第23話 The days after returning
砂漠を歩く。足跡が残されるが、それらは砂嵐によって瞬く間に塗り替えられていってしまう。世界最大の砂漠は、俺の足跡など歯牙にも掛けない。
ここはアフリカ大陸北部の国、アルジェリア。その南東部に位置する『タッシリ・ナジェール』と呼ばれる地帯を、俺_____葉村瑛人は歩いている。
ここには、古くから伝えられている有名な壁画がある。先史時代に描かれたとされるそれは動物や人の姿だけでなく、神秘的な存在について描かれているものもあるのだという。ナスカの地上絵などと同じように、描かれた理由が明らかになっていない、謎に包まれた作品の一つだ。このような老古学的な価値も相まって、この地域一体は世界遺産に登録されている。
壁画の近くまで実際に行ってみると、自然環境も含めて神秘的な雰囲気が漂う場所であった。感覚と研ぎ澄まし、周囲に異常なものがないかを探る。
今や俺の五感はスーパーマンと比較できるくらいには凄まじいものになっている。数十キロ先を歩いている人の数を数え、僅かな空気の振動や風の向きの変化を感知して天気を予測したりと、かなりやりたい放題だ。世界の全てを知ることができるかのような全能感だが、肝心のことを感じられないようでは宝の持ち腐れである。
「……ここも、特に何もないな」
世界遺産級の壁画があるが、一切の感傷も抱かずに、俺はその場を後にした。次に向かうのは、ここからまっすぐ南に進んだ先にあるニジェールという国である。そこまでの間、日に照らされた砂漠を歩み続けなければならない。
だが、魔人に覚醒した今の俺は、そのような過酷な環境など苦にならない。今も尚体から溢れ続ける力_____
ちなみに、髪の色は戻っていない。染めようかとも思ったが、この白い髪を染めてしまうと、あの世界に行ったことを忘れてしまいそうだったからだ。
そう、俺は帰ってきたのだ。俺が生まれた、この世界に。
_____そして、俺は取り残された。俺が全てを投げ出した、あの世界から。
__________
最初は大変だった。
俺は最初、意識を失った状態で見つかったらしい。公園の砂場に倒れ込み、それを見た近所の住人が救急車を呼んで、俺を病院に連れて行ってくれたのだそうだ。
不思議なことに、俺が見つかった公園、そして俺が運び込まれた病院のある街は、俺がもともと住んでいた街から何百キロも離れた場所にあった。既にうろ覚えになっっていた自宅の住所を言うと、看護師さんたちが目を見開いて深刻そうに話していたのを覚えている。
その後、俺は失踪者として警察のお世話にもなった。事情を聞かれたが、まさか異世界に行ってましたとは言えない。記憶喪失したふりをして、気づいたら公園に倒れているという話にまとめた。
だが、今度は警察の人も不思議そうな顔をしていた。と言うのも、俺が突如として異世界に飛ばされた日から俺が発見されるまでの間、半年もの時間が経過していたためである。半年もの間失踪し、なおかつどの監視カメラにも映らないままどのようにして過ごしたのか、何度も何度もしつこく聞かれたが、面倒なので『覚えていない』で突き通した。
驚くのはこれからだ。警察関係者はすぐに俺の家族を呼び出そうとしたらしいのだが、俺が知っているはずの両親は俺のことを知らなかった。葉村家は二人の
だが、俺にはやるべきことが明確にある
。少しでも早く行動を始めないと、頭がおかしくなりそうだった。
俺は養護施設を案内された後、荷物を整頓し、誰にも知らせぬまま密かに施設を抜け出した。
真っ先に向かったのは、故郷の街だ。父さんも母さんも俺のことを知らないらしいが、本当なのか確かめに行った。
家があった場所にたどり着くと、以前となんら変わらない家の姿がそこにあった。ちょうど平日の昼間なので、父さんも母さんも、弟も妹もいないはずだ。
泥棒だと思われないようにそっと家の裏口まで辿りつき、家族しか知らない隠し鍵を見つけ出し、それを使って家の中に入った。自分が知っていることがまだ残っていることを知って、安堵したことを覚えている。
