幕間 禍竜
そこは、光すら遮る砂塵の果て。死が満ちた砂漠の奥底にて。
それ_____人々には『禍竜』と呼ばれた竜は、静かに目を開ける。
長い眠りから覚め、再び食事が必要となると思い、竜はその顔を地上へと出した。食事のためには、やや遠出しなければならない。遠くに潜む
ふいに、呼吸するだけで自分に舞い込んでくる膨大なエネルギーを感じた。不思議に思い口を開けると、自然と大量のエネルギー_____始素が、自分の腹に溜まっていった。
これは予想外の出来事だった。いつもは食事になりうる始素など欠片も存在しない砂漠に、今日だけはまるでここが始素の海であるかのように、始素が充満している。これならば、食事のために遠出する必要はない。竜は大喜びで、大気に満ちた始素を喰らい始めた。
始素は竜の腹の隅々まで満たすほどに充満しており、食事はすぐに終わってしまう。だが_____ここで、誰にも予想できぬ変化が、竜に起きた。
感情の起伏に乏しい竜に_____竜の脳裏に、見たことがないはずの記憶が映った。それは、飲み込んだ始素の元となった、魔物たちの心の残滓だった。
記憶は血塗られた者だった。次々と周囲の魔物たちが暴力によってひしゃげ、血の雨が降っている。そしてその始素の持ち主は、暴力の発生源_____剣を持ち暴れ回る、狂気に満ちた人間を見据えていた。
そして、その人間を、心の底から憎いと思ったのだ。
その感情は、一体だけの話ではない。竜の腹に溜まった無数の始素から、同じ記憶が思い出された。
そしていつしか_____その記憶を見続けた竜も、死した魔物たちを憐れむ心を持つようになり_____同時に、その人間を憎いと思い始めた。
竜は、何百年も感情に動かされたことはない。だが、生まれて初めての激情は、想像を絶するほどに強い力で竜を突き動かした。
その巨体を地面から完全に地上へと移し、竜はさらに始素を喰い続ける。腹は既に満たされたが、それでも尚始素を喰らい続けた。なぜ自分がこんなことをするのか理解できなかったが、それでも竜は始素を喰い続け_____ついには、その肉体を始素が作り替えることとなった。
竜は最強の魔物である。高い知能と、何よりも圧倒的な量の始素を誇る。
その竜が砂漠に散っていった魔物たちの死を喰らったことで_____竜は、さらに上の次元へと至ったのだ。
人間が超人に、そして魔人に覚醒するように_____竜も、覚醒の時を迎える。
竜の上に立つ存在_____竜王として生まれ変わったのだ。巨大な図体はそのままに、その内部では荒れ狂うエネルギーの奔流が巻き起こっていた。
竜は、もう一度目を開く。そして、己が憎しみを抱く敵_____瑛人を探す。
竜の目は、遥か彼方の気配であっても探ることができる。ジオの目よりもさらに高性能なその目は、完璧に瑛人の影を捉えることに成功した。
「グオオオオオオオオッッッ!!!」
久しぶりの雄叫びを上げた。それをするだけで、憎しみから連鎖的に闘志も湧き出てきた。
竜は生まれて初めて_____その顔に、確かな笑顔を浮かべた。
「……マッテ、イロ。……カナラズ、キサマヲコロシテヤル!」
魔物たちの死が生んだのは、想像を絶する大災害の復活。
『禍竜』の暴威が吹き荒れるまで_____あと、わずか。
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