえていた。
ようやく、二人もバンジの役に立てたのである。
ザケルとハイブラはボロボロになりながらも、衰えることのない闘志を漲らせ、さらに力強く砂塵竜と打ち合っていた。
熱い闘志でひたすらに拳で敵を打ち続けるザケルと、竜翼人の誇りを胸に炎を吐き出し続けるハイブラ。二人とも消耗が激しく、始素が尽きかけている。
だが、ここで諦めることはない。誇り高い二人は、追い詰められた状況でさらに熱くなっていく。
「オラオラオラオラァッ!こんなんじゃ全然足りねぇぞ!」
「我らは負けぬぞ!」
ザケルは一切の防御を捨て、苛烈極まりないラッシュを見舞っていく。受ける砂塵竜もさらに勢いを増してザケルを攻撃するが、それを一切防御せず、攻撃に攻撃を合わせることで強引に相殺していく。
ハイブラも、砂塵竜に効き目の薄いからといって炎の攻撃を止めることはなく、逆にさらに炎を強めた。炎を吐き出す口が焼けていこうとも構わず、さらに強く。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」
血まみれになり、その身を焼こうとも構わずに続ける二人の猛攻の末_____砂塵竜は苛烈な防御に耐えられなくなり、その身を砂塵へと帰していった。
「……ははっ……やっぱ男は、馬鹿して無茶する時が一番つえーな……」
「うむ……同感であるな……」
もちろん、無茶をした二人も無事に済んでなどいない。体力も気力も全て使い果たし、その場に倒れ込んでしまった。
ミデラとオンドラも、ザケルとハイブラに負けず劣らず無茶をしていた。翼による攻撃を得意とするミデラの羽はほとんど尽きかけており、ミデラの代わりに体を張ったオンドラは全身に強く殴打された跡が残り痛々しい。
だが、仲間の勇姿を見て、二人もまた限界を超えて気を高めているところであった。
(このままでは、みんなに遅れを取ってしまう。それだけは、絶対に嫌よ_____!)
自分と普段から術の腕で競い合っているランカも、アユカとの連携で砂塵竜を一体倒している。ならば、自分にだってできるはずだ。
ミデラはそう思い、覚悟を決める。雑念を捨て、本気で己の妖気を高めたのだ。
「ふむ……お前も覚悟を決めたか。なら、俺が覚悟を決めぬわけにはいかぬな!」
オンドラもミデラの覚悟を見て、同じく妖気を高めた。
オンドラはバンジと共に剣技を高めあった、
バンジとは、剣の腕前なら互角なのである。バンジにできる剣技があれば、それはオンドラも実現可能だ。
「オンドラ、私の残った力全てをあなたに注ぎます。全力で仕留めてください」
「承知した。助太刀痛み入るぞ、ミデラ」
ミデラが発動したのは、支援妖術『
戦闘の疲れで衰えていたオンドラの妖気の巡りが格段に向上し、オンドラの全身に力が漲る。
(凄まじい。これならば、今この瞬間に生涯最高の技を実現できよう_____!)
オンドラが放つのは、不心転流の奥義。波打つ龍が、竜を砕く_____!
「
畝る六つの剣閃が砂塵竜の肉体を斬り裂き、最後の一閃が砂塵竜の肉体を完全に砕いた。
「やった……やったよ、バンジさん」
「おいおい、死ぬようなやつのセリフを吐くな」
ミデラは全ての力を使い果たし倒れてしまった。オンドラも、全力で撃ち放った技の反動で全身の傷口が開き、満身創痍の状態だ。
だが、これでようやく戦場に座していた砂塵竜は駆逐できた。
_____わけではなかった。
「グギャァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
最後の一匹が、力尽きたミデラとオンドラに襲い掛かる。
オンドラはなんとか反応できたが、力を失った今では、もう反撃することは叶わない。
(クソッ……!せめてミデラを……!)
