第35話 ニュースなチーム
この地球でダンジョンが一般人に開放された時、すぐに探索者を始めた人々の中に、日本人もいた。彼らは日本を出国し、その国に飛んで行ったのだ。なので、地球上でもっとも深い所まで潜っている事となっている。
その中の日本人ばかりで構成されたチームは、日本にもダンジョンができたとあって、協会を通じてやテレビやネットを通じて、ニュースを集めていた。
「へえ。第一号は民家の庭先だったけど、島根は市のバスロータリー、北海道は国定公園のそば、和歌山は県庁の駐車場か。どこにできるか、本当にわからないなあ」
リーダーはしみじみとそう言った。
「どのくらい攻略は進んでるんだろう」
「一号以外は最近できて、解放されたところだからな。大したことはないだろう。一号は、濁してあるけど、どうもその民家の住民チームがトップらしくて、それでもまだ10階程度らしいぜ」
言いながら、関連する記事を見て行く。
と、それが目に入った。
「出雲ダンジョンで隠し部屋?発見したのはチーム『桃太郎』で、そこにいたヤマタノオロチを討伐し、壁一面に埋まっていた各種鉱石を採掘して戻った。
なお、この隠し部屋は普通の部屋と違い、ヤマタノオロチは復活しないし、採掘した鉱石も復活しない模様。
へえ。隠し部屋はそういう所が違うんだな」
彼らにしても誰にしても、ダンジョンについては手探りだ。わかった事を根気よく1つずつ集めていくしかない。
「じゃあ、この桃太郎ってチーム、かなり儲けたんだろうな。生活も一変したんだろうぜ、羨ましいねえ」
「でも、なんで桃太郎なんだろう。日本だけでなく、世界にも出る気で付けたのかな」
深読みして、ああじゃないか、こうじゃないかとメンバーで意見をかわすのだった。
俺達は、朝から温泉に入り、朝食を摂り、のんびりと準備していた。
刀剣を打てる数が決まっているので、きちんとした日本刀を打つ刀匠は、予約が数年も詰まっていたりする。
しかし今回はその刀匠もダンジョン由来の資材という事で興味が強く、予約に割り込ませて先に手掛けてくれることになったらしい。
それに、その特色などについては同じ鍛冶師達も知りたがっているそうだし、協会も政府も今後のダンジョン攻略に必要なものとして興味を示し、早くして欲しいという意見が寄せられたという。
おかげで、イオの刀は優先的に手掛けられ、半月程度でできあがるというので、今日まで俺達は、出雲ダンジョンに潜って待っていたのだ。
それも、今日、刀を受け取っておしまいだ。
「はあ。温泉もおしまいねえ」
チサがのんびりと言いながら、お茶を飲む。
「ご飯の支度も布団の上げ下ろしもしない生活に慣れちゃうよね。ご飯も豪勢で、胃が大きくなってないか心配だよ」
ハルは冗談めかして笑う。
「ああ。新しい刀が楽しみだわ。早く斬りたい。試しにここでちょっと斬ってみていいかしら」
イオがうっとりとして言うのに、俺は呆れた。
「それって何か、時代劇の辻斬りするやつのセリフみたいだぞ。物騒な」
そして、コーヒーを啜った。
「でも、竹とかそういうのでの試し斬りはする事になるかもな」
イオは嬉しそうにし、ハルが言う。
「ダンジョン産のものを原料にしてるからね。やっぱり注目の的だよね」
「あらあ。注目の的と言えば、そもそも私達がそうなっちゃったわねえ」
大きなヤマタノオロチを球にして固めたものを転がしながらたくさんの鉱石を持って帰り、隠し部屋があったと報告したのだ。それが、日本初のダンジョンができた家の住民と、初めて日本のダンジョンで武器を手に入れた探索者のチームだと言えば、どこまでも注目は集まった。
そして、チーム名というものが必要となり、出て来たのが「桃太郎」だった。
もう少し何かなかったのかと思うが、面倒臭かったし、まとまらなかったし、もうこれが一番じゃないのかと言われればそんな気もしてしまった。
桃太郎。まあ、いいか。覚えやすいしな。
俺は思い、時計を見た。
「そろそろだな」
それで俺達は立ち上がって荷物を持った。
行きよりも荷物が増えていて重い。
鉱石を全部は売らずに取ってあるせいだ。
分子配列などは地球のものと同じだが、それで作ると、出来上がりに差ができるのだ。
俺はそれを、魔力が通るかどうかの差だとみている。それで実験の為にもいくらかを手元に残す事にしたのだ。
「帰ったら早速ダンジョンへ行くわよ!」
イオが張り切るのに、ハルが言う。
「まずは家の掃除だよ。何日留守にしたと思ってんの」
それにイオはがっくりと肩を落とし、チサと俺は笑った。
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