第15話 魔術の確認

「お願いします、オレンジ姫様!」

 ぱああ。

「消えるイメージ!?む!」

 ぱああ。

「──!」

 ぱああ。

「あ。今ちょっと消えろって思っちゃったよ。ていうか、消えるイメージを毎回希望して浮かべちゃうよ」

 ハルはそう言って振り返り、イオが

「ダメじゃないの!シュウがもう1周とか言い出すでしょ!?無になるのよ!無!お坊さんの気持ちよハル!」

と鬼コーチの如く怒鳴る。

 チサは汚い布を無視して魔石だけ拾うと、俺を振り返る。

「シュウ、どうかしら」

 俺は腕を組み、ううむと考えながら言う。

「わかったかも」

 それに、3人が喜びの表情を浮かべた。

「じゃあこれで終わりなのね!?」

「すりこぎと牛刀を洗いたいわあ」

「ああ。良かった。もうゾンビも幽霊も見飽きたよ。でも、これからは暗がりが地上でも怖いよ」

 ハルが言うと、イオが顔色を青くして目を泳がせた。

「で、どうなのかしらあ?ハルは何をしたって意志さえあればいけるとかかしらあ」

 チサが首を傾け、俺は言葉を探した。

「その、突然こんな事を言うとおかしいやつと思われるかもしれないけど」

 俺は前置きをしてから言う。

「魔術らしきものの構成式が見えた」

 それに3人共黙りこみ、俺をじっと見た。

「魔術らしきものの構成──」

 聞こえなかったのかともう一度言いかけると、イオが遮る。

「聞こえてたわよ!」

 じゃあ何か返事しろよ。

 ハルはおたおたとして、

「え。魔術?僕、魔術師?確か30まで童貞だったら魔法使いになれるとかいう都市伝説なら聞いた事あるけど」

と言う。

「ハル。それはちょっと違うと思うわあ」

 チサがにっこりと、慈しみか憐れみをこめた笑みを向ける。

 俺はいつものようにじっとハルを見ていたのだ。すると突然、いきなり、それが見えたのだ。

 これは何かと思ったが、次の浄霊の時にも同じ物が見えた。

 そして、試しにチサにライトを向けてもらった時には、何も見えなかったのだ。

「あの式がポイントなんじゃないかな。それがハルから出た何か空気みたいなものと一緒に撃ち出されてゾンビに当たったら、ゾンビが消えたんだよ」

 俺は言った。空気みたいなものとは、魔力とか言われているものらしい。これも目を凝らしていたら、わかったのだ。

 そう言うと、皆、信じがたいという顔をしたが、その通りなので仕方がない。

 これを証明するには、魔力を検出する計器とかが必要になる。

 しかし、何となくなら、これまでにはないものが体を巡る感覚がわかる。これが魔力というものだろう。

 ダンジョンに入るとヒトにも魔素が蓄積するのか。じゃあ、ヒトが魔物化したりする可能性はないんだろうか。

 そう考えていると、新たな幽霊が現れた。

「ちょっとやってみる」

 俺は、魔力を意識し、魔式を頭の中で綴り、放出した。

「あ。できた」

 ゾンビが消えた。

「光は関係ないって事なのかな」

 ハルは残念そうにペンライトを見たが、

「いや、ペンライトをかざす事がイメージに直結するなら、それはそれで有効だと思うわよ。早いし」

とイオが言うと、嬉しそうにペンライトを握ってにこにことした。

「待って。じゃあ、私達にもできるのかしらあ」

 チサが言い、それではと教えようとしたが、上手くいかない。イオもチサも魔力を感じ取れたが、イオは体に巡らせて部分的な強化ができたが浄化はむりだったし、チサはできなかった。

 イオが魔力を意識的に巡らせてみると、足が速くなったりジャンプ力が増したりと、身体能力が上がるらしい。

 そのうちにいい時間になり、俺達はカートを引いて機嫌よく戻り始めた。

 しかしその途中、チサは出て来た魔物が食べられるかどうかと、どこをどうすれば解体できるか、または致命傷になるかという弱点が見えるようになったと言った。

 俺達は、なかなか有意義な一日を送れたようだった。





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