オンドラは最後の力を振り絞り、ミデラを押し飛ばそうとする。
だが、その必要はなかった。
砂塵竜よりも早く、上から降ってきた巨大な気配が、手に持つ大剣で砂塵竜を砕いたからである。
「雑魚が」
気配の主、ジオの体験は砂塵竜を木っ端微塵に砕き、その大剣で地面に巨大な裂け目を作った。
「……お前の技、バンジって鬼が使ってた技と一緒だったな。なんて剣技なんだ?」
「不心転流という。魔物の剣技であるが故、貴様のような人間に、この技は使えぬぞ」
「あっそ。別に使おうとか思ってねーよ」
ジオはバンジとの勝負を経て、爽やかな雰囲気になっていた。いきなりバンジに奇襲をかけていたためオンドラはあまりジオにいい印象を持っていなかったが、どうやら変化があったらしい。
「……ふむ。やはり、バンジは他者を惹きつけるものをもっておるな」
「ああん?なんで俺を見て爽やかになってくれちゃってんだ?そもそも、俺はアイツに惹かれてなんかいねーぞ」
そう吐き捨てるジオだが、戦いの末にバンジに言ったことは嘘ではない。ジオは本気で、バンジよりも強く、そしてカッコいいやつになりたいと思っていた。
「さて、これで雑魚は片付けられたけど、どうする?俺聖騎士だし、やっぱ魔物はこの場で殺しておこうか?」
「ジオ、余計なことをするな。アグラさんを追うぞ」
ジオはバンジと同じ剣技を使うオンドラに興味があったので手を合わせたいと思っていたのだが、それは横から入ってきたヴェルドによって阻止された。
「えぇ……アグラさんいるなら大丈夫なんじゃ_____」
「アグラさんの全力でも、あの竜は倒されなかった。西方に向かっているのであれば、無視はできん」
ヴェルドの真顔を見て、ジオも頭を冷やす。曲がりなりにも聖騎士を務めているのであれば、人類の脅威と戦うことは避けられない。
「魔物の諸君、協力には感謝するが、君達と戦ったことは公にできん。ここで別れさせてもらおう」
ヴェルドはそう言うと、ジオとフェリスを率いて西に向かって凄まじいスピードで走っていった。
「……ねぇ」
「なんだ」
「……もちろんだけど、追うよね」
「当たり前だ」
アユカにそう尋ねられ、言うまでもないと豪語するシンハク。空中に待機させていた予備のブルタンを呼び、急いで西方へと向かおうとする。
「聖騎士のことなどどうでもいい。俺たちはただ、大切な仲間を守りに行くだけだ。違うか?」
シンハクとて、聖騎士と仲良くする気はない。だが、彼らのリーダーであるバンジは、聖騎士と共に西へと向かっていった。ならば、自分達が追うのは何を差し置いても当たり前のことだろうと考えたのである。
「行くぞ。ムカつく聖騎士の連中に遅れを取るな!」
「シンハク……キャラ変わってる……」
「ん?」
アユカが指摘したのは、生真面目で常に真顔で固定されているような男であるシンハクが、いつにもなく熱いキャラになっていたことに対してだった。
__________
殴る。受け止められる。
殴られる。危ないので無理にでも躱す。
胴体がガラ空きなので蹴る。でも硬くてダメージが入らない。
力が爆ぜてぶっ飛ばされる。砂の上をゴロゴロと転がり、受け身の姿勢を取る。
走る。助走付きで蹴る。
躱される。空いた胴体にパンチが来る。
身を捩って躱す。僅かに掠って、皮膚が抉れて血が出てくる。
背後を取って思い切り殴る。でもやはり硬くて、手応えのない感触しかしない。
跳ぶ。距離を確かめる。
また跳ぶ。間合いを詰めて全力で蹴る。
余裕で防がれる。嫌な予感がして横に跳躍し、熱線を躱した。
そのまま熱線が地面を焼く。焼かれたらやばいので、がむしゃらに避け続ける。
屈む。真上を拳が通る。
膝蹴りを見舞う。だが、効いていない。
距離を取る。取っていなかったら、拳で真っ平にされていた。
衝撃波が飛んでくる。当たったら骨が砕かれる威力であるため、全力で避ける。
_____
こんなにも力が溢れてるんだから、もうどうでもいい。
やるべきことは単純明快だ。それすなわち_____『ぶっ殺す』。
近づいて思い切り殴る。殴り返してくるけど、避けずにそのまま殴る。殴って殴って、殴りまくる。タコ殴りにしてサンドバックにしてやる。反撃してくる。俺の体のあちこちを拳が抉る。構わない。そろそろ蹴りも入れる。特に顔を殴りまくる。殴る、殴る、蹴る、蹴る、殴る。殴られる、殴られる。血が噴き出て、歯が何本か吹っ飛んだ。体のあちこちがメキッ、バキッと鳴る。うるさい知らない。もっともっと殴る。拳に血が滲むけど気にしない。硬かったけど、段々と割れるようになってきた。ヤツの体からもメキッ、バキッという音がなる。胸が高鳴る。殴る、殴る、殴り潰して、蹴り潰す。殴り砕く。赤い液体が飛び散り顔にベタつく。拳をさらに早く打ち付ける。ヤツの体からドス黒い血が飛び散る。ってことは赤い血は俺の血のようだ。よく見ると、胴体のあちこちの皮膚が
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
繰り出された拳が。
突き出された爪が。
両者の胸を、遠慮なく貫いた。
__________
「…………なんだあれは」
遠巻きのその戦いを見ていたアウスドラは驚愕と、それに勝る不快感に目を見開いていた。
