第11話 水曜日にはダンジョンへ
「じゃあ、行くか」
水曜日に集まった俺達は、互いの格好を眺め合った。
俺は、パイプの先にナイフを付けた手製の槍と予備にナイフを武器に持ち、Tシャツと撥水機能と防汚機能付きのズボンの上に撥水機能と防汚機能付きで通気性のいいパーカーを着て、リュックを背負っている。
イオは何かダサイTシャツとジャージの上に薄くて安いレインコートを着、ボディバッグを持ち、伸縮する金属製の警棒を持っている。
チサはジーンズに綿のシャツとレインポンチョを着、リュックにもなる大きな肩掛けバッグを肩にかけて、すりこぎと牛刀を準備していた。
ハルは、作業着の上にレインコートを着、安全靴を履き、自転車用ヘルメットをかぶり、額にライトを付けて、武器としてショベルを持っていた。カバンは大きなリュックだ。
全員、汚れてもいい、もしくは血がついても落ちやすそうな格好だ。
しかしこの格好で家から俺の家まで来るのは勇気がいるので、皆、うちに来てから着替えた。
そして、縄梯子を下りる。
「いずれはここを俺の研究室にしたいな。植物をここで育ててみたり、動物をここで飼って変化がないか調べたりしたいし、有用な植物が見付かったらここで増やしたい」
俺が抱負を語ると、チサがううむと唸りながら縄梯子を見た。
「いずれここに調査の人とか来るんでしょう?キッチン、いいの?」
イオが重々しく言う。
「防犯的にもどうかと思うわよ。戸を開けっ放しにしてるようなものだものね」
「この部屋を半分に区切って、半分をプライベート空間にするとかは?」
ハルがそう提案する。
「そうだなあ。あの豚が暴れたところで大丈夫な感じの衝立とかってあるのかな」
それは後で考える事にして、早速階段を下りる。
1階と同様、洞窟のようなところだった。
まず襲って来たのは、豚だった。小部屋にいたのと同じように、鋭く長い牙があって二足歩行だ。
「上から焼いてて、ラーメン食べたくなっちゃったのよねえ、この前」
チサがおっとりと笑いながら、牛刀とこん棒を構えた。
完全に魔物を食料とみなしているな。
「豚しゃぶ食べたいな」
思わず口をついて出た。
「いいわねえ」
「私トンカツ!」
「皆、何かおかしくない?でも僕は生姜焼きがいいな」
何だかんだ言いながら、俺達は食料──いや、豚の魔物に襲い掛かった。
イオもチサも容赦がない。ハルの方が腰が引けていた。そして俺は、そんな彼女達に腰が引けていた。
肉が消えないようにとリュックや大型のカバンに入れて持つが、重い。
「これは、運搬方法を考えないと……」
リュックからはみ出した足が顔の横にニュッと突き出しているのは気分がいいものではないし、何より重い。
そこで一旦帰って、何か探してみる事にした。
「これはどうだ?」
大学生の頃、海外の大学へ研究室が合同研究していたためにしばらく行っていたのだが、ハロウィンパーティーに義理で出席したら、ビンゴで当たったものがこれだった。
ブリキでできた箱で、底は1メートルかける1メートル70センチほどで、深さは1メートルほど。
中に入っていた景品は、ドラキュラが眠っているような棺桶と人形だった。
棺桶と人形なんてどうしようかと悩んだが、教授が選んだ一押しの景品らしいため誰かにあげるという事もしにくく、仕方なく日本へ持ち帰ったのだ。まあ、人形は母が欲しがったのでこれ幸いとあげ、棺桶は物入れ兼テーブルとして自室に置き、箱は衣類をしまうのに使っている。
「何、これ」
「棺桶が入ってたんだよ。ほら、これ」
ビンゴの事を言ってテーブルを指すと、イオもチサもハルも目の前にあるテーブルが棺桶だと気付き、ハルなど飛び退った。
「棺桶で寝ろって事かしら?安眠ならぬ永眠しろっていう小粋なアメリカンジョークかしらあ」
「むしろ死ねっていう事じゃないの。学生に殺意を抱いてたんじゃないの、教授」
「大丈夫か、その大学!?」
「それから2年ほどして銃の乱射事件が起きたってニュースで見たけど、教授の名前は無かったな」
俺は肩を竦め、
「台車に乗せたら使えないか?台車なら物置にあったぞ」
と言う。
「そ、そうね」
それで俺達は物置から台車を出し、ロープも探し出した。
そして、床下収納庫から、ロープでどうにかこうにか吊るしておろした。
で、はっとした。
「毎回これをやるのか?」
全員、愕然とした顔付きをした。
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