第50話 一番の難敵
ハルが急に何かをキャッチしたらしく慌て始めた。
「何だ、これ?物凄く強そうなやつがいるみたいだよ。
あ、こっちに走って来た?」
それを聞いて、イオは眉を寄せ、チサは苦笑し、俺はハルの視線の先を透かし見た。帝のメンバーも警戒している。
「くそ、見えないな」
言っている間にも、ハルはどんどん落ち着きを無くし、俺達はどうするか決断を迫られた。
そしてようやく、カーブした岩壁の向こうからそれが躍り出て来たのだ。まさしく、クジャクだ。
「な!?あれはもっと先に出るやつだぞ!?」
盛田が驚いたような声を上げると、佐伯も声に緊張をにじませる。
「イレギュラー個体か!厄介な相手だぞ!」
「ギッギッギッ、マホーン!!」
怒り狂ったような声を上げ、きれいな羽を大きく広げる。だが見とれている場合ではない。羽を広げると同時に鋭い槍を投擲するかのように羽を飛ばし、足元や壁にドスドスと突き刺さる。
「うわああ!?」
避けられたのは、多少はここまでで上達したからだろう。
が、そう呑気に構えている暇はなかった。続いて暴風が吹き荒れ、俺達はいとも容易く転がされてしまった。
「イオ!?佐伯さん!?」
イオの右腕がおかしな方向にねじれており、佐伯さんの右のひざ下が消えていた。ほかのメンバーも、全員が擦り傷や打撲は負っているだろう。
しかしクジャクは追撃の手を緩めようとせず、再び羽をバサリと広げるべく構えている。
「ハル!」
言いながら俺達はイオの所へ集まって、ハルは傘を広げた。
俺達の周囲に羽が降り注ぐ。傘で防げるとは言え、心臓に悪い。
帝のメンバーが目を丸くしているが、魔術を出し惜しみして生き残れる相手ではなさそうだ。
素早く転移石までの距離を測る。
転移石との間には羽が突き立ち、岩が転がり、それを乗り越えて辿り着く前にクジャクの餌食になるのは目に見えていた。
「皆、転移石まで歩けるか」
訊くと、イオは苦痛をこらえながら答えた。
「行ける、けど」
「俺も、出血さえポーションで止めれば何とか。くそ。四肢の欠損をどうにかするポーション、手に入れておくべきだった」
佐伯さんは言うが、どう見ても無理だ。
「よし。ヒドラポーションは1本あるから、佐伯さんが使って下さい。逃げるのにも、足だから。で、盛田さんの盾とハルの傘の陰に入りながら転移石まで行こう」
ハルの傘は、その場から動くと消失する。なので、ハルは盛田さんの盾をうまく利用して動き、傘を広げないといけない。
「シュウは!?」
「お前らが転移石に着くまではあいつの気を引いて、それからそっちに飛び込むよ」
途端に反対するような声が噴出する。
「君が?あの羽の集中豪雨の中を?無理だろ。俺がやる」
細川さんが異論を唱える。
「でも、忍だって。あの風よ?全員飛ばされたのよ?」
一条さんが心配そうに言った。
「俺ならどうにかなりますよ。たぶん」
俺が言うと、佐伯さんは目を眇めた。
「もしかして、この盾みたいなものか?これは何だ?」
「まあ、詳しくは後で。
ええっと、風で軌道を変えながら壁の向こうに誘導して、そこで足に火を叩きつけて燃やす」
言った時、空中に線が入った。ハルのバリアにひびが入ったのだと、瞬時に気付いた。
「時間がない。これしかないでしょう」
佐伯さんはハルのバッグに入れてあったヒドラポーションを飲み、チサはイオに肩を貸しながら立ち上がった。佐伯さんが緑色の光に包まれ、欠損した足が生える。
それで俺は、クジャクがイライラとしたように鳴き声をあげた隙に飛び出して、顔に火の弾を投げつけた。
「マホオーン!!」
クジャクは一声上げると、怒り狂ったようにドスドスと足を踏み鳴らして俺を目で追い始めた。
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