「あんなの……人間の戦い方じゃねぇよ。自傷前提で殴りかかるなんて、そんなのは人外の化け物だけの話だ」
「……」
イルトも、そのあまりに苛烈な戦いには驚きを隠せずにいる。
確かに魔人に覚醒していれば、例え心臓を貫かれても気合いで動くことができ、致命傷からでも回復できる。だが、痛みがなくなっているわけではない。血を流す激痛はそのままであり、傷の回復もすぐに行われるわけではない。
その点、瑛人の戦い方は明らかに異常だった。血を流し、骨を砕かれ、臓物を破壊されようともそれらを無視してひたすら敵を殴り続ける。拳の骨が折れていることにすら気づかずに、がむしゃらに打ち続けた。
当然、それで瑛人が無事に済むはずはない。やがて立っていることすらもできなくなり、その場に崩れ落ちてしまった。
だが、それはヴォルニカとて同じこと。体中を滅多打ちにされたことによって、膨大なエネルギーによって『
イルトにはこの隙を使い、瑛人とヴォルニカの両方を仕留める選択肢もあっただろう。だが、激しくぶつかり合う両者の間にある、悍ましいとしか表現できない不思議な圧力が、イルトに行動を許さなかった。
憎み合うもの同士の激しすぎる戦い。血と憎悪に溢れた戦いは、一向に終わりを見せなかった。
「フゥッ……フゥッ……フゥッ……!」
ヴォルニカは全身を蝕む強烈な痛みすら忘れるほどに目を充血させ、目の前で寝そべる人間を見据える。
(アアアアアアア!ニクイニクイニクイ!ユルセナイ!コロシタイ、コロシタイ!グチャグチャニヒキサイテナンジュッコニモワケテヤリタイ!スリツブシテドロドロニシテヤリタイ!ユックリトセツダンシテマッカナチヲブチマケテヤリタイ!ハヤク、ハヤク_____ハヤクコロシテェェェェェェェェェ!!!)
ヴォルニカの頭の中では、割れるほどの大きな声量で怨嗟の声が舞い上がっている。行き場のなかった怨嗟が目標を定め、果たすべき復讐を遂行できるのだから、無理もないだろう。復讐できることへの無上の歓喜と、目の前の宿敵がいることに対する絶対的な怨念。二つの相反する感情が混ざり合い、ヴォルニカが有する始素を変質させていった。
もはやヴォルニカは厄災竜ではない。瑛人という一人の少年を殺すことに取り憑かれた、強大な怨念の塊である。
憎しみによって活性化した始素は高速で破壊された肉体を修復していき、憎しみをより強く体現するように、肉体は黒色に染まっていく。収縮させていた肉体は徐々に膨張を抑えきれなくなり、四肢と胴体が膨れ上がり、所々に突起物が生えていく。
そうして現れた姿は、もはや竜の面影を残していない。それはもう、かつて竜の形をしていた、強大な怨霊に過ぎない。
「グガアアアアアア■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
もはや声にすらならぬ、巨大な咆哮。
その音に気づき、瑛人も起き上がる。
つい先ほどまで全身から血を噴き出していたにも関わらず、既にその傷のほとんどが修復されている。魔人であるとはいえ異常な回復力の秘密は、その左腕の付け根にあった。
今もなお漏れ続ける、熱く強大な力。それが瑛人の肉体へと還元され、無限の動力源となってその体を動かし続けていたのだ。
「アハッ、フヘヘッ、アフハッ、ハハッ」
横たわるその体から出た最初の声は、不気味な笑い声だった。
「ゲホッ、エホッ、ハハハッ、オエロッ、ガッ、ハァ、アハハッ……」
瑛人は、思い出していた。
「ブヘヘッ、アハッ、フヘヘヘヘヘッ、アハハハッ、ダハハハ、カハハハハッ……」
この戦い方は、既にやったことがある。
ひたすらに邪魔なものを殺し続けて、血を浴びた記憶。
死臭を嗅ぎ続け、真っ赤に染まる視界を眺めた記憶。
敵の肉を穿ち、敵の怨嗟を聞いた記憶。
魔人に覚醒するほどに強い感情が、忘れられようとしていたその記憶を呼び起こした。
「ゲヘヘッ、フヘッ、アハハッ、イヒヒヒヒヒ、ヒヒヒヘヘ、ハハッ、ハハッ、ハァァァァ、アハハハハハハハハハハハハ、ヒャハハハハハハハハハア、アッハッハ、ハハハ、フフフフッ、フヘヘヘ、フフ、ウヘヘヘヘ、ゲヘヘヘハ、ゲハハハハハハハハハハハハハハハハハッハ、ハハッハッハッハッハッハ、ハハハハハヒヒヒヒ、ヒヒヘヘヘ、ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アハッハッハッハッハ、バハハハハハバハハバハハハハハハハハハハハハ、ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ゲハハハハハハハハッハハハハハハッハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」
胃を刺激する強烈な不快感と。
脳天を貫く、途方もない快感を。
瑛人は、思い出していた。
「オオオオオオオオオオオオ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
憎み合う両者は再び、お互いを砕かんと叫び、ぶつかる。
先ほどよりもより強い思いと力を込めて。
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