第16話 訪問者達

 チサがテキパキと解体して食肉にし、俺達はそれを堪能した。

 そして、次のイオとハルの休みの重なる日を確認し、帰って行った。

 俺は翌日から、相変わらず暇潰しのように床下収納庫のボス部屋の豚を退治しながら魔術の事や魔素の事を考えたり、鳴き声を上げない亀や金魚、モルモットを床下部屋で飼い、観察を始める事にした。

 なので、ペットショップへ行こうと玄関へ向かったところでドアチャイムが鳴った。

 報道関係者の取材は受けていない。警察に喋ったから、そちらから聴いてくれと言ってある。

 来そうなのは、その警察か、自衛隊関係者か、ダンジョン関連を扱う企業か研究機関か。

 政府閣僚がダンジョン出現に慌て、関係する法令などの整備を急いでいるとはニュースや新聞で知ったが、こちらにコンタクトは取られていない。

 そう思っていたら、防衛庁にできたダンジョン専門部署のトップと、副首相と、その秘書やらSPだった。

 家にあげて応接間に通したが、人口密度が高くなって暑苦しくなった。

 お茶を出して向かい合うと、名刺交換を始める。

 だが俺は無職だ。以前の名刺は使えないので、名刺は無いと言う。やはり必要だろうか。

 そんな事を考えている間にも、話は進んで、本題に入って行く。

「本日伺ったのは、ダンジョンの事なのですが」

 まあ、それしかないだろうな。

「日本政府の見解と致しましては、私有地にできたものは個人の所有と見做すという事です。今回の場合、穴は敷地の内側がほとんどですが一部市道を含んでいます。

 安全面を考えますと、今は警察も自衛隊も万が一に備えて警備していますが、誰かが入り込んでケガや死亡といった事が起こりますと厄介な問題になりますし、中から魔物が出て来たりという危険も考えられます。

 それを回避するためにも、付近一帯を政府で買い上げて国有地にし、国が管理するのが安全かと思われますが」

 副大臣は尤もらしい事を言っているが、それが全てではない。ここからの産出物の有用性を考えると、個人の資産にしておくのがまずいという理由が抜けている。

 俺のそんな考えが表情に出ていたのか、副大臣はおほんと咳をして続けた。

「ダンジョンや魔物、産出物の研究も必須事項です。

 なので、どうか、協力してもらえないでしょうか」

 俺はまずお茶を飲んだ。

「協力はしますよ。でも、ここから立ち退く気はありません」

 彼らは眉をキュッと寄せたり、舌打ちしたそうな顔をした。

「あれは、我が家の床下収納庫、いえ、地下室なんです」

「は?」

「私の部屋もありまして、実験の最中でもあります。引っ越しは考えられませんね」

 それで彼ら──とりわけ、研究者らしき男は焦った様子を見せて身を乗り出した。何となく同類の匂いがするので、わかるのだ。

「実験をもう始めている!?それは!?」

 こちらも自然と身を乗り出してしまう。

「植物と数種類の動物を持ち込もうと考えています。動物は、今からペットショップへ行くところでしたが、植物は植木鉢をもう持ち込んでいます。

 それで、生育状態やダンジョン内に長く置いた場合の影響を調べたいと考えています」

「ほうほう。魔素だね?」

「ええ。魔素がどんな影響を与えるのか、気になるでしょう?」

「気になるねえ」

「魔石やポーションがどうやって出て来るのか、どうして死んだ魔物は消えるのか、なのになぜ人の近くにあると消えないのか。気になるでしょう?」

「勿論だとも!」

 俺と眼鏡の中年はすっかり意気投合した。

「ええっと」

 自衛官の制服を着た男が割って入る。

「しかし、わからない事が多いからこそ、危険だとも言えますし、個人で研究するのは限度が」

 俺は冷静になって座り直した。

「あと、友人と潜って魔物を狩りました。美味しいのでまたやります。

 俺達が潜る事、今ある地下の俺の部屋と地上は、穴以外の敷地内は個人スペースなので立ち入らない事。それを認めてもらえるなら、調査でも、民間への開放でも、構いませんよ」

 そこから、話し合いが始まった。

 

 


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