そこにあったのは、変わらぬ家の姿だった。同じ食卓の場所、同じ冷蔵庫、同じ洗濯機、同じテレビ。ところどころに引っ掻かれた後のある壁も同じだ。
期待を弾ませ俺の部屋がある場所へと向かったが、その部屋だけが記憶と明らかな違いがあった。部屋は弟の部屋として使われていた。思えば、一人だけ年の離れた俺は自分用の部屋を与えられていたが、小さい下の二人は同じ部屋だった。俺がいなく
なったお陰で、二人は自分専用の部屋を手に入れることができたようだ。
それを見て、もうこの家に俺の居場所がないことをはっきりと確認できた。
次に、学校へと向かった。まだ半年なのであれば、俺はまだこの学校の生徒であるはずだ。制服はないが、一人でも俺の顔を覚えてくれる奴がいれば気づいてくれる。
学校では、校庭のグラウンドでちょうど俺のクラスメイトたちが体育の授業をしていた。見慣れた友もいた。方正、筑紫、渡辺、浅野の四人は、今日もふざけてばかりのようだ。嬉しくなったので声をかけようとしたが、研ぎ澄まされた聴覚で拾った声によって、声をかけることは叶わなかった。
『今日サイゼ行かね?』
『俺行けるよ。ミラノ風ドリア食べたい』
『俺も行ける。マルゲリータピザ目当てで』
『俺ハンバーグ定食』
『おやつ食いに行くだけだぞ?どんだけ食ってんだよお前ら……』
『いいだろ別に。俺ら四人はあのサイゼの常連客なんだから、きっちりお金落とさねーとな』
『あの四人席、先行って取っとくわ』
そこに、俺の居場所などなかった。かつてのように、五人で好きにやってた時間は、とっくに消えていたのだ。
それが異世界に行っていたからなのかは分からない。なんであれ、俺が帰る場所などないことは確定事項となった。
校門に背を向け、ゆっくりと歩を進める。校門の近くに誰かがいたが、俺に声をかけてくれることはなかった。
そのまま、俺は歩き続けた。帰る場所もなく、行く宛もなく歩き続けた。
そして公園のベンチに腰掛け、空を眺めた時_____初めて、涙が頬を伝った。
「……やめろよ……くそっ……」
泣きたくなかった。ここで泣いてしまえば、胸につっかえたものが際限なく溢れてしまうようが気がしたから。
上を向いてどうにか涙を堪える。上を向けば、涙が零れなくなると思ったからだ。こうしていると、九ちゃんの歌が思い出される。元気を取り戻そうとして口ずさもうとしたが、歌よりも先に涙が出てきてしまった。
「なんだよ……上向いても零れるじゃん……」
涙で濡れた夜空は、月明かりと公園の照明のせいで随分明るく感じた。
__________
その後、俺は旅をしてみた。
旅がしたくなったわけではないが、これ以外にやるべきことは思いつかなかった。
彼女を取り戻すためには、どれほどの困難であっても成し遂げる覚悟はできている。もう何も持たなくなった俺は、それ以外に生きる意味などないのだから。
彼女の行方を追うには、まずあの世界について調べなければならない。あれが本当に異世界なのであれば、そんなものは本当に存在するのかを調べる必要がある。もし異世界でないのであれば、あの体験が一体なんなのかについて調べる必要がある。
彼女が生存していることを疑いはしない。確かにあの時、俺は自分を自分で貫きその場で死んだが、今もこうして生きている。彼女とは魂すらも通わせたのだから、俺が助かっているのであれば彼女が生きている可能性は十分にある。
そこで何から始めようかと考えたが、真っ先にやるべきことは今のこの体の確認だ。あの世界に行った後と前で、俺の体は随分と変わっている。平均程度でしかなかった俺の身体能力だが、現在ではオリンピックメダリストすら可愛く思える程度に向上した。電車と同速で走ることなど造作もなく、その何倍も早く走ることだって可能だ。一度ジャンプすれば高層ビルを飛び越え、そこから落下しても体が痛むことはない。倒木を片手で持ち上げ、車を止めることもできる。
それは全て、常に全身から立ち込める始素の影響だと思われた。どうやら、始素はこの世界にも存在しているらしい。試しに手から始素を打ち出してみたが、放たれた始素は容易くコンクリートの壁を突き破った。
これを本気で打ち出せばどうなるのか。誰もいない海辺にいき、海に向かって可能な限りの力を込め、始素を撃ち放った。
放たれた始素は衝撃波と共に遠くの海面に流れ落ち_____まるで海底噴火が起こったかのような巨大な水蒸気爆発が起きた。
水飛沫が空高く打ち上げられ、爆発の衝撃による大波が海岸を襲った。幸い、誰もいない夜の時間だったので被害はなかったが、海沿いのレジャー施設などの多くがダメになってしまった。翌日、ニュースで海底火山の噴火が起きたと報じられた時、この力を全力で放つのはやめようと誓った。
その後様々なことを繰り返して学んだことだが、あの世界と比べ、この世界には始素がほとんど存在していない。あの世界には空気にも水にも、何にも微量の始素が含まれていた。だが、この世界は違う。どこに行っても始素の痕跡は僅かほども確認できず、始素がない中で自然環境が成り立っている。
だが、始素が存在することはできている。俺から放たれた大量の始素はただ消えていくわけではなく、ゆっくりと散って大気中に分散していったようだ。
始素を錬成する方法も共通している。心を研ぎ澄まし、気を練り上げることで始素を自分で作り出すことが可能だ。全力で発散した後も、一日休んで始素を練り上げれば十分に回復する。
つまり、あの世界の法則はこの世界でも通用すると言うことだろう。まるでゲームのような仕組みだが、現にこの身で体感してしまっている以上、否定することはできない。
すると、一気に光明が見えてきた。この世界でも始素が使えるのであれば_____あの世界で使われていた妙な術、
祈術とは祈りの心_____純粋無垢で善良な心に基づく願いによって錬成された始素によって発動される術であり、呪術はその逆である呪いの心_____負の感情や悪意によって錬成された始素によって発動される術だ。
実際に使ったことはないが、原理については理解している。であれば、あとはできるようになるまでひたすら訓練するだけだ。そうして術の発動が可能になれば、俺が呼び出されたのと同じように、『召喚術』というものを使ってもう一度あの世界に行くことができるかもしれない。
例え何年かかったとしても絶対にやり遂げる気でいたが、これが思いの他困難なものだった。始素の操作自体は十分な水準にあると自負しているが、術の発動ばかりはどうしても上手くいかない。山奥に篭り、まるで仙人のような武者修行を始めた。
ちなみにだが、今の俺の肉体は常人のそれとは全く異なる。『魔人』という存在はどうやら心が肉体を凌駕した存在らしく、睡眠どころか呼吸も必要ないらしい。常人である時の癖が残っているので常にそうなっているわけではないが、意識を集中すれば呼吸を止め、さらには心拍すら止め、五感のオンオフを自由に切り替えられる。こうすることで極限の集中状態を作って何度も試してみたが、始素の操作技術が上がるばかりで、肝心の術の発動は上手くいかない。気づけば一週間以上瞑想していることなどザラであり、始素の発散で周囲の地形がめちゃくちゃになっていることもあった。
睡眠は必要ないが、どうやら睡眠欲自体はあるらしく、その気になれば眠ることもできる。また、食欲も残っており、食べ物を口にするとそれなりの満腹感を得ることができる。しかし、あの世界での過酷な経験のせいか味覚が幾分か麻痺しており、久しぶりに食べたコンビニの肉まんを食べても、中華風の独特の旨味を感じることはできなかった。それ以降、栄養の摂取は満腹感が得られる程度の最低限のものにしている。魔人はどうやら食事すら必要ないらしい。
そんなことを繰り返していたが、一向に上手くいかない。流石にやり方を変えるべきだと思った俺は、宗教系の精神修行について勉強してみることにした。宗教上の修行の多くは精神を整えることに特化しており、もしかしたら祈術や呪術のトリガーとなっている精神的な動きについて何か得られるかもしれないと思ったためだ。
本屋に行って学んだ後、実際に寺院を訪れて修行に参加させてもらったこともあった。だが思うような結果は得られず、そんなこんなで一年近く日本中を旅していた。
それでも手がかりを掴めずにいた俺は、海外行きを決めた。海外にも多くの宗教があり、独自のやり方で修行を行っているところがある。また、アフリカの一部地域などでは、今でも祈祷師やシャーマンといったことを生業にしている人がいるらしく、何か学べることがあるのではないかと思ったのだ。
祈術や呪術は、この世界では空想の産物とされる魔法のようなものだ。あの世界では実在したのだから、この世界で魔法のようなものが残っていても不思議ではない。日本を回ってる中で人助けをしたりして何とか集めた金を使い、飛行機で海外へと向かった。
便利なことに、知らない外国語で話しかけられても、細かな挙動や表情の動き、声の震え具合などから、おおよその意味が理解できるようになっていた。これも、魔人となったことの恩恵だろうか。こちらから話す際も、言葉に始素を込めて話すことで、日本語が通じない人に対しても意味を伝えられるようになっている。おかげで対人コミュニケーションには困らなかった。とはいえ、文字を読むことはできないので、標識が読めなくてたまに怒られてしまったが。
道は、現地で調達した地図を見ながら確認した。スマホを使えば一発なのだが、かつて使っていたスマホはいつの間にか消えており、新しく買うにも金がない。既に十分スマホがない状態を経験しているので無いからといって困りはしないが、こうやって地図を調達する必要がないのだと考えると、やはり便利な道具なのだと考えられる。
最初に向かったのは、中国の山奥にある寺院だった。そこでは武道をはじめとする数々の修行を実践しており、
今度はインドへと向かった。数多くの宗教が存在するインドでは、土地ごとに異なった様々な伝承が存在する。中国での経験から、そういった伝承、御伽噺が案外馬鹿にできないものだと理解した俺は、今でも伝統的な教えを守っている場所を数多く訪れた。場所によっては部外者を受け入れていないところもあったが、何日も連続して訪れて無理を言って入らせてもらったこともあった。
ここで特に学びになったのは儀式についてである。様々な道具、特別な場所、そして独自の唱え言や舞踊などを通し、人は儀式を行う。それは信仰する神への祈りであったり、時には呪われた存在を祓うためであったりもする。この宗教的な儀式が、祈術や呪術と繋がりがあるのではないかと考え、儀式に何度も参加した。
そこで気づいたことは、儀式における神秘的な雰囲気が、少なからず始素に変化を与えることであった。始素は人の感情に反応して動くというが、儀式中に起きた始素の変化は、単に始素が俺の感情に反応したというわけではなさそうだった。というのも、俺から漏れ出た始素が儀式場に充満していたのだが、儀式に携わる人たちが祈りを捧げたことで、充満していた始素も変質したのだ。もしかするとこれが祈術を会得する鍵なのではないかと考えたが、その後何度も儀式を試しても、特別な術の行使には至らなかった。
次に向かったのは中東の砂漠地帯。太古の昔から数々の国や民族が争いを繰り広げたこの地域では、宗教も非常に多様だ。古代文明の遺跡なども数多く残り、歴史の跡が残る。インドでの経験から神秘的な経験が重要なのではないかと考えた俺は、荘厳な神殿や歴史的建築物を巡り、宗教的な伝承が残るパワースポットを回った。また、砂漠という過酷な自然環境の中、明かりのない夜に満点の星空を眺めたりもした。
だが、成果はほとんど得られなかった。得られた成果といえば、前に比べて格段に始素保有量が増えていることと、その制御技能が向上したことくらい。未だ不思議な術は一才使うことができず、進展はない。観光をする気などなれず、現地で助けてくれた人とも、それ以上仲良くなる気にはなれなかった。
かといって、他にやるべきことがあるわけでもない。俺はただひたすらに旅を続けた。インドに到着してからは身銭が尽きたため、移動も徒歩がメインである。何日も食事にありつけない時もあったが、空腹感は気合いで耐えた。どれほど飢餓状態になろうとも、暑さや寒さが極端な過酷な環境であっても死ぬことのないというのは便利なものだ。一部治安が悪い場所も通ったが、今の俺は銃で撃たれても傷を負うことがないので心配無用だ。
__________
そうして、今に至る。砂漠の夜は冷え、砂の混じった風は躊躇なく俺の体温を奪っていく。だが、始素を纏えば何の問題もなく歩行できる。大きな崖があったが、簡単に飛び越える。
人が様々な工夫を凝らしたことで可能にしたことを、今の俺はいとも簡単に実現できる。だが、誰でもできることが、俺にはできない。
この先に何が待っているのか、さっぱり分からない。このまま世界中を回ってみてもいいが、そんなことには何の意味もない。
俺が見たいものは、得たいものは、ただ一つなのだ。そこまでの道のりは、果てしなく遠い。
「…………っ」
石に躓き、地面の上を転がる。特に怪我をすることもないので、立ちあがろうとする。だが_____立ち上がれない。
「…………あれ」
何度も膝をついて起きあがろうとするが、力が入らない。手が地面から離れず、足は地面に縫い付けられたままだ。
何事かと思い足を確認してみたが、痛みなどはない。ただ_____足は見て分かるほどに、小刻みな震えを見せていた。
「……あれ、寒かったからかな……なんで震えてんだろ……」
始素を足に纏わせ力を込めるが、それでも震えは治らない。まるでまだ歩くことを拒否しているかのように、足は言うことを聞いてくれなかった。
仕方なく、その場で夜を過ごすことを決めた。這いずって近くの岩場の影に隠れる。リュックに入った布を被り、睡眠状態になるために意識を澄ました。
すると、自分がなぜ震えているのか理解できた。以前に比べて自分の内面を深く探ることができるようになっていたため、自分が何を考えているのかを自覚できるようになったのである。
俺は_____恐怖していた。
何に?なぜ?
それ以上は考えたくない。だが、考えたくないと思ったことは考えてしまうのが、人間の性だ。
_____もし、これ以上旅をしても何も得られなかったら。
_____もし、この世界には一縷の望みすらないのであれば。
_____もし、これからも今のまま孤独でいるしかないのであれば。
_____もし、このまま彼女に会えないまま
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
思考を振り払うべく、思い切り叫んだ。
ダメだ。これ以上考えてはダメだ。
眠ろう。そして朝を迎えれば、頭の中もスッキリするだろう。恐怖を忘れて、また踏み出していけるはずだ。
眠れ、眠れ。眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ_________
やっぱり、消えない。いつだって心には彼女がいる。
もう一度会いたい。もう一度声を聞きたい。もう一度手を繋ぎ、抱きしめたい。
例え何度生まれ変わっても、もう一度出会うためなら、俺はありとあらゆるものを投げ捨ててでも動くはずだ。
でも、もし彼女に二度と会えないのだとしたら。それが運命なのだとしたら。
_____俺の孤独は、永遠に満たされぬままなのか。
「__________うぐ、ぐっ……」
自然と涙が溢れてきた。故郷に帰った時に流して以来、一年半ぶりの涙だった。
「あ……ぐ……ううぅ……!」
でも、それは静かな涙ではなかった。次々に込み上げる恐ろしい想像が、際限なく心を引き裂いて、その隙間から絶え間なく涙が溢れた。
まるで砂漠の中に一人佇む俺に、憐れみの雫を落とすように。
「あぁっ……あああああああああぁぁぁぁぁぁ…………!」
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