第36話 不愉快な再会

 家に戻った俺達は、また、地下のダンジョンに潜る日々に戻った。ゲート前の入場待ちの列に並ぶ。

「ここも久しぶりだよね」

「そうねえ。

 そう言えば、次の階、亀が出るとか言ってたわよねえ」

 それにイオがニタリと笑って新しい刀に手をやる。

「これなら、何でも切れる気がするわ」

「頼もしいな。期待してるぞ」

 俺が言った時、後ろに誰かが並んだ。

「犬飼?」

 中の1人が言い、俺達は後ろに並んだチームへ目を向けた。

 揃いの紺の作業着のようなものを着ている男ばかりの6人組で、リーダーらしい男が30代後半くらいで、残りは20代という感じだった。

「……お久しぶりです」

 イオがそう挨拶すると、そのリーダーは愉快ではない笑みを浮かべた。

「そうだな。元気そうじゃないか。お前には向いてるんだろうな、こういう、力さえあればいいものは」

 カチンと来たのは俺だけではないのがハル、チサ、イオの顔付きでわかった。話が聞こえていたらしい周囲の探索者の肩もピクリと動いたし、振り返って顔を確認する者もいた。

「主任」

 流石にまずいと思ったのか、若い男がリーダーの袖を引く。

「イオ。この方たちはどなたかしらあ?」

 チサが笑っていない笑顔で訊く。

「前の前の職場の、上司と同僚よ」

「ああ……」

 俺達は頷き、思った。あの、セクハラでパワハラのろくでもない奴か、と。

「そう言えば犬飼が武器を出したって?」

「はい」

「そうか。犬飼も上手くやってるようだな」

「はは。おかげさまで」

 イオは心のこもらない愛想笑いを浮かべ、ゲートをチラリと見た。まだ順番は回って来ないのか、と思っているのは一目瞭然だ。

「うんうん。お前にはピッタリな彼氏だろう」

「は?」

 俺達だけでなく、彼らのチームのほかのメンバーも、キョトンとした目をリーダーに向ける。

「そいつはオスだったんだろう?だからプレゼントのつもりでドロップしたんだろう?」

 リーダー以外が凍り付いた。

「またまた主任。冗談を」

 若いメンバーが流石にまずいと取りなすが、もう遅い。

「ははははは」

 空虚な笑いを浮かべ、俺達は順番が来たのでゲートを通った。

 ハルがまず言った。

「いいの?」

「失礼にも程があるわあ」

 チサは笑ってない笑顔を浮べるが、イオは肩を竦めた。

「いいわよ。慣れてるし、どうでもいいわ」

 俺は頷いた。

「そうか。まあ、財布でも落とす事を神社で祈ってやろう。あと、スマホも水没してしまえばいい。それから家の鍵をトイレの便器の中に落としてしまえ」

 それでイオとチサとハルは吹き出し、ちょうど前から現れた犬にイオが刀を抜いた。


「イオ、落ち着け。な」

 ハルが宥める。イオは平気だと言っていたが、平気ではなかったようだ。出て来る魔物を、オーバーキル気味に殺して何かブツブツと言っている。

 ハッキリ言って、怖い。

 しかしそんなイオと、やはり怒っているチサの攻撃力が増した結果、俺達の進むスピードはこれまでになく早くなっていた。

 ガンガンと美味しい魔物も魔石も買取部位も溜まる。

 それでやっとイオは溜め息をついて晴れ晴れとした顔をした。

「はあ。スッキリした」

 それで俺達は、少し休憩を取りながら話を聴く事にした。

「あれがパワハラでセクハラの奴だな?」

 訊くと、イオは頷いた。

「あの主任と署長がね。ほかの同僚は、まあ、ボスである主任に逆らえなくて合わせてた部分もあるみたいだけど」

 それにチサが眉を寄せる。

「それでも同罪だわあ」

 ハルも泣きそうなのか怒っているのかわからない顔付きで言う。

「そういうのを訴え出る所って警察にはないの?」

「あるわよ。あるけど、署長も主任と同じ考えだし、訴えたら訴えたで面倒な事になるからね。私か上司のどっちかが別の署に異動になるのを待つのが賢いってね」

「しかし、腹が立つやつだ。

 万が一魔物がここから出た時に備える為とかで、警察官も慣れるために順番で体験するとかだったな。でもあの感じだと、万が一の時、あいつの命令に従う探索者はいないだろ」

 俺は先程の周囲の反応を思い出しながら言う。

「人選ミスねえ」

 チサは楽しそうに言ってペットボトルの水を飲み、しまった。

「さて。カートもいっぱいだし、帰ろうか」

 ハルが言い、俺達は引き返し始めた。

 が、しばらく戻ったところでハルがそわそわし始めた。

「いるよ、いっぱい!何か、囲まれてるチームがいるみたいだよ!?」

「ああ。声をかけて、必要なら助けましょうか」

 イオが言うのに各々同意し、早足になりながらハルの誘導で進む。

 剣戟の音がしだし、見えて来たのは、イオの元上司と同僚のチームだった。

「……ああ。あいつらか……」

 足が反射的に遅くなったのは、仕方がないだろう。



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