第6話 救出

 それで俺達は、穴の下に戻った。最悪でも朝になれば誰かが見つけてくれるだろうし、そうしたら、ロープを下ろすなりして助けてもらえるだろう。

 穴の下で、俺達はたまに出て来る魔物を屠りながら──それが食べられそうなものだと持っていた買い物用のエコバッグに詰めていった──救助を待った。

 その内、完全に袋に入れなくても、ある程度近くに遺体を置いておけば消える事は無いとわかった。

 なので、どの程度離れたら消えるのか、犬の遺体を使って観察を繰り返したので、なかなか有意義な時間を過ごす事ができた。

 宴会をしようにも、ベコベコにへしゃげ、振り回された、血まみれの缶ビールを飲む気には流石になれない。

 警戒は続けるものの、慣れのせいか知らないが、最初よりも簡単に対処できるようになっていたので楽だ。見た事がありそうでも別物の害意しか感じられない「鬼」だからか、罪悪感などは思ったより感じない。

 ただ穴の下で、時々出て来る犬を殴り殺して明るくなるのを待っていた。

 そして朝方になって、散歩中の犬が穴を見付けて吠えまくった事で近所の住民に穴を発見され、俺達は消防署のレスキュー隊に穴から救助されたのだった。


 消防にも警察にも事情を訊かれ、何度も説明し、魔石を見せ、ようやく俺達が自宅へ帰されたのは、すっかり明るくなってからだった。現場は俺の家の真ん前だというのに。

 しかしそれも無理はない。何せ日本で確認されたダンジョン第一号だ。

 朝刊は間に合わなかったが、家の前にはテレビカメラが押しかけて来た。そして門の前には目隠しのブルーシートが張られて警察官が見張りに立ち、自衛隊の車も来ている。その上さらにそれらを取り囲むようにして、かなりの野次馬が集まっていた。地上からは見えなくとも、上空のヘリからは見られている。

「何か事件現場みたいだな」

 俺はすっかり騒がしくなった我が家を見ながらそう呟いた。

 家の中に入った時、携帯電話に何度も会社から着信があったのに気付いた。

 どうせ、ダンジョンの調査権や手に入る魔石や素材を狙って何か言って来るつもりだろう。

「知るか」

 俺はそれを無視して入浴し、着替えてから、空腹に気付いて何か食べようと、買い置きの食品をしまってある床下収納庫を開けた。

「刺激的な、長い夜だったなあ──はあ!?」

 入れてあった、カップ麺もレトルトも、自家製の梅酒のビンもない。夜通し見たような岩肌の小部屋が3メートルほど下の方にあり、そこにやたらと強そうな立派な体格の二足歩行の豚がいたのだ。

 俺の家の床下収納庫は、ダンジョンへの入り口になってしまったらしい。

「ん?これは、地下室か?ダンジョンって俺の家の地下室って言い張っていいのか?」

 このダンジョンの扱いについて話し合われる際に、そう主張すれば間違いなく個人のものと認定されるのではないかと考えた。

 しかしそうすると、税金はどうなる?固定資産税はどのくらいにされるのだろう。そんな事、国会でも誰も言わなかったな。

 いや、その前に、この豚だ。

 俺はその強そうな豚をじっと見た。





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