第2話 俺達の不運
小説やマンガでお馴染みのダンジョンそのものとしか言いようのない不可思議な空間が出現し始めたのは、今から半年ほど前の事になる。
地球の動物とは違う動物がおり、襲い掛かって来る。物理法則を無視した魔術らしき攻撃をしてくる奴らがいるし、バリアの如き何かで身を守ったり、見る見る傷を回復させる奴もいる。
すぐにそれらは、「ダンジョン」「魔物」と呼称される事となり、研究が始められた。
ダンジョンが現れたのはヨーロッパ大陸に3つ、北アメリカ大陸に2つ。
魔物が体内に持つ魔石というものや角などを調べ、利用価値を探る事が俺の勤める会社でも業務に入り、それまで別の研究をしていた俺も、そちらを手掛ける事になった。
そしてここで、大事件に遭遇した。
なんと、クビだ。
魔石に関しては水に沈めると効率よくクリーンに発電できると分かっていたが、俺の所属する研究室にアメリカから発見されたまだ珍しいポーションが搬入され、社を挙げて解析に臨んでいた。
とは言え俺は別の仕事にかかっており、それを担当する事になったのは先輩達だ。
その先輩が急に報告のために研究室を離れる事になり、その間の温度管理を任されたのが電話に出た#重白__おもしろ__#という同期だったのだ。
が、重白はうっかりミスで管理に失敗し、事もあろうに、
「電話を受けたのは自分ではない。桃城を聞き間違えたのでは?」
と言った。
普通ならそんな言い訳が通用するわけもない。しかし、重白の祖父にあたる会社の会長がそれを支持し、先輩がおもねり、上司も同僚も口をつぐみ、俺はやってもいない失敗の責任を取ってクビになった。
徹底的に戦っても良かったし、そうこっそりと勧める同僚も中にはいたが、面倒臭いのと失望と諦めと、こうなった以上、どうせ真実を明らかにしてもこの会社ではこの先やっていけないのは明らかなのとで、俺は大人しくクビになった。
そして仕方がないので私物を片付けている最中に、そのハガキを見付けたのだ。
「あ、同窓会か。忘れてたな」
小学3年生の時の同窓会は、今回が初めてだ。当時の担任教師が退職するらしく、そのために企画されたらしい。
俺は普通なら同窓会になど興味もなかったし、行く事もなかっただろうが、何せクビになったので暇だ。それに、クビと定年退職という違いはあれど、共に無職になるという事でシンパシーのようなものを感じてしまい、行ってみようと思ったのだ。
しかし、やはりというかなんというか、俺は挨拶はしたものの、仲良く当時について笑顔で思い出を語り合うという同窓生もそうおらず、やや浮いた雰囲気になっていた。
例外は、イオ、ハル、チサの3人だ。
桃太郎一行だからというだけではない。詳しくは知らないが、不幸な境遇に陥っているという共通点があり、まとう雰囲気が、ほかの同窓生の明るい雰囲気に馴染めなかったのだ。
俺はクビだ。しかも元勤めていた会社は大手で、クビの真相を隠すために俺が数千万円の貴重な素材をダメにしたと会社の人間が吹聴して回ったので、少なくとも日本では研究職にはもう就けないかもしれない。
それで二次会へという皆から離れ、俺達で飲み直そうと、コンビニでアルコールとつまみを買って、俺の家へと来ていたのだ。
イオは独身寮、チサは実家で親と同居、ハルは狭いアパート暮らし、俺は自宅の一軒家で、親は海外にいるので現在1人だ。なので、俺の家が都合が良かったのだ。
墓地と畑と自動車教習所に囲まれたうちの近所は、午後10時を過ぎると寂しいものだ。
その中を静かに我が家へと入って行こうとしたのだが、門扉の前に立った瞬間に地面が揺れ、地震かと思った次の瞬間には足元が崩れて穴が開き、4人まとめてそこに落ちて行ったのだった。
「ひどい話ねえ。そんな会社、やめて正解じゃないのお?」
チサがおっとりと、しかし明らかに怒りをこめて言う。
ハルも、
「上の連中なんてそんなもんだよね。まったく」
とプンプンと怒る。
「で、これからどうするの」
イオが訊くのに、俺は笑ってみせた。
「まあ、ボチボチ考えようとしてるところだ」
それに各々頷いたりしていたが、イオもハルも顔色が冴えない。
「どうした?」
訊くと、イオは重い口を開いた。
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