第14話 浄霊実験
「まさか、聖なる武器とか」
イオが呟くと、ハルがうおおおと叫んでペンライトを高々と掲げた。
「虹プリオレンジ姫様はやっぱり尊いから!」
「そうかなあ」
俺は言って、自分の懐中電灯を眺めた。
「なあ。ほかにどんな光源がある?」
それで各人が荷物を改める。LEDの大型懐中電灯、ペンライト、キーホルダーについている小さいLEDのライト、頭にベルトで取り付けるライト、ペンダントのように首から下げる釣り用品のライト。ついでに言えば、スマホのライトだってある。
「明るさが原因なのか、虹プリオレンジ姫応援用というのが原因なのか、ほかに原因があるのか。検証しよう」
俺はウキウキとして笑い出しそうになったが、イオ、チサは嫌そうな顔をした。
「これが効くのなら、人数分買って来ればいいんだしね!僕はオレンジを推すよ!明るくて元気で可愛くて──」
ハルは続けたそうにしたが、イオが視線で黙らせた。
そうして俺達は、人と光源の組み合わせを何通りも変えつつ、霊にアタックをかけた。
前のボス部屋にいたのは豚で、次の階層へ来ると豚がよく出た。その法則に則って、ボス部屋で霊やゾンビが出たのだから次の階層は霊やゾンビだろうと予測したのだが、当たっていた。
これまでの洞窟のようなところから、周囲は寂寥感のある荒野になった。所々に、枝からロープの切れ端が垂れ下がる大きな木が立ち、土饅頭がある。
そこを歩いて行くと、どこからともなくふわっと霊が湧いて来たり、土の下からゾンビが起き上がって来たり、木の上や向こう側からゾンビが飛び出して来たりする。
その度にイオとハルはギャアギャアと叫んだが、順番に効果を試す。
「消え去れ!ダメ、次!」
「成仏しなさあい!ダメねえ」
「立ち去れ!だめだ」
「くく来るな!オレンジ姫様助けて!やった?」
イオが喉を枯らし始め、チサがゾンビを殴って汚れたすりこぎを不機嫌そうに眺め、ハルがおかしなテンションでヤケクソになり始めた頃、ようやく俺達はボス部屋の前に着いた。
「成程な。興味深い」
俺は実験結果に静かに興奮した。
「原因は光源ではない。ハルにそういう能力があるという事だな。
今までハルは霊感とか無かったのか?」
ハルはキョトンとしてから、首と両手を高速で横に振った。
「無いよ。全然」
「でも、見えてないだけで、勝手に消し去ってた可能性はあるかな」
呟きにチサが気付く。
「ああ、そうね。外では私も幽霊なんて見えないのに、ここでは誰でも見えるんですものねえ」
それを聞いて、ハルは落ち着かなさそうに両腕を抱くようにした。
「それ、気付いてないだけで周囲に霊がいたかもしれないって事?い、嫌だよ!」
イオも叫ぶ。
「嫌よ!ゾンビはしつこく殴ればまだ攻撃が通用するけど、幽霊は困るわ!」
イオらしい理由だ。
「何なら、心霊スポットを回って検証するか」
言うと、全員から全力で「やめろ」「必要ない」「いい加減にしなさい」と言われた。何故だ。気にならないのか?まあいい。
「とにかく、光源が何であれ、ハルには浄化の力があると思われる。
なので今度はもう1度引き返しつつ、ハルがどうすれば浄化できるのか。イメージなのか、祈りの気持ちなのか、言葉なのか、光を当てるという行為なのかを、検証してみよう」
俺の言葉に、イオが嫌そうな顔付きになり、
「また?あの中を?私、付いて歩くだけでいいのかしら」
と言い、チサは、
「ゾンビを叩き潰すと汚れるのよねえ」
とすりこぎを眺めて嘆息し、ハルは、
「え。僕がそれやるの?責任重すぎるっていうか、今まで夢中だったから、そう意識的にやれって言われても……あ、途中で電池切れたらどうするんだよ!」
と心配をし始める。
「検証しておかないと、今後いざって時に突然対処できなくなったらどうするんだ。やるぞ」
俺は笑顔を隠して皆を急き立てて、回れ右させた。
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