第8話 話題

 そうしていると、親から電話が入った。

『柊司。大丈夫なの?あれ、ウチでしょ?』

 母はテレビで我が家を見て知ったらしい。

『住人が巻き込まれたってニュースで言っていたが、電話に出ている事を思えば大丈夫なのか?戻ろうとは思ってるんだが、チケットが取れないんだよ。報道関係者や研究者がこぞって日本へ向かうから』

 父は不満と安堵をないまぜにしたような声で言う。

「大丈夫だよ。門の辺りに穴が開いてるけど板を渡してあるし、警察と自衛隊が我が家の周囲にいるせいで、治安は最高にいいしな」

 俺の冗談に電話の向こうで両親は笑った。

 それで俺はテレビを点けてみた。確かに我が家の門の付近がブルーシートで目隠しされ、警察官と自衛官が見え隠れしている。

 それをバックにして、リポーターが

『ダンジョンについて、何も新たな発表はありませんし、住民の方とのお話もまだできていません』

などと言っていた。

 仕事や買い物に行けるのかとか、もしアナウンサーの安斎祐樹が来たらサインをもらっておいてくれとか、心配やら冗談やらを言って電話は切れた。

「そう言えば、クビの話ってしてないな。ま、いいか」

 俺は肩を竦めて、またかかって来た会社からの電話を無視した。

 その時インターフォンが鳴り、画面を見るとハル、イオ、チサが立っていたので、俺はすぐに玄関に出て3人を庭の中に入れた。

「凄い人だな」

 言いながら入って来た3人は、スーパーの袋をぶら下げていた。

「二次会しようってしてたところだったのよね、忘れてたけど」

 イオが言うが、

「何か、忘れてたな。色々あって」

と俺は苦笑した。

「今はこの穴に板が渡してあるけど、これからどうするの?門の真ん前というか門柱の間が穴だろ。ここがちゃんと入り口になったら、家に入れないんじゃないのか?」

 ハルに言われ、俺達は足元を見た。

「その辺もちゃんと政府の人と相談しないとなあ。穴が邪魔だって言って塞いだらダメだろうし」

言うと、3人共頷く。

「中に入りたいだろうしね。

 でも、ここって個人の敷地内よね。シュウが独占したいって言えば独占できるのか」

 イオが考え込むのに、チサが首を傾ける。

「それはそうね。あくまでも協力のお願いだものねえ。

 どうするの?独占販売で儲けられるとは思うけどぉ」

「それはちょっと。整備とか面倒臭いし、独占する気も元々ないよ。

 まあ、ちょっとこっちに有利な条件をいくつか呑んでもらいたいけど。ここの整備とか、警備とか、まあ」

 ハルは穴の中を覗きながら、しみじみと言った。

「まあ、どのくらい先があるのか、どんな危険なやつがいるのかわからないしね。

 というか、立ち退きとか言われそうだよね」

「それは嫌だ。

 まあ、中に入ろう。ここは落ち着かない」

 ブルーシートがあるとはいえ、門柱の所には警察官はいるし、シートの隙間から何とか覗けないかとがんばるマスコミや野次馬がいる。

「やっと二次会よねえ」

「お腹空いたわ」

「仕切り直して、楽しもう」

「さあ、トリスキだトリスキ」

 俺達は家の中に入った。




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