第34話 ヤマタノオロチ

 ヤマタノオロチ。頭が8つあるだけでも大変そうだが、体も長く、胴は太い。

 まあ、古事記に登場する記述では、谷を8つ渡るほどに大きく杉などの木が生えているとあるが、そこまでではない。それでも、市バスくらいの大きさはある。

 真っ赤な目を俺達に向け、「最初の攻撃は譲ってやるよ、虫けら共」とでも考えていそうな余裕を見せていた。

「どうするんだよ、こんなの」

 ハルが慌てて言うのに、イオが

「斬る」

と言い、チサは

「殴る?」

と言った。

「ショウ!」

 ハルは俺を揺さぶった。

「いや、そう言われてもなあ。頭は1人2個がノルマだな」

 するとチサが言う。

「古事記ではあ、お酒を飲ませて酔わせて討伐するのよねえ」

「ドラム缶何本いるんだよ。それより、ここって配達してくれるのか」

 俺は言いながら、ヤマタノオロチを見ていた。

「どうも風で物理攻撃を阻むみたいだぞ。頭によって違う魔術を使うとかもあり得るな。

 チサ、弱点はどうだ」

「胴体の付け根みたいよお。でも、近付くには首が8つもあって邪魔だわねえ」

 ハルが

「終わった……」

と呟いた。

 何かないか。何か。

「ようするに、でかいヘビだろ」

「でかすぎるだろ、シュウ」

 ハルの意見は流し、言う。

「まあ、試してみるか」

 言って、イオ、チサ、ハルに作戦を提案した。


「行くかな」

 まずは水を当てる。しかしそれは当然ながら風のバリアに弾かれ、床を濡らしただけだった。

 次に別の魔術式を打ち出す。辺りを冷やしたのだ。

 すると、床の上で氷が急速に凍り付き始めた。

 ヤマタノオロチは部屋に入ったものの攻撃範囲内に近付かない俺達に焦れたのか、そこでやっと首を伸ばして、こちらに水の弾を吐き出して来た。

 それをハルの傘が弾く。

「お、この威力も大丈夫みたいだぞ」

「いいから、早く!」

 ハルは気が気じゃ無さそうに急かす。

 するとヤマタノオロチは、苛立ったように別の首も伸ばしたが、どうにも動きに精彩を欠く。

 それに疑問を感じたのか危険を感じたのか、ヤマタノオロチが全ての首をこちらへの攻撃に回そうとした時には、飛び出した俺達がヤマタノオロチの前に到達していた。

 俺は魔力を通した短刀をヤマタノオロチ目掛けて突き出した。

 薄いベールを切り裂くように、刃先が何かを突き破ってヤマタノオロチの8つの首の付け根に刺さる。

 間髪を入れずに、そこにイオの槍が入り込み、チサの牛刀が刺さり、ハルのシャベルが深く突き立てられる。

 それでヤマタノオロチは激しく首を振り、捩り、暴れた。

 それでも俺達は首の付け根に余計にかじりつき、深く、深く差し込んで行く。

「しぶといわね!」

「もう少しだわあ、たぶん」

 イオとチサが呑気そうに言い合ってしばらくして、暴れていたヤマタノオロチは大人しくなっていき、クタリと首を垂れ、動かなくなった。

「やったのか?」

 ハルが言うが、どうだろう。

「どうだろうなあ。わかりにくいよなあ。でも、ヘビは寒さに弱いだろ」

 喋ると、息がうっすらと白い。

「冷やし過ぎじゃないの」

 イオが文句を言うが、肩を竦め、俺は手近な首を1本落とした。

「反応がないな。死んだかな」

「蛇の皮って高そうよ。なんとか持って帰れないかしらあ」

 チサが言い出し、俺達は考えた。

「わかった。球にしてみよう」

 ヤマタノオロチの首を曲げ、絡ませ、水をかぶらせてから凍らせる。

「まあ。大玉転がしだわあ」

 ハルは嫌そうな顔で言う。

「バチが当たりそうだな」

「気にしない、気にしない」

 イオとチサは言いながら壁にとりついて採掘を始めていた。

 しかし、どうにもコツが掴めないのか、進まない。

 そこで俺は、試してみる事にした。

「抽出してみるか」

 壁に向かって、鍛冶の時に見えたそれを利用する。鍛冶では不純物を取り出していたが、ルビーや鉄や銅などを抜き出すようにしてみる。

 ニョキ、と、赤い柱が壁から出た。

「まあ。驚いたわあ」

 気をよくして、ほかの鉱石を抜いて行く。

 気付くと、足元にはゴロゴロろ色んな鉱石が転がり、壁はどれも一面、地味な色合いのただの岩になっていた。

 足元のそれらを呆然と見て、ハルが言う。

「これだけあったら、ありがたみが無いと言うか……」

「運ぶの、大変だわ。どうしよう」

「固めるとかあ?」

「増々ありがたみがなくなるな」

 俺は苦笑し、それらに手を向けた。






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