第32話 開花する才能
鉱石は何も見付けられないまま3階に入った。
「あれがそうかしらあ」
壁に向かって座り込んでハンマーなどを振るっている人、その背後に立って辺りを警戒している人が数組いた。採掘の途中らしい。
横を通り過ぎる時に眺めたら、警戒していた人にジロリと睨まれた。警戒は、魔物だけでなく、同業者も含まれるのだろうか。
「どこかにない?掘りたい、掘りたい」
イオが騒ぎ出す。
「宝石を落とす魔物でも歓迎だわよお」
チサも宙に向かって呼びかけた。
「やめろよ。変なものが来たらどうするんだよ」
「そ、そうだよお。イオもチサも、警戒心ってもんはないの?」
俺とハルの方が及び腰だ。
そうして俺達は、出て来る魔物を片付けながら鉱石を探して進んだ。
そのうち、ハルが小首を傾げて言いだした。
「なんか、あっちの方が危ない気がする?」
「何よそれ」
「行ってみましょうかあ」
「お前ら──まあ、行ってみないと真偽がわからないしな」
「ええ!?行くの!?嫌だよ!」
ハルは嫌がったが、俺達は分かれ道をハルが言った左に進んで行った。そして、驚いた。
「まあ。いっぱいだわあ」
チサがおっとりと言うと緊張感がないが、魔物がいっぱいだった。イノシシが5頭にウサギが6羽。
俺達はこっそりと後ずさって、相談した。
「どうする?ちょっと多いよ」
ハルは即、撤退を進言する。
「危ないよ。イノシシだけでも5頭だよ?ウサギはちょこまかとするのに6羽もいるなんて」
それに俺も、やや賛成だ。
しかしイオとチサはやる気だった。
「あの向こうにあったのよ。大きな鉱石が」
「私も見たわあ。ルビーかしらねえ」
引く気はないようだ。
「どうする、シュウ」
「どうしよう。一気に来なければ何とでもなる相手だけど」
俺とハルは、鼻息の荒いイオとチサに目を向けた。
「行くわよ」
「行きたいわあ」
嘆息した。
「わかった。今回は肉の持ち帰りはなしだから、魔術の乱発で先制する。それで、生き残ったヤツを片付けていこうか」
俺がそう言うと、イオとチサは目を輝かせ、ハルはシャベルを握る手に力を入れた。
そしてそろそろと戻って行き、気付かれる前に、風を立て続けに放った。
混乱しきったように声を上げ、魔物達が消えて行く。しかし、攻撃を逃れた数羽のウサギとイノシシが迫っていた。
イオもチサも左右の魔物にかかっており、真ん中を跳んで襲い掛かって来るそのイノシシの前には、魔術を放った後の無防備に近い俺と、ハルしかいない。
ハルのシャベルでは盾代わりにはならないし、俺やハルではイノシシに一撃でとどめを刺すのは難しい。
「うわあっ!」
ハルも同じ結論に至ったのだろう。いや、混乱したのだろうか。
ハルは直径15センチほどのオレンジ色の紙の傘を胸ポケットから出して掲げた。
「ええ!?ハル何してんの!?」
「わかんないよおお!」
叫ぶ俺の半歩前で、ハルも叫んでいた。
「オレンジ姫の奇蹟!!」
イノシシが飛び掛かって来る。
ああ、もうだめだ。俺は絶望した。今から火を放っても、例えイノシシに当たったとしても、火だるまになってこちらに突っ込んで来るのだ。こちらも大やけどだ。
風にしたって、体を斬ったとしても、そのまま死体がこちらに突っ込んで来る。大ケガになるだろう。
走馬灯を見そうになったが、奇蹟が起こる。
イノシシが見えない壁に激突したように突然空中で何かにぶつかって弾き飛ばされた。
それに、駆け寄って槍で首を斬り、仕留めた。
それから、振り返る。
「え?」
ハルは呆然として、頭上に傘を掲げていた。
「もしかして、バリアというか、盾みたいなものじゃないか?」
ハルは傘を見、そして、膝まづいて叫んだ。
「オレンジ姫はやっぱり神!!」
「いや、それはハル、あんたの力でしょうが」
イオが冷静に言い、チサがうんうんと頷いた。
「ハル、ここにたくさん魔物がいるのもわかったよな。それも、能力なんじゃないのか?」
「ああ、危険察知とか気配察知とかみたいなあ?」
「たまたまかもしれないよ」
ハルは慌てたが、
「というわけで、検証してみよう」
と言えば、イオとチサが声を揃えて行った。
「採掘してからね」
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