第7話 観察
豚はこちらに気付きはしたが、攻撃も届かないので、怒ったように唸ったり吠えたりしてはいたが、それだけだった。
そこで俺は、庭の石を投げつけた。
石は豚に当たり、豚は怒ったように前足を振り上げた。が、床下収納庫の上にあるキッチンまで届かない。こちらは完全に安全圏のようだ。
なので俺は安心して、今度はヘアスプレーとライターで即席の火炎放射器を作り、噴射した。
豚は火だるまになり、やがて魔石を残して消えた。
「おお。やったな」
魔石は残ったが、こちらからも届かないので、拾えない。
しかし、無職の身としては拾いたい。
「脚立は届きそうにないな。何かいいもの……あ、縄梯子があったな」
俺は一旦床下収納庫のふたを閉め、天袋から防災リュックを引っ張り出すと、縄梯子を探し出した。母が万が一に備えて買ったはいいが、幸いにも使う機会がなく、防災リュックに入れて天袋に押し込まれていたものだ。
そして縄梯子を床下収納庫に下ろそうとして、気付いた。
「あ。リポップってやつか、これが」
最初に見たままの状態で、豚が立っていた。
なので、火炎放射器で攻撃する。
そして、再び現れるまでの時間を計る。
なかなか現れない。
「喉乾いたな」
一応ふたを開けたまま目を離すのはどうかと思い、ふたを閉めてから水を飲んで、改めてふたを開けた。
「あ。いた」
なので、再び火炎放射だ。
そして、待つ。待つ。ひたすら待つ。
そのうちトイレに行きたくなって、ふたを閉めてトイレに立ったが、戻って来てふたを開けると、豚がいた。
「これは、ふたを閉めたら復活するのかな」
火炎放射で倒すと、今度は即ふたをし、またすぐに開ける。
「いた──!」
間違いなく、ふたを閉めて再び開けた時には復活している事を確認した。
それから俺は、ふたを開けて豚を退治し、ふたを閉める、という事を繰り返した。
やり方も、石を投げてみたり、物干し竿にテープで刃物を固定した手製の槍で刺したり、ゴキブリ用の燻煙剤を投げ込んでみたりして効果をみた。
結果、火や刃物では殺せるが、燻煙剤では死にきらない事がわかった。そして豚の急所は、ほぼ地球上の豚と変わりがない事もわかった。
そんな事を延々と続ける。研究者は、同じ事を繰り返せなくては話にならない。
そしてこの小部屋だが、縄梯子で下りて見ると、昨日の最後に行きついたあの小部屋だとわかった。
扉を開けて進んでみると穴の下に行きついたので、地上でどう調査するかと相談している自衛隊員に見付からないようにそっと戻る。
階下は気になるが、まあ、1人で進むのは危ないだろうと、今は諦めて、またキッチンへ戻る事にした。
戻ると外はすっかり暗くなっており、俺は丸一日何も食べていなかった事に気付いた。
4人で分けたニワトリのような魔物の肉を、焼いてみる事にした。チサの元夫が狩猟を趣味にしていたそうで、チサは狩猟はともかく、解体を覚えたらしい。にこにことしながら、何という事も無さそうに解体して遺体を肉にしていた。
覚えたつもりではあるが、今度自分でもやってみよう。
いつもと同じ、塩、こしょうをし、同じ油でいつも通りに焼く。そこにレタス、トマトを添え、冷凍してあるご飯を解凍し、玉ねぎとわかめの味噌汁を炊き、冷蔵庫に入れてあった高野豆腐を小鉢に入れる。
親が海外に転勤で行く際、母に簡単な調理は教わったのだが、実験に似ているようで何となく料理が面白くなり、簡単なものではあるものの、できるだけ自炊を続けている。
トリのソテーを、まずはしげしげと眺めた。見た目は、異常はない。
口に入れてみる。
「………………美味しい!高い地鶏を買って来たみたいだな!これはぜひまた、狩って来ないと」
俺は床下収納庫の方へ目を向けた。
まさしくあそこは、我が家の食糧庫でもあるらしかった。
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