鬼退治はダンジョンで~人生の穴にはまった俺達は、本物の穴にはまって人生がかわった~

JUN

第1話 日本で初めてダンジョンが生まれた夜

 鬼。なにも縞々パンツをはいて頭に角があるヒトのような生物が本当にいたわけではない。外国人などの見慣れない者や、警戒すべき外の者、権力者にとっての敵を「鬼」などと昔の人は呼称していた。

「だからこれも、鬼だな」

 俺は頷きながらそう言った。

「そういう意味で『あれ何』って言ったんじゃないよ、シュウ!」

 ハルが喚く。

「あれが魔物なのねえ」

 チサがおっとりと言う。

「まあ、日本にダンジョンは今までなかったからね。私もテレビで見ただけだったけど、興味はあったのよね」

 イオが、面白そうに言って皆の前に出た。

「え。ここってダンジョン?」

 ハルが言うのに、俺は言う。

「そうだろ?だってあんな生物いないだろう」

 それは犬に似た姿をしているが、犬にはないはずの角を頭に持ち、涎を垂らした口元には鋭い牙を持っていた。

 話をする俺達に焦れたのか、隙と見たのか、それは俺達に向かって飛び掛かって来た。

 俺達は4人共、何の武器も持っていない。さぞやか弱いエサに見えた事だろう。

 しかしイオは腰を落として構えると、鋭い蹴りを犬もどきに向かって叩き込み、それにチサが折り畳み傘で殴って追撃し、俺がカバンの角で殴りつけ、ハルはビールの入ったコンビニのビニール袋を振り回してとどめを刺した。

 するとそれは痙攣していたが動かなくなり、警戒して見ていると体が崩れるようになり、あとに石ころのようなものを残して消えた。

「魔物だな。間違いなく」

 俺が納得したように言うと、イオが頷く。

「消えたわね」

「何でこんな事になったんだろう」

 ハルは肩をガックリと落としたが、チサはどこか楽しそうにおっとりと言った。

「あら。これも運命なんじゃないかしらあ?20年前からの」

 それで俺達は、20年前を思い出した。


 小学生の頃、学芸会というものがあった。1年生は合唱、2年生は合奏、というふうに出し物が決まっていて、3年生は劇だった。そこで当時の3組が選んだのは『桃太郎』だった。

 なぜか?それは、偶然にも桃太郎にぴったりな要素が揃っていたので、クラスの皆がほぼ全員一致で、『桃太郎』にしようという意見に賛成したせいだ。

「単純なんだな」

 桃太郎役の俺、#桃城柊司__ももしろしゅうじ__#が面倒臭そうに嘆息した。記憶力はいいし、成績もいい。だが、興味の無い事にはとことん無関心になるきらいがあり、友人も多い方ではなく、大人しく地味な印象を与えるらしい。

「仕方ないじゃない。名前ありきの洒落なんだから」

 作り物の刀を振りながら言うのは、犬役の#犬飼伊緒__いぬかいいお__#。剣道と少林寺拳法を習う女子児童で、ハンサムガールという言葉がぴったりだ。

「楽しそうじゃない、鬼退治なんて」

 おっとりと笑うのは、雉役の#雉間智沙__きじまちさ__#。おっとり、にこにことした女子児童だ。お嬢様という雰囲気がある。

「鬼なんていなにのにね」

 イオが言うのに、俺は応える。

「オニはいたよ。とは言え、縞々パンツの鬼じゃないけどね。外国人とかの見慣れない警戒すべき外の人や、敵、権力者にとって都合の悪い相手を鬼って呼んだんだよ、昔の人はね」

 それにイオは反論したそうにしたが、

「ま、まあまあ。おもしろい偶然だよね。桃太郎、犬、雉、猿にちなんだ名前が集まるなんてさ!」

と、取りなすように言ったのは猿役の#猿渡晴季__さるわたりはるき__#。気弱で心配性で真面目な児童で、クラスの潤滑油的な役柄をこなしている。

 そう。偶然にもこの4人が同じクラスになり、すぐに「桃太郎グループ」「桃太郎一行」などと呼ばれる事になったのだ。なので劇の内容が『桃太郎』になるのは、新学期には予想されていた事だったのである。


「まさか20年も経って、本当に鬼退治する事になるなんてなあ」

 俺は言いながら魔石を拾い上げると、周囲を見た。

 地面も壁も岩ばかりだ。ここは地中なのだから、当然と言えば当然だろう。地上までは10メートル近くありそうで、上空には軽自動車半分くらいの穴が開き、曇った夜空が見えた。

 突然地面が崩れて穴が開き、あの穴から落ちて来たのにケガらしいケガもないのは、急とはいえ斜面になっていたせいらしい。

「この傾斜じゃ地上まで登れないわねえ。でも、穴はそこにあるのに、電波が通じないわよ?」

 おっとりとチサが言い、各人で慌てて確認した。スマホを振ったり高くかざしたりしたが、アンテナは立たない。

「何でだ?おかしいな。でもこれじゃあ救助も呼べないな。夜中に近いし、通行人に期待はできないけど、誰か近所の人が穴を見付けて通報してくれればいいな」

 俺はそうスマホを振った事を誤魔化すように言ってみた。

「出来立てのダンジョンに落ちたのか、俺達?」

 ハルが呆然と言って、俺は穴から見える曇った夜空を見上げて考えた。

 本当にどうしてこうなったんだろう。俺は事の経緯を思い出し始めた。




